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世界を救い、そして滅ぼした魔女ニティア  作者: 月白
序章〜 暖炉の火と紅茶の匂い
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20/78

20 雨上がりの篝火


 ジャヌスの部屋の前で待っているフィニス。


ガチャっ


 目を腫らしながら、ニティアが部屋から出てきた。


「……どうだった」


 小さくこぼすフィニス。


「ちゃんと綺麗にしてあげた。目立った傷はどこにもなかったけど……」


 目に涙を浮かべ、鼻を啜るニティア。


「胸元に小さな水ぶくれがあった」

「……水ぶくれ?」


 ニティアは俯きながら答える。


「……感電した時とかにできるやつ」

「……魔法か」


 フィニスの問いに首を小さく振るニティア。


「ありえない。ジャヌスさんのローブはかなりの魔法耐性がある。それに……例え普通の服を着ていたとしても……ジャヌスさん自身の魔法耐性が高すぎて、こんなピンポイント……しかも他の場所に一切損傷を与えずに電撃魔法で……無理だよ……」


 力なく答えるニティアに、魔法のことが分からない自分にイラついたフィニスが、つい声を荒げる。 


「じゃあなんで!」

「そんなの分からないよ!!」


 フィニスの大声に反応し、ニティアも叫ぶように答えた。


「わからないよ……」


 ポロポロと涙をこぼすニティア。

 大声を出してしまった自分をぶん殴りたくなったフィニス。


 大きく深呼吸をした。


 怒りが収まらない。


 リビングを見渡す。

 争った形跡もない。いつものリビングのまま。

 しかし……テーブルの上には空になったカップが2つ……

 約束があって誰かに会うと言っていた……

 そいつが先生を………?


 分からない……


 でも……もしそうだとしたら……


 絶対に見つけ出して……


 殺してやる……


 力の入ったフィニスの握り拳からは血が出ていた。


 その瞬間……


【魔族から王都を救った英雄】


【ニティアのこと、頼みますね】


 英雄の記事が脳裏に浮かび、

 賢者の声が聞こえた気がした。


 手からは力が抜け、血だけが床に滴り落ちる。

 

 身体の中に燻っていた黒い感情が薄れていったのが分かった。


 血のついた手をズボンで拭き、フィニスは俯いたニティアの方に身体を向ける。


「ニティア。俺、この家出ようと思う」


 その発言に大きく目を見開き、フィニスを見返すニティア。


「え……」


 小さな声が漏れていた。


「多分……先生が今朝、約束で会うって言っていた人。先生を殺した人がその人かどうかは分からない。でもきっと、何かは知っているはず。その人を見つけて、先生を殺した人を見つけ出して……ぶっ殺してやりたい……。そういう気持ちもある……だけど……それは絶対に先生は望んでいないと思うんだ」


 顔をあげているニティアを優しく見つめるフィニス。


「だから、俺は先生みたいに……世界を見てまわりたい」


 ニティアの目からは涙がこぼれ落ちる。


「私……またひとりぼっ……」

「だから……」


 ニティアの言葉にフィニスが言葉を重ねる。


「一緒に行こう」


 再び大きく目を見開いたニティア。


「……わたしも……いっていいの……?」

「あぁ」


 大きく鼻を啜るニティア。


「し、しょうがないわね……どうしてもって言うなら一緒に行ってあげる」


 俯きながら、小さく答えるニティア。


「先生に子守り頼まれたからな」

「なっ!」


 目を合わせた2人は、同時に小さくと笑っていた。



 雨も上がり……暗闇に包まれた森の中。

 虫の音が鳴り響く。


 薪や藁の上に置かれた、簡単な棺。


 そこには、2人にとって大切な人が眠っている。


「……さようなら、ジャヌスさん」


 術式を組み、指先に魔力を込める。


 ニティアが1番最初に教えてもらった基礎魔法。


 震える指先から、小さな炎が点くも……ゆらゆらと揺れ、消えてしまう。

 もう一度魔力を込め、炎が点くも……今度は自分の涙で消えてしまった。


 松明を持ったフィニスが、ゆっくりとニティアに近づく。


「予想外の出来事が起こった時……今一度落ち着くこと。お前には、どんな困難だって乗り越えられる力がある」


 ジャヌスがフィニスに向かって言っていた言葉を、優しく投げかける。


 ニティアの震えが止まっていた。


「お子様ひとりに見送らせたら、先生に怒られるからな」


 ニティアの肩に手を添えたフィニスは、持っている松明をゆっくりと棺に近づける。


 泣きながらニティアも魔法で指先に火をつける。


 しかし、今度の炎は……小さいながらも力強く燃えていた。


 2人で同時に火をつける。


「私……お子様じゃないもん」


 大粒の涙を流し、泣きじゃくるニティア。


 まっすぐに揺らめく炎を眺めるフィニス。


「先生は、よく王都で色々調べ物とかしてたからな……」


「……ぐすっ」


「まずは王都」


 ニティアの頭を優しく撫でる。


「……ふわふわのパンケーキ……食べに行くか」


「……うん」

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