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恋愛小説短編集~ハッピーエンドストーリー~  作者: 来留美


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【十五人目】 婚約破棄はします~顔も知らない人とは結婚できないが知っていれば結婚する訳でもない~

「あなたには婚約者がいるからね」

「えっ」


 俺は高校生になった日に母親にそう言われた。

 婚約者?

 そんな話、今までしてなかったよな?


 えっ、俺の気持ちは?

 俺に相談も無しなのか?

 勝手に決めるなよな!


「可愛い女の子だから心配しないでね」

「可愛いとか関係ないんだけど」

「それなら痩せてるから結婚しても食費は、そんなにかからないわよ」

「結婚する前提かよ?」


 俺の母親の頭の中では俺はその婚約者と結婚しているんだろう。

 迷惑な話だ。


「じゃぁ孫は女の子がいいなぁ?」

「そっちはもっと後の話だろう?」

「何なの? 何が気に入らないの?」

「婚約者」

「だから可愛いから大丈夫よ」

「婚約者の顔も知らないのが問題なんだよ」

「顔なら知ってるわよ。あの子よ」


 俺の母親はテレビを指差す。


「テレビが婚約者?」

「違うわよ。テレビに映っている子よ」

「えっ」


 今、映っているのは最近、人気がでてきたアイドルの女の子だ。

 彼女が人気になったのはCMだ。

 彼女が一人二役をして飲料を勧める設定だ。


 彼女の一人二役が、あまりにも別人に見えるような演技で、そんな彼女に名前がついた。


『奇跡の二人』


 彼女は一人なのにそう呼ばれた。

 世間はそんなふうに彼女をすごいと言っているが、俺は違う。


 本当に彼女は、二人いるのではないのかと思ってしまうほど、彼女の演技は別人で、見た目も少し違う感じがした。

 俺には違和感しかないCMだ。


「顔も知っているなら婚約者として、何も問題はないわよね?」

「えっ、でも、彼女は俺の顔を知らないだろう?」

「知ってるわよ」

「何で?」

「毎年、あなたの写真を送っているもの」

「えっ、いつ撮ってるんだよ」

「隠し撮りよ」

「はあ?」


 俺の母親は隠し撮りを当たり前という顔で言った。

 親子でもそれはやめてほしい。

 だが俺の母親は言ってもやめないだろう。

 

「今日から彼女と住むからね」

「えっ」

「彼女があなたと同じ学校に通うことになったのよ」

「それなら彼女の家から通えよ」

「彼女の家はマスコミがすごいみたいだから、無理みたいよ」

「逃げてくるってことなのか?」

「そうね。でもいつかは、この家に住むんだからいいでしょう?」


 俺の母親は彼女を助けてあげたいようだ。

 母親の少しお節介な所が、彼女をこの家に住まわせるということになったんだろう。


「だから婚約者の話は無しだって」

「彼女と会ってから決めてもいいでしょう?」

「会うのはいいけど、俺は婚約者なんて思わないからな」

「もう、あんな可愛い女の子の婚約者になれるなんて、嬉しくないの?」

「可愛いだけじゃ好きにはなれないからね」

「そうね」


『ピンポーン』


 インターホンが鳴った。

 母親が玄関へ向かう。


「あっおはよう」

「おはようございます」


 女の子の声がした。

 噂の俺の婚約者が来たみたいだ。


「ねぇ、彼女と一緒に学校に行ってあげてね」


 俺の母親は玄関から俺に向かって叫んで言った。

 俺は仕方なく玄関へ向かった。

 そして俺は固まった。


 えっ、誰?

 ん?

 アイドルオーラゼロ。


 メガネと長い前髪で顔はほとんど見えない。

 それに制服のスカートの長さ。

 長過ぎだろう?

 逆に目立つよ。


「学校で彼女がアイドルなんて知られたらダメだから、変装してるのよ」


 俺が驚いていることに気付いた母親が言った。


「そっ、そうなんだ。奇跡の二人って呼ばれるだけあるな。誰か分からないよ」


 俺は彼女にそう言った。


「奇跡の二人なんかじゃないから」

「えっ」

「私は一人よ。二人なんかじゃないの」

「えっと、、怒ってるのかな?」

「いいえ。早く学校へ行きましょう」

「あっ、うん」


 俺は彼女と家を出た。

 テレビで見る彼女とは全く違う。

 見た目も違うが、性格も違うように思える。


「私の名前は、、、」

「アイカでしょう?」


 俺は彼女が名前を言おうとしていたから、知ってるよという意味で名前を言った。


「違います」

「えっ、あっ、芸名なんだね?」

「違います」

「私はアイラです」

「芸名じゃないなら何で名前が違うの?」

「私はアイドルじゃないからです」

「えっ」

「いっ、今は普通の高校生なので」


 彼女は焦ったように言う。

 何か知られたくないことがあるのだろうか?


