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世界を救い、そして滅ぼした魔女ニティア  作者: 月白
第2章〜 ギルドと白い影
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23 荷馬車の中の小さな笑顔


カタンカタン……カタンカタン……


 荷馬車を運転する商人と、その隣に座っているフィニス。後ろの荷台から顔を出しているニティア。

 車輪に合わせて、荷台の揺れる音が響いていた。


「そういえばおっちゃん」

「何ですか?」

「おっちゃんは何であの街にいたんだ?」


 昨晩は自分たちの話ばかり。商人の話を全く聞いていなかったため、純粋な疑問を商人にぶつけるフィニス。


「あ〜それはコレですよ」


 そう言い、懐から見覚えのある小さな箱をひとつ取り出した。


「それって……」


 後ろからニティアが箱を覗き込む。


「はい。王都で流行っているお菓子です。先日助けていただいた時に運んでいたものと同じです。王都でもかなり人気で貴重なんですよ」


 そう言って、ニティアに箱を渡す商人。


「以前助けてもらった時に、お礼が出来なかったのがあまりにも歯痒くて……それ以来、少し多めに仕入れて、何かあった時に渡せるようにしているんです。どうぞ、ニティアさん」

「え?いいんですか!?」


 目を輝かせるニティア。早速箱を開けて中身を取り出そうとしている。


「いいのか?昨日からいろいろしてもらってばっかりで……」

「何をおっしゃいますか!これでも足りないくらいですよ」


 パクッとお菓子を食べるニティア。


「むっふー♪」


 久々に見たニティアの笑顔。それを見て心が少し軽くなったのか、フィニスも肩の力が抜けて行くのがわかった。


「おっちゃん、ありがとな」

「いえいえ、お互い様ですから」


 そう言い、お互いくすりと笑いながら道なりに進んでいった。



「先日の雨のせいですな……」


 商人の声に、フィニスとニティアが荷馬車から顔を覗かせる。

 目の前には何本かの柱を残し、無惨にも壊れている橋。

 その壊れた橋の前には、川を渡れずに立ち往生している人たちで溢れていた。


「よりによって何で……」

「おかあさん早く帰りたいよ」

「別の橋って、ここからだいぶ上流だよね……」


 橋の前で困惑している人たち。

 そんな中、行商人が荷馬車にいるニティアを見た。


「ニティアさん。先日私を助けてくれた、浮遊……じゃなくて飛行魔法でしたかな?あれで向こう側へ行けますか?」

「え?全然行けますけど」

「荷馬車も?」

「はい」


 その答えににっこりと笑う商人。


「それでは……お願いできますかな?」


 その言葉に戸惑うニティア。

 商人は全然問題ない。周りにいる人たちが、自分の魔法を見てどうなるのか……それが気になっていた。

 隣のフィニスを見る。


「お前に任せるよ」


 そう言って笑っていた。

 それと同時に……ふと、憧れの人の言葉が脳裏をよぎる。


(あなたなら、きっと大丈夫)


 ニティアは、商人に笑顔を向けた。


「任せてください!」


 そう言い、荷馬車から降りるニティアとフィニス。

 商人は落ちないよう、荷馬車の中に入っていく。


 それを確認したニティアは、ゆっくりと魔力を込めて、荷馬車を浮かび上がらせる。


「え…?魔法?」

「浮いてる……?」

「まさか……あっちまで飛ばす気?そんな魔法あり得ないでしょ……」


 ざわつく人たち。ニティアは気にせずに、ゆっくりと川の反対側まで荷馬車を飛ばしていった。


「何今の魔法……!」

「もしかして魔族?」

「え……すごい。私たちも運んでもらえるかな?」


 様々な反応。イラッとする声も聞こえたが、フィニスは大きく深呼吸をして自分を落ち着かせた。

 そんなフィニスを見て苦笑いをしながら、ニティアは身体を人だかりの方に向ける。


「もしよろしければ……私があちらまで運びます。希望する方は声をかけてください」


 そう優しく声をかけた。

 するとすぐに……


「あの、私たちもお願いしていいですか?」

「俺も!ちょっと急いでいるので!」


 一部の人たちを除いてゾロゾロとニティアの前に人が集まってきた。


「順番に運びますので、並んでいてください。あ、では最初の方……準備はいいですか?」


 そんなやりとりをしながら、一生懸命に人を運ぶ。

 ひと通り希望者を運び終わり、残っている人たちは……


「一度にあんなにたくさんの人を……」

「すごいけど……気持ち悪い……」

「あいつ魔女と関係が?何か企んでるのか?呪いとかかけられたくないよ」


 こういう人ばかり。

 そんなことを言っている人たちに、いよいよ怒りが爆発しそうになり、詰め寄ろうと一歩足を動かしたフィニスを、ニティアが笑って止めた。


「大丈夫だよ」


 そう言って笑う。


「みなさん……はは……ちょっと気持ち悪いですよね。こんな魔法。でも、私はただみなさんの役に立ちたいだけです。あ!もちろん、無理やり飛ばしたりはしませんので安心してください!」


 そんなことを言うや否や、川の反対から商人が叫んできた。


「ニティアさん!ありがとうございます!先を急ぎましょう!」


 先ほどまでニティアへ悪口や不満を言っていた人たちが、そんな商人を見て顔色を変える。


「あの人……王都のロイヤル商会の会長じゃ……?」

「え、あの人の知り合いなの?!」

「じゃ〜悪い人じゃないのかな……?」


 そんなことを言っている人たちを殴りたくなるような衝動に駆られるフィニス。しかし……先生はこういう世界を、ずっと見てきたんだろうな。そう思ったら、自然と拳の力が抜けていた。


 そして結局、全員を川の反対側まで運んだニティア。

 最後にフィニスとニティアが渡ると、小さな子供がニティアに駆け寄ってきた。


「まほうつかいのおねえちゃん!はこんでくれてありがとう!たのしかったから、またやってね!」


 笑顔でニティアにお礼をいう子供に、ニティアも満面の笑みでしゃがみながら子供の頭を撫でた。


「ありがとう♪また会えたらやろうね♪」

「うん!」


 そう言って親の元へ戻っていった。

 その先にいた親たちも、ニティアと目が合うと、深々とお辞儀をしていた。


 それを見ていた最後に運ばれた人たちも、ニティアに向けて各々お礼をいう。多少不満や畏怖の表情が顔に出ている人もいたが……それでも悪口ではなく、お礼。

 それだけでもニティアの心は暖かくなっていた。


「よかったな」

「私も……ちゃんと助けられたよね」

「そうだな」


 笑う2人の空気を無視して、商人が荷馬車ごと駆け寄ってきた。


「お二人方!夕方には商談があるので、早くいきますぞ!」


 再び荷馬車に乗り込み、3人は急いで王都へと向かっていく。

 ガタガタと揺れる荷馬車の中では、ニコニコ顔のニティアが、商人からもらったお菓子をひとつ食べていた。

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