【十四人目】 俺が拾ったモノは彼女の大事なモノで俺にも大事なモノでした
「あれ?」
俺はある日の朝、マンションの玄関のドアの前に鍵が落ちているのを見つけた。
学校に遅刻しそうだったから、鍵を放置するのもダメだと思い、鞄に入れた。
学校から帰ってきてから管理人に渡そうと思った。
それから一日がいつものように何もなく終わる。
いつものように家へ帰り、鍵を鍵穴に入れて異変に気付いた。
「あれ?」
鍵穴に鍵が入らない。
「あっ、朝に拾った鍵の方だ」
同じような鍵だから、やはりこの鍵はこのマンションの鍵だろう。
誰かが落としたのだろう。
落とした本人は困っているだろう。
早く管理人に渡そうと、管理人の部屋へ行こうとした時、前から女の子がバッグの中を見ながら歩いてきた。
「ないよ。何で? ここにいれたのに」
彼女は何かを探しているようだ。
彼女は俺の部屋の隣のドアノブを回している。
隣に住んでいる人は、ちょっと怖そうな男の人だったはず。
それなのに、こんなに若い女の子も住んでいたんだ?
どんな関係なんだろう?
恋人なのかな?
「もしかして鍵を探してます?」
「えっ、何でそれを?」
「朝、鍵が落ちていたので」
俺はそう言って彼女に鍵を渡す。
「私の鍵?」
彼女は自分の部屋の鍵穴に、鍵を入れると鍵が開いた。
「ありがとう。可愛い高校生に助けてもらっちゃった」
「可愛いってあなたも俺と同じくらいですよね?」
「えっ、それって本気で言ってるの?」
彼女は疑うような目で俺を見る。
「えっ、もしかして俺より年下ですか?」
「待って、ちゃんと私を見てよ」
彼女はそう言って俺に顔を近づける。
こんなに近くで女の子の顔を見たことがない。
「ねぇ、分かる? 私は君よりずっと年上よ。お肌がピチピチな君とは違うでしょう?」
「そんなの俺には分からないです」
「それなら、私が年上の証拠を見せるわ。ほらっ、ここにほうれい線があるでしょう?」
「そんなに気にするほどのほうれい線はないですよ?」
「気にするわよ。私は君と十歳は違うのよ?」
「それでもあなたは若く見えます」
「若くないもん」
彼女は嬉しそうな顔はしていない。
年齢より若く見えるのは、女の子には嬉しいことだと同級生の女の子が言っていたのに。
「若く見られるのはいいことじゃないんですか?」
「嬉しくないよ。いいことなんてないからね」
「そうなんですか?」
「お酒とか買う時は年齢確認は必ずされるし、学割がある映画館では、学生証があれば学割するよなんて言われたり、この前あったのが気持ち悪いおじさんに、君は高校生かなあって声かけられたのよ」
彼女は怒りながら言っている。
そんな彼女が可愛くて笑ってしまった。
「何で笑うのよ? 私は困っているのよ?」
「だってあなたが可愛いからです」
「もう。年下に可愛いって言われたくないわよ」
「年齢は関係ないですよ。あなたは可愛いんです」
「もう」
彼女は照れながら頬を膨らませて言った。
「おい、何してんだよ?」
いきなり俺の後ろから男の人の声がした。
「あっ、もう帰ってきたの?」
「いつ帰ってもいいだろう? 俺の家なんだからな」
「そうだね」
彼女の表情からすると、お隣の男の人は恋人なんだと思う。
彼女は嬉しそうにしているから。
「誰? そのガキ」
「お隣さんだよ」
「あっそ。中に入るぞ」
「うん」
彼女の恋人は家の中へ入っていった。
愛想の悪い人だ。
すれ違っても挨拶なんてしない人だし。
「態度が悪くてごめんね」
「いいえ」
「鍵。本当にありがとうね」
「もう落とさないで下さいね」
「うん」
そして彼女も家の中へ入っていった。
どうして彼女は愛想の悪い人と恋人なんだろう?
