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56 冷たい視線の先


「ここはアクリム国の領土の街。そして貿易がとても盛んでもあるウェイシという街ですよ」


 アクリムの街着いた4人は、宿を取り、そのまま飲食店で食事をとることにしたのだが……


「まさか……隣の国でガルドのおっちゃんに会うとは思わなかったよ」

「それは私もですよ」


 ガッハッハと大きな声で笑いながら、隣のテーブルで食事をとっているガルド。しかし、次の瞬間には真面目な表情となり、ワインを一口含んだ。


「……しかし、まさか戦争に……そして魔女が現れるとは思いませんでしたな……」

「会長でも分からなかったんですか?」


 商人の会長ともあれば、戦争の兆し……武具や薬、そして食料の調達など……そう言ったものの動きで読み取れそうでもある。ルシオは単純に疑問を口にしていた。


「いや……お恥ずかしい……。私たちロイヤル商会は、食料の調達や販売……最近は特にスイーツの製作や販売がメインとなっておりまして……。確かに王都への納品が増えたとは思っておりましたが……全く気がつかず……」

「初めて会った時も甘いお菓子を売りにきてたもんね」

「そうでしたな」


 そう言い、小さく笑うガルド。グラスに残る酒を一気に飲み干した後、悲しそうな表情で話を続けた。


「両国でお互い傷つけあうことはありませんでしたが……どんな理由であれ、この度戦争を仕掛けたのは我々の国です。幸い、私は商人として各国に貿易ルートを持っています。罪滅ぼし……というわけではありませんが……我が国やここで仕入れた食料を、アクリムで困っている近くの村に運ぼうと思っていたところだったんですよ」

「ガルドさん……」


 空になったグラスを見つめるガルド。ルシオは手を上げて店員を呼ぶと、同じ酒を2つ頼んだ。


「えっと……ルシオさん?」

「会長。その護衛、俺らにやらせてくれないか?」

「「「え?」」」


 その発言に全員が同時に声を上げる。もちろん、フィニスやニティアにもその気持ちはあったが、一応国の依頼で王都アクリムへ行く必要があるため、その言葉を出せずにいたのだ。

 フィニスがルシオに視線を送ると、ルシオもそれに気づき、ふっと笑った。


「俺たちは王都アクリムへ行かないといけないんだが……会長の言った通り、言わば俺たちは戦争をけしかけた敵国の人間だ。全員が全員歓迎なんてしてくれない」


 店員がグラスを2つ持ってきて、ルシオとガルドの前に置いた。


「だから、その警戒を解くための実績作りだ」

「なるほど、そう言うことですか」


 ルシオの発言にガルドが頷く。


「一応国の代表という名目とはいえ、さらに困っている自国の村人の為に働いてくれた人を、国としては無下には出来ないだろ?」

「なるほど……」

「あんた、たまにいいこと考えるわよね」

「ルシオさん、こう見えても一応ギルドのサブマスターでしたもんね」

「え?何それ。君たち俺の評価酷くない?」


 グラスを手に取るルシオ。


「それじゃ、依頼をしてくれるってことでいいか?」


 ガルドもグラスを取る。


「はい、是非ともよろしくお願いいたします」


カーン


 2人のグラスが店内に小さく鳴り響いた。



カタカタカタカタ……


「まずは山間部にあるディヴァイの村。その後は……隣町は大丈夫でしょうから、その奥にある森の中。海の見える丘……"星見の丘"の近くにある集落に行こうと思います」


 荷馬車を運転するガルドの隣で、ルシオがガルドに借りた地図を開きながら話を聞いている。

 フィニスがルシオの後ろからひょっこりと顔を出した。


「星見の丘?」

「確か……かつては観光の名所と呼ばれるほど綺麗な丘だったと聞いたことがあります」


 そのフィニスの疑問に、後ろからアルテアが答える。


「その通り、まさに絶景ですよ!ただ……」


 少しだけ不思議そうな顔をするガルド。


「ただ?」

「えぇ……途中の森や星見の丘に魔族が出没するようになり、危険を冒してまで行く人がいなくなってしまいましてね……」


 その話を聞いていたニティアが、指先に集めていた術式を解いて話に加わった。


「それじゃ、その近くの集落も危ないんじゃないの?」

「それが……不思議なことに、今は集落に直接的な被害はないんですよね……」

「ん?どういうことだ??」


 ガルドの言葉に訳がわからなくなり、混乱しはじめるフィニス。他の3人についても同様にすっきりしない答えに唸り始める。


「確か……10年くらい前から魔族が出没するようになり、当時は観光人や集落で観光業をやっていた方、そして冒険者等……実際に襲われたり……殺されたりと言ったことがあったらしいのですが……村を襲いに来ると言ったことは過去一度もないらしいんですよね」


 10年前という言葉に反応するフィニス。後ろに座っているニティアの方を振り向くと、ニティアも同様にその単語が気になったのだろう。フィニスと視線を合わせて小さく頷いていた。


「早速白髪の魔女の情報が手に入るかもしれねーな」



 ディヴァイの村では、みなガルドのことを知っているのだろう。すんなり受け入れてもらい、物資の配布を行っていたのだが……

 やはり他国、ましてや先の戦を仕掛けてきた国から来た、武器を手に持った人間。これだけでもこの村の人にとっては恐怖の対象になってしまう。

 ましてや、戦場で帰らぬ人となった家族からしたら、憎しみの対象となっても仕方がない。


 フィニス達は武器や防具をガルドの荷馬車の中に置き、ガルドの手伝いをしていた時、1人の怪我をした若者がフィニス達の前に足を引きずりながら歩いてきた。


「……」


 その光景に、ガルドの周りに集まっていた村人達の注目も集まる。

 罵倒されるのか……殴られるのか……どんな事をされるにせよ、それをニティアにぶつけさせるわけには行かない。そう思ったフィニスは、ニティアを庇うように真剣な表情で一歩前に出る。

 しかし、次の瞬間……


「ありがとうございました……」

「……え?」


 その若者はフィニス達に向かい、深くお辞儀をした。


「貴方は、あの時魔女に立ち向かってくれた……えっとフィニスさん?ですよね?」

「あ、あぁ……そうだけど……」

「それから、魔法使いのニティアさん」


 名前を呼ばれ、フィニスの後ろからひょっこり顔を出すニティア。


「えぇ……そうだけど……」


 2人の返事を聞き、再度深く頭を下げる2人。


「魔女を撃退してくれた貴方達のおかげで……私は生き延びることができました……本来、あそこにいる人間……全員が殺されていてもおかしくなかった……貴方達が立ち向かい、魔女を退けてくれたおかげです……本当にありがとうございました……」


 その若者の後ろには、小さな赤ちゃんを抱いた女性の姿が……その女性も一緒に深々と頭を下げていた。

 そのやりとりを見ていた村人達の表情が少しだけ変わる。先ほどまでフィニス達に浴びせられていた冷ややかな視線が少しだけ柔らかくなった。


「なぁ、にいちゃん……うちも息子がいなくなってしまってのぉ……薪割り……手伝ってくれんか?」


 村人達の中から、一歩前に出てきた老人が少しだけ寂しそうな顔でフィニスに訪ねてくる。


「……おう、いくらでも割ってやるよ!」


 にこやかな顔をしたフィニスが、老人と共に歩いていく。その瞬間、村人達の雰囲気が一変し、次々とフィニス達への依頼が殺到していく。


 ガルドは一度だけ大きく深呼吸をしたあと、1番奥のとっておきの商品を笑顔で子供達へと配っていった。

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