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世界を救い、そして滅ぼした魔女ニティア  作者: 月白
第2章〜 ギルドと白い影
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38/78

38 黒い剣


ガキーン!


 ニティアへ向けられた魔族の剣を、寸前のところでフィニスの剣が受け止める。


『なかなかやるのぉ……』

「そりゃどうも……!」


 魔族の剣に押し込まれながら、魔族の胸元のコアを確認するフィニス。

 やはり、うっすらと白く濁ってはいるものの、ヒビひとつ入っていない。

 剣を受け止めた衝撃で痺れる手に力を入れ直し、相手の剣を押し返すフィニス。


「お前のコアは……あいつと違って欠けてないのなっ!」


 魔族の剣を弾き返した。


『なんじゃ……それも知っておるのか。それとも……またカマをかけたのか?』


 距離を取った魔族。

 ルシオがフィニスの前で盾を構え、ニティアが後ろから小さくつぶやいた。


「ありがとう……」

「お礼はこいつを倒してからだな……」


 視線を魔族から離さずに、フィニスが答えた。


「この前倒した、やたら上から目線で魔法を使ってくるヤツ。そいつのコアが白く濁って欠けてたもんでね。てっきりお前もそうなんじゃないかと思ったんだけど、違うみたいだな」


 魔族のコアを再度見るフィニス。ルシオも同じようにコアを見る。


「確かに、沼で倒した魔族もコアが白く濁っててボロボロだったな……」


 その言葉を聞いた魔族がニヤリと笑う。


『ほう……あの生意気なガノスと死霊使いホルスを倒したのか……』


 そう言い、剣を下ろし、もう片方の腕で顎をさする魔族。


『仲が良かったわけでもない。むしろ嫌いじゃった。当然……仲間意識も別に持ち合わせてはおらん。しかし……同じノクス様から作られた同胞』


 ゆっくりと剣先を上げる魔族。笑っているが、空気が変わった。


『敵討ちと行くかのぉ!』


 ルシオの目の前で剣を振りかぶろうとしている魔族。

 盾を構え、衝撃に備えるルシオ。フィニスはその瞬間のカウンターを狙おうと、ルシオの方へ走り込み、ニティアは術式を組み始めた。


ガキーン!


 心の準備ができていた分、弾き飛ばされはしなかったが、盾伝いに腕に走る衝撃は変わらない。苦痛に表情を歪め、槍を振るう余裕すら無かった。

 魔族が斬撃を繰り出した瞬間を狙い、フィニスが魔族に攻撃を繰り出す。


キィーン!


「んなっ!」


 先程までルシオの盾に阻まれていた魔族の剣が、フィニスの剣を受け止めていた。

 ふぉっふぉっと余裕そうに笑う魔族。


「フィニス!」


 後ろから聞こえたニティアの声。フィニスは受け止められている剣に一瞬力を込めた後、全身の力を抜き、相手の剣を受け流す形で自分の身を屈めた。


 その瞬間……


バチチッ!


 フィニスの背後から現れた稲光。


『!?』


 そのままニティアの魔法が直撃した。


「ナイスニティア!」

「こんな出力じゃダメ!立て直して!」


 距離を取り直す3人。


『ふむ……なかなかいいコンビネーションじゃのぉ。昔を思い出すわい』


 全く聞いている素振りもない魔族。


『お前、気持ち悪いくせに対して役に立たねーんだな』


 ニティアのローブの中に隠れていたリヴァレーが首元からひょっこり現れる。


「こんな場所じゃ強力な魔法なんて使えないでしょ!っていつの間にこんな所にいたのよ!」

『ボクだって好きでこんな硬くて気持ち悪い所にいたいわけじゃないよ』

「んなっ!!」

「おしゃべりはその辺にしろ!来るぞ!」


 魔族と対峙するフィニスとルシオ。ニティアは簡単な基礎魔法で牽制をすることしかできなかった。


(落ち着け……何かあるはず……建物やみんなに影響が出ないような方法……)


 部屋の中を流れる川が視界に入る。


(!!)


「ねぇあんた!あんたは1人じゃ魔法の具現化は難しいけど、スライムを流すくらいの水の操作はできるのよね?」

『魔力を具現化することはできないけど、それくらいならできるぞ』

「私の服の中見たんだから、力を貸して」

『そんな面白くもなんとも……』


 胸元の生き物を睨みつけるニティア。


『仕方がない。お前のこと好きじゃないから。一度だけな』


 胸元が熱くなるのを感じたニティアは、自分も術式を構築し始める。

 そして、再び距離を取って戻ってきたフィニスとルシオに作戦を伝えた。


「なるほどね、さすが天才ニティアちゃん!」


 魔族が剣を構える。

 ニティアが強い光を放つ魔法を生成し、その光から複数の雷の槍が魔族目掛けて飛んでいった。


バチチッ!


 しかし……


ヒュッ!


