2 紅茶と喧騒
森の呼吸が聞こえてくるような静寂。
窓辺の小さなテーブルに陣取り、本を読んでいる女性。
爽やかな空気の中、温かい紅茶をすすっていた。
ふと、ページをめくる手を止めて、扉の方を眺める。
「はぁ……」
大きなため息をつき、本を閉じる。
ゆっくりと立ち上がり、ポットで湯を沸かすと、テーブルの上に2つのカップを並べた。
遠くから賑やかな声が近づいてくる。
次の瞬間……
バン!!
「獲物は俺の方が大きかったから俺の勝ちだな!」
まだ少年らしさの残る男が、肩に剣を乗せながら入ってきた。
「はぁ?!本気出せばあれくらいのやつ、私でも余裕で狩れるんですけど?」
男と同じくらいか、少し年下。腰まで伸ばした黒に近い紫色の髪をした女の子が両手に杖を携えて入ってくる。
「負け惜しみ乙!」
「ムキーーー!!!」
そんなやりとりをしている2人を見ながら苦笑いをする女性。
「フィニス、ニティアを煽るんじゃありません。それに、ニティアも。これを飲んで、少しは落ち着きなさい」
テーブルの上のカップに紅茶を注ぎ、2人へ差し出し、ニティアと呼ばれた女の子がカップを手に取る。
「ジャヌスさん。魔法の使用制限を少し緩めてはダメですか?」
紅茶をすすりながら女性に問いかけた。
「ニティア……何度も言いますが、狩りに必要な魔法はそれで充分です」
ジャヌスの答えにしょぼくれるニティア。次の瞬間にはにやにやしているフィニスを睨みつけていた。
その視線に気付いたのか、紅茶を一気に流し込むフィニス。
「じゃ〜先生!俺ちょっと今日の獲物の整理してくるわ!」
そう言い、足早にその場を離れていく。
フィニスが閉めたドアに向かって、ニティアはあっかんべー、と舌を突き出していた。
そんな様子を見ていたジャヌスはくすり笑う。
「本当に仲がいいですね」
「べ、別にそんなんじゃないです!フィニスがからかってくるから……!」
そんなニティアの反応を見て再び目を細める。そんな反応をされたら、つい甘やかしたくなってしまう。これは親の性なのだろう。
「私は、魔法の種類と出力の制限をかけるようには言いましたが……フィニス。狩りでは何の魔法を?」
「えっと……電撃魔法ですけど?」
電撃魔法。雷のような速さで走る魔法。確かに狩りをする上で最適な魔法の一つだ。
しかし、出力制限により、大きな獲物の場合は内部まで力が届かずに、表面を電流が流れるだけ。制限された電撃魔法の力だけでは、大物を仕留めきることは難しい。
だがジャヌスは、ニティアがその魔法を選んだのが別の理由であることにすぐ気がついた。
「苦しみを与えないよう……一瞬でとどめを刺す為……ですね?」
その言葉に驚くニティア。
「それも……あります……」
「本当に優しいですね」
そう言って、ニティアの頭を撫でるジャヌス。
「では、ここでひとつアドバイスです。別に使用できる範囲であれば……複数の魔法を使うことは問題ありません」
「電気が流れやすい状況を作るには……?」
ジャヌスの言葉に目を大きく開けるニティア。
「そうか……水魔法で体表を濡らしたり、金属片を作り出して打ち込めば」
「御名答」
少しのヒントで、すぐに答えにたどり着く。ニティアがすぐ答えることが分かっていたかのように、即座に反応するジャヌス。
「ありがとうございます!ジャヌスさん!」
少し照れながらも、満面の笑みでジャヌスを見つめるニティアに、ジャヌスも微笑みを返す。
「あいつ……次は覚えてなさいよ!!」
そんなことを言いながら振り返り、部屋を後にするニティア。
2人がいなくなり、急に静寂に包まれる室内に、ジャヌスはまた苦笑いをし、読み途中であった魔導書に手を伸ばしていった。




