表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救い、そして滅ぼした魔女ニティア  作者: 月白
第2章〜 ギルドと白い影
PR
43/78

43 廃教会のアルテア


「え……?ルシオさん……?」


 声のする方を振り返るアルテア。灯喰病の時以来会っていなかったルシオの姿がそこにあった。


「なんでこんなところに?」


 ゆっくりと立ち上がり、ルシオの方に身体を向けるアルテア。


「それはこっちのセリフだって(笑)」


 こんなスラム街と化した廃教会に、女性がひとり祈りを捧げている。変な輩に見つかっていたら、大変なことになることは目に見えている。


「何があったんだ?」

「……」


 目を伏せて黙るアルテアに、ルシオは優しく微笑んだ。


「少し前に大怪我してさ」

「え……?!」


 顔を上げ目を大きく見開くアルテア。ルシオはまだ少し痛む肩に手を当てる。


「教会に治療しに行ったのよ。そんで、久しぶりにアルテアに会おうかなと思って、司祭の人に聞いたら……アルテアは少し前に聖光十字教会を除名になったって聞いてさ……」

「……えっと、その……」


 白いハビット。上半身は清潔を保っているが、膝が薄汚れている。こんなところで膝をついて祈りをしていたからだろう。また、髪の毛も以前あった時に比べパサついているのが見てわかった。


「とりあえずこんなところじゃなんだし、ギルドに行こう。そこでゆっくり話を聞くよ」

「……はい」


 にっこり笑うルシオと、少しだけ困ったように笑うアルテア。2人はゆっくりと教会を後にしていった。



 図書館のロビー。名のある人物を描いてあるのか、それともただ歴史が描かれた絵なのか……ロビーに飾られているたくさんの美術品。

 その中の一枚。嘲笑と題されたその絵は、燃え盛る家々の中で黒い影が笑っていた。

 そんな絵をぼーっとしながら見ているニティア。ふと気がつくと、後ろにはフィニスが同じ絵をまじまじと見ていた。


「どうかしたのか?」


 絵を見ながらフィニスが尋ねる。


「……私って……何なんだろう」

「……」

「私さ、ジャヌスさんに拾われる以前の記憶がないんだよね」

「……」

「なんか凄く怖かったって印象はあるんだけど、何も覚えていないの」


 フィニスがニティアに視線を向ける。


「俺はさ、ニティアの過去は知らないよ」


 振り向き、フィニスの顔を見るニティア。


「魔女狩りだって、歴代の魔女の色をした魔法使いの一族が迫害されてただけであって、別にその一族が魔女なわけじゃないだろ」


 目を大きく見開くニティア。


「見たんだ……あの文献」

「そりゃあんなに手をプルプルさせて見てた文献だし、気になるっしょ(笑)」


 冗談ぽくわらうフィニスに、ニティアも釣られてくすりと笑った。


「ノクスの一族とか、魔女とか、そんなの関係ないし。過去の記憶なんて別に要らなくないか?」

「……」

「俺が知ってるニティアは、別に黒髪の魔法使いでも、ノクスの一族の末裔でも、ましてや魔女でもないし。ただの甘いもの好きで負けず嫌い。そして、天才魔法使いのニティアだしな」


 ニティアは一度俯く。


 どうしてこの人は、今私が欲しい言葉をいつもくれるんだろう。

 どうしてこの人は、私のざわついた心をいつも落ち着かせてくれるんだろう。


「……なにそれ」


 少しだけ目尻に涙を浮かべながら、くすりと笑うニティア。それを見たフィニスもふっと笑う。


「腹減ったし、一度ギルドに戻って飯食わね?」

「……その前に本片付けなきゃでしょ」

「んじゃぱっぱと片付けてこようぜ」


 そう言って踵を返し、図書室の方へと足を運ぶフィニス。

 ニティアは再び見上げて絵に視線を移した。"嘲笑"の隣にあるイラスト。黒い背景の中、微かに色付いた世界の中で白い羽根をした女神が祈りを捧げている絵。


 タイトルは"最後の願い"