彼女の恋人の悪口はダメだ。
彼女が好きなのだから仕方ない。
恋人は彼女には優しいのだろう。
◇
あの日から一ヶ月は過ぎたが、隣に住んでいる彼女と会うことはなかった。
あの日が初めてで、今まで彼女に会うことはなかったのだから、それが当たり前なのかもしれない。
しかし俺は、また彼女と話をしたいと思っていた。
可愛い彼女に会いたかった。
「ねぇ最近、彼を見た?」
「えっ」
俺が自分の家の鍵を開けようと、鍵を鍵穴に入れた時、隣の家のドアが開いて、彼女が顔を出した。
「そういえば、見ませんね。でも前から、ほとんど会わないので、俺からすればいつも通りですかね?」
「彼って気まぐれだから、私と会わない日が続く時があるの」
「あなたはそれでいいんですか?」
「仕方ないからね」
彼女は苦笑いをして言った。
仕方ないで済ませる彼女がすごいと思う。
俺だったら、会いに行くと思う。
そして相手の気持ちを確かめるよ。
「どうして彼の家に来たんですか?」
「どうしてだろう? 最初は会いたくて来たけれど、三日この家で待ってても、彼は帰ってこないの」
「俺は恋愛なんてほとんどしたことはないけど、でも好きだったら会いたくなる気持ちは知ってるよ?」
「うん、、、」
彼女は気付いているんだ。
彼は彼女を必要としていないことを。
それでも彼を信じたいという気持ちがあることを。
「俺はあなたの幸せを願います」
「えっ」
「あなたが幸せなら俺は嬉しいので」
「私の幸せは、、、彼と一緒にいること」
「一緒にいるだけでは足りないですよ。心も一緒にいなければ満足しませんよ?」
「あっ」
彼女は目を見開いて俺を見た。
まるで何かに気付いたような顔だった。
それから彼女は彼に電話をすると言ってドアを閉めた。
少し待ったが、彼女は出てこなかったから俺は家へ帰った。
それから彼女と彼はどうなったのかは分からない。
◇◇
ある日、彼女が俺の家の前に座っていた。
「どうしたんですか?」
「私は落とし物」
彼女は体育座りをして膝で顔を隠してそう言った。
「俺はどうすればいいんですか?」
「拾ってよ」
「えっ」
「あの日の鍵と同じように私を拾ってよ」
「鍵と人は違いますよ。それに人を落とし物なんて呼びませんよ?」
「私は落とし物」
「何が言いたいんですか?」
「私は落とし物」
「落とし物だってことは分かりました。だから話して下さい」
俺が何度も彼女に訊いても彼女は落とし物としか言わない。
彼女は本当に俺よりも年上なのだろうか?
まるで子供のようだ。
「それなら拾いますから何があったのか教えて下さい」
俺は体育座りをしている彼女の頭を撫でて言った。
「私を拾ってくれるの?」
彼女は顔を上げた。
泣いていたんだろう。
目が赤くなっている。
「あなたは落とし物なんですよね?」
「うん」
「誰の落とし物ですか?」
「えっ」
「誰の落とし物ですか? 誰に返さなければいけないんですか?」
「私は落とし物じゃなくて忘れられた落とし物」
「忘れられた落とし物?」
「持ち主に忘れ去られた落とし物なの。だから持ち主はもう、いないわ」
「あなたは本当に可愛いが似合う人ですね」
「可愛くないの。私は可愛くない。可愛いなんて言葉はいらないの」
彼女は前に座っている俺の体を押した。
力の弱い彼女に押されても俺の体は動かない。
すると彼女は両手で俺を叩く。
「えっ、何? そんなに嫌なんですか?」
「嫌よ。だって私は可愛いじゃ勝てないから、、」
「勝てない?」
「私は可愛いじゃなくて、大人の色気がある女性がいいの」
「恋人と何かあったんですか?」
「そうよ。彼が私を捨てたのよ。色気のある女の子を選んだの」
彼女は泣きそうになりながら言う。
「それって浮気されたってことですか?」
「違うの。私は二番目で私が浮気相手だったのよ」
「それで落とし物になったんですか?」
「そうよ。だって私が浮気相手だったなんてムカつくじゃない」
「えっ」
「どうして気付かなかったんだろう?」
「気付かなかったんじゃなくて、気付こうとしなかったんですよ。好きだったから」
俺の言葉に彼女は泣きだした。
ヒドイ相手にイライラして、そんなヒドイ相手を信じようとした自分にイライラしたから。
でも一番は、やっぱり彼が好きだったから、別れることの寂しさ、悔しさ、悲しさがあったから。
彼女は泣いたんだ。
「俺はあなたを拾って、あなたを誰よりも一番に愛します」
「君はまだ高校生だよ? 私よりも若い女の子はたくさんいるよ?」
「俺はあなただけを一番に愛します。あなたは?」
「私は、、、」
彼女は考えているのか黙った。
沈黙が続く。
「私は落とし物」
彼女はまた変なことを言いだした。
「ちゃんと答えて下さいよ」
「私は落とし物」
彼女はそう言って俺を見つめる。
「俺はあなたを拾います」
「私は落とし物。君が高校を卒業したら拾ってくれる?」
「どういう意味ですか?」
「君の気持ちが変わらないのなら、拾ってよ」
「俺の気持ちを試すってことですか?」
「私の気持ちもね」
彼女はそう言ってウインクをした。
仕草も、顔も、身長も、体の大きさも俺の年上には見えない彼女。
可愛い彼女。
「一言だけ言わせてもらいますが、卒業式まで半年ですからね」
「えっ」
彼女は驚いている。
その驚き方は俺を一年生とでも思っていたんだろうか?
俺も彼女と同じで若く見られるのは嫌みたいだ。
◇◇◇
「ねえ、私を拾って」
卒業式が終わり家へ帰ると、彼女はそう言って俺の家のドアの前に座っていた。
「いいけど、もう落とさないよ?」
「うん。だって私は君の物だもん。もし落としても、君の元へ届くんだよ」
彼女は俺に向かって両手を広げた。
俺はそんな彼女をギュッと抱き締めた。
「私は落とし物。持ち主はあなただよ」
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、母親から婚約者がいることを知らされる高校生の男の子の物語です。
彼の婚約者は人気アイドルの女の子でした。