 剣を一振り。

 全ての魔法を打ち消した魔族はニタニタと笑っていた。


「だいぶ持っていかれたぞ……魔力もつかな俺……」


 そういい、再び魔族の元へ駆け寄る2人。

 ニティアは術式を構築し始めた。


 金属音が部屋中に響き渡る。2対1にも関わらず、こちらの攻撃は全て防がれ、逆に魔族の攻撃が少しずつ2人の体に牙を剥く。


『ふぉっ!老いぼれをもっと労ってはくれんかのぉ』

「どこにそんな機敏に動けるジジィがいるんだよ!」


 フィニスの斬撃を身体を捻って回避する魔族。


『ふぉっ!ジジィとは失礼な。ノクス様が名付けてくれた、ギースという名前があるんだがのぉ!』


 フィニスを蹴り飛ばし、盾を掻い潜ったギースは、ルシオの肩を切り裂いた。


「ぐっ!」

「ルシオ!」


 飛ばされながら叫ぶフィニス。


「大丈夫だ!まだ動かせる!」


 槍を持つ手に血が流れ込む。


『そろそろ幕引きじゃ!』


 ギースがルシオに飛びかかろうとした瞬間。


「今よ!」

『あいよ』


 リヴァレーの身体が強く光った瞬間、部屋を流れる川の水が上空に打ち上げられ、魔族目掛けて降り注いだ。

 ニティアが打ち上げられた水に手をかざし、魔力を込めると、打ち上がった水が大小様々な蛇へと姿を変えていく。


『!?』


 魔族がルシオから上空の蛇へと標的を変え、水の蛇を切り捨てるも、切った水蛇は斬られた箇所から分裂し、ギースの体にまとわりついた。


『やるじゃないか』


 ニティアの首元からリヴァレーが覗き込む。


「ここからよ」


 ニティアが笑う。


 蛇が纏わりつき、一瞬身動きが止まったギースの目の前に、フィニスが斬撃を繰り出す。

 ギースが剣でフィニスの剣を受け止めるも、身体中に巻き付いた蛇のせいでうまく身体を動かせず、フィニスの剣をただ受け止めることしかできずにいた。


『むむ』


 血だらけの腕で槍を構えたルシオがギースの正面に現れる。


「持っていきな!」


 バチチッっとルシオの槍が放電する。


キィーーン!


 眩い光と同時にルシオの槍の突きが、無防備なギースのコア目掛けて放たれていった。


ドゴーン!!


 もくもくと巻き上がる砂煙。3人は再び距離を取り、煙の先を見つめていた。


「ニティア……お前魔力どうなってるんだよ……」


 息を切らしながらニティアに笑いかけたルシオが、ぶら下げている袋から小さな小瓶を取り出して飲み干す。腕からの血が止まり、腕をクルクル回し始めた。


「距離が近いほど威力が増す高電圧の魔法。術式構築に時間もかかるし、近距離じゃないと使えないから、あまり使ったことないけど、ルシオにピッタリだと思ってね」

「ルシオの武具を利用したナイスアイデアだったな」

『バカ!油断しすぎだ!』


ヒュン


 ニティア達の間を黒い斬撃が通り過ぎ……


ズガン!


 後ろの壁に一筋の斬撃跡が残る。


『まさかこの場所で……ここまでやられるとは思わなんだ……』


 右肩から先が吹き飛んでいるギース。キズひとつない胸元のコアから黒い煙が漂い、左手に持つ剣へと集まっていた。


「あれで倒せねーのかよ…….」

「冗談でしょ……」

「もうさっきのやつやれるほど魔力残ってないぞ」


『50年前。ノクス様の城で対峙した人間に追い詰められてのぉ……その時はジャヌスとか言う若造の大規模な魔法に手を焼いたんじゃ』


 その場で剣を振るうギース。盾を構えていたはずのルシオが歪んだ黒い斬撃に斬られ倒れる。


「グッ……」

『そして10年前。ノクス様と共に訪れた村では、白髪の魔法使いにノクス様を殺され、ワシも深手を負わされた』


 再び剣を振るうギース。斬撃を受け止めようとした剣が折れ、吹き飛ばされ、そのまま意識を失うフィニス。


「ガハッ」

『ワシの敗因。それは広い場所で強力な魔法を使われたことじゃ……つまり、こう言う狭い場所での接近戦ならば、負けるはずがない……そう思っとったんじゃがの』


 ニティアへと近づいてくるギース。


「……っ!!」


 術式を構築し、氷の刃を生成するニティア。


『考えを改める必要があるのぉ……とりあえずは』


 無数に生成した氷の刃をギースへと飛ばす。

 しかし、ギースは剣すら振らない。剣にまとわりつく黒いオーラが鞭のように動き回り、氷の刃を全て打ち砕いた。


『お主の魔力で失った魔力の回復をするとしようかのぉ』


 ギースが剣を振る。黒いオーラがニティアへと飛んでいく。

 ニティアを捉えるためなのだろう。フィニス達へ放った黒い斬撃とは異なり、速度も鋭さも無かった。

 ニティア自身、その黒いオーラに捕まるとやばいことは分かっていたため、魔法を次々に打ち込み、黒いオーラから逃れていた。


『ふぉっふぉっ、やるのぉ……じゃが……そろそろワシも疲れたでな。しまいにするぞ』


 黒いオーラの速度が上がり、ニティアの両足と両腕を貫く。


「うぐっ!」


 魔法の打ち込みが止まったニティアを、黒いオーラが纏わりつき、身動きが取れなくなる。


『おい!大丈夫か!』


 首元から顔を出すリヴァレー。


「出てこないで!」


 ニティアがリヴァレーに向けて叫ぶも、顔を出したリヴァレーは黒いオーラに弾かれ、吹き飛ばされてしまった。


『うぐぅ!』


 動けない身体で周りを見渡すニティア。もはや動くものはギース以外いなかった。


『それじゃ……終幕じゃ』

「きゃーー!」


 黒いオーラから全身に伝わる痺れるような苦痛。それと同時に自分の魔力が吸われていくのがわかった。


『お主の魔力……なんと素晴らしい……量もそうじゃが、もしやその魔力は……?!』


スパッ!


『!?』


ドサッ


 その場に倒れ込むニティア。


 どこからともなく現れた白い斬撃が、ギースの黒いオーラを断ち切っていた。

 ギースが驚き、何事かと辺りを見回すと……部屋の上空には両手に白い剣をぶら下げた謎の存在。


『……』


 全身白い防具に身を包んだ白髪の男が、部屋の上空から静かにギースを見下ろしていた。

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