 視線を戻し、フィニスの後に続いて図書室へと向かうニティアであった。



 本を片付け、図書館を出た2人。

 昼食をとりながら情報を整理しようとギルドの方向へと歩いていると、目の前に見覚えのある2人が同じ方向へ歩いているのが見えた。


「おーい」


 後ろから声をかけるフィニス。その声に気付いたのか、目の前を歩いているルシオとアルテアが振り返った。


「お、フィニスとニティアじゃん。図書館帰りか?」

「やっぱりルシオとアルテアか」

「ちょっとお腹空いたから、ちょうどギルドに戻ろうとしてたのよ。それよりも2人でどうし……」


 ニティアがアルテアに視線を送る。


 髪がボサボサ。服装……特に膝が薄汚れており、少し乱れている。そして何より……アルテアの悲しそうな顔……


「あんた……アルテアに何したの……?」

「ん?まぁ廃教会でアルテアを見つけたから、半ば無理やり——」

「無理やり……?」


 ニティアの右腕付近に小さな起こりが見えたフィニス。


「ニティアさん?ここ街中ですよ?」

「大丈夫よ」


 スタスタとルシオの元まで歩いていくニティア。何故か少し怒っているようなニティアの顔に首を傾げるルシオ。


「……?ニティア、どうし」


ぽすっ


 ニティアのうっすらと輝く右腕がルシオのお腹に当たる。


「ん?」


 ニコっとルシオに笑いかけるニティア。次の瞬間……


ボン!


「ぐふぉっ!」


 ルシオのお腹に衝撃が走った。


「女の子に無理やりとか……最低」

「ルシオさん!大丈夫ですか?!」

「……なに……言ってる……の……」


 その場に倒れるルシオ。


「……え?」

「ルシオさんは1人で廃教会にいた私の身を案じて……ギルドでお話をしようとここまで連れてきてくれたんですよ……」


 慌ててルシオに回復魔法をかけるアルテア。フィニスはそんなことだろうなと思いながらニティアの元まで歩いていき、頭を叩いた。


「いたっ!」

「ちゃんと話を最後まで聞けよ……まぁルシオの言い方も悪かったけど」

「うぅ……ごめん……」

「ルシオにちゃんと謝れよ」

「……はい」

「……ってか……何したの?」


 叩かれた頭を摩りながら、上目遣いでフィニスを見るニティア。


「腕に魔力を込めて、ゼロ距離でその魔力を放出したの。まだ魔族みたいに魔力の長距離放出はうまくできないけど……」

「やだ怖い……」


 口から泡を吹いてピクピク痙攣しているルシオ。

 ニティアはアルテアの手の上に自分の手を重ね、ルシオの意識が戻るまで何度も謝罪の言葉を口にしていた。


 ギルド内


「……で……どうしたのアルテアちゃん……」


 青白い顔をしたルシオがテーブルを挟んだアルテアに尋ねる。

 ギルドでシャワーを借り、着替えを済ませたアルテアが俯きながらゆっくりと口を開いた。


「灯喰病の件……」

「灯喰病?それがどうしたの?」


 アルテアの隣に座っているニティアがキョトンとした表情でアルテアを見つめた。


「あの日以来、教会でお休みをいただいていたってお話をしたじゃないですか?」

「うん、いきなりの休みで暇になったって言ってたもんね」

「……私が教会に戻れない間に、色々と教会で変な噂を流されてしまいまして……」


 膝の上の握り拳に力が入るアルテア。


「あの依頼は、私に失敗をさせ、地位を奪うためのものだったみたいなんです」

「は?」


 ルシオの隣でパンを食べながら聞いていたフィニスの手が止まった。


「それなのに、成功して戻ってきた……それにより、私の地位が上がってしまうのではないかと危惧した上層部の一部が……灯喰病は私が蔓延させ、それを自分で治療して地位を上げようとしていたという話を教会内で広めていたようなんです」

「あれは魔族の仕業だったじゃん!」


 悲しそうに笑うアルテア。


「上層部がその話を認めてしまったら、私が何を言おうと無駄ですからね……派閥争いの多いあそこではよくある話ですから」


 黙って聞いていたルシオが、真面目な表情でアルテアを見る。


「で……アルテアはどうしたい?」

「……」


 少しの間。考えをまとめるかのように、少しずつ口を開く。


「私は別に……それで追放されたこととか、内部の内輪揉めに巻き込まれたこととかはどうでもいいんです。ただ……」


 アルテアの言葉を待つ3人。


「物心ついた時から教会で祈りをして過ごしていましたから、他の生き方がわからないんです」


 顔を伏せるアルテア。いつの間にかパンを食べ終えていたフィニスがアルテアの方に身体を傾けた。


「アルテアはアルテアだし、教会にいようがいまいが、好きに祈って好きに生きたらいいじゃん!って言うか、俺には権限ないけど、このギルドに来たらいいんじゃない?」

「おい、それは権限のある俺が言おうとしたセリフだぞ」


 くすりと笑うルシオ。


「……いいんですか?」


 うるうるした瞳で2人を見るアルテア。


「大丈夫でしょ!アルテア来てくれたら私も嬉しいし!」


 そう言いながらアルテアの手を取るニティア。本心の言葉ではあるが、フィニスが言っていたアルテアはアルテアというセリフ。つい先ほど自分にも言ってくれていたセリフ。特別なものだと思っていたのに……と一瞬だけもやっとしたが、まぁその優しさがフィニスのいいところでもあるのかと納得をし、フィニスに優しく笑いかけるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