「あ~そういうことね」

「あの、これから宜しくお願いします」

「宜しく。さっきから気になってたんだけど、敬語はやめようよ?」

「あっ、そうですね」

「そうだねでしょう?」

「そうだね」

「良くできました」


 俺は彼女の頭を撫でた。

 彼女は嫌がりもせず、黙って頭を撫でられていた。

 学校に着いて、クラスメイト達は彼女を見ても、アイドルのアイカとは誰も気付かない。


 それほど彼女は普通の高校生になっていた。

 普通というよりは気配を消していた。


「何でずっと下を向いているの?」


 俺は彼女と一緒に学校から家へ帰っている。

 その途中で気になっていたことを聞いた。


「私は誰にもバレたらダメだからよ」

「それで普通の高校生活できるの?」

「いいの。私が我慢をすればいいことだからね」

「我慢をするって本当は、普通の高校生活をしたいってことだよね?」

「えっ」

「どうしてバレたらダメなの?」

「困るからよ」

「誰が?」

「私の大切な人がね」


 彼女の表情でどれだけ大切にしているのかが分かる。

 自分を犠牲にしてでも大切な人を守りたいなんて、どんな関係なんだろう?


「君が我慢しているって、その大切な人は知ってるの?」

「分かんない」

「君は本当にそれでいいの? 本当の自分を出したいなら俺は君を守るよ」

「守る?」

「君が普通の高校生活ができるように守るよ」

「あなたにも迷惑をかけちゃうから、私はこのままでいいよ」

「そうなんだね」


 彼女がこのままでいいと言うのなら俺はもう何も言わない。

 それから彼女と家では必要な時だけ話をした。


 学校では、俺は友達もできたが、彼女はいつまでも自分の席から離れず、下を向いて本などを読んでいた。

 そんな彼女を遠くから俺は見ていた。


 彼女はそんな高校生活でいいのだろうか?

 何が楽しいのだろう?

 高校生活なんて今しかないのに。


「ねえ、何でいつも一人なの?」

「えっ」


 いつものように遠くから彼女を見ていたら、クラスの女子が彼女に声をかけていた。


「ねえ、その前髪って邪魔じゃない?」


 クラスの女子はそう言って、彼女の前髪を上げて、それを見ていたクラスメイト達が驚いている。

 バレた。

 今のは絶対にみんなにバレた。


「えっ、あなたって、、、」

「アイラ」


 俺は彼女の目の前にいる女子が、彼女の名前を言う前に彼女の名前を呼んだ。

 彼女は驚いている。


「えっ、アイラ?」


 彼女の前にいる女子は混乱しているようだ。


「そうだよ。アイラは俺の婚約者なんだ」

「えっ」

「俺が彼女に言ったんだ。彼女は俺の婚約者だから誰にも奪われたくなくて、俺が彼女に目立たないようにしてもらっているんだ」

「婚約者? すごい束縛ね」

「彼女はそんな俺のお願いを、ちゃんと守ってくれているんだ。だから彼女に話しかけるのはいいけど、前髪はこのままにしててくれる?」

「ねえ、それでいいの? こんな束縛されてて嫌じゃないの?」


 クラスの女子は彼女に哀れみの目を向けて言った。


「いいの。私は彼のモノだから」

「えっ、ラブラブじゃん」


 クラスの女子は羨ましそうに言った。

 彼女がアイドルだと気付かれなかったみたいだ。

 良かった。


◇


 その日から彼女には女子の友達ができた。

 すると彼女は顔を上げるようになった。


 楽しそうに話している彼女を見ていると、近くにいる俺の友達に、にやけてるなんて言われた。

 でも、にやけるほど彼女が楽しそうにしているのが、嬉しかった。


「最近、楽しそうだね」

「うん」


 俺は家へ帰ってリビングで彼女と話をした。


「もうバレてもいいんじゃない?」

「絶対ダメなの」

「どうして? 友達もできて秘密をもつのは苦しいでしょう?」

「苦しいよ。でもダメなの」

「そんなに大切な人が大事なの?」

「うん」


 彼女はうつむいてしまった。

 するとテレビで彼女が出ているCMが流れた。


「君がこのCMに出なかったら、こんな思いはしなかったんだろうね。俺はこのCMが嫌いだよ」

「どうして嫌いなの?」

「このCMは君に似た人が出てる感じがするんだ。まるで別の君がいるみたいで、俺には違和感しかないんだ。世間ではすごい演技って言われているけど、俺には演技じゃなくて別々の二人に見えるんだ」

「それならあなたはどっちの私が好き?」

「だから嫌いだって言ってるじゃん」

「それはこのCMがでしょう? この二役のどっちが好き? 私だけを見て」


 彼女は俺を見つめて言った。

 彼女は俺に何かを伝えたいみたいだ。

 まるで何かに気付いてほしいと願っているようだ。


「俺は太陽のように笑う君より切なく笑う君の方が好きだよ」

「本当?」

「うん」

「嬉しい」

「どっちを選んでも君でしょう?」

「違うの」

「えっ」

「私はあなたが好きな方なの」

「意味が分からないんだけど?」

「私は双子なの」


 彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。


「双子?」

「あのCMは姉が太陽のように笑う方を演じて、私は切なく笑う方を演じたの」

「だから違和感があったんだね」

「あなただけよ。私達の違いに気付いたのはね」

「えっ」

「このCMは私達二人が演じたなんて誰も知らないの」

「えっ、そんなに君達は似てるの?」

「うん。誰も気付かないよ」


 彼女は誇らしげに言った。


「どうして俺に双子だって教えてくれたの?」

「あなたには秘密を持ちたくなかったの」

「どうして?」

「あなたには本当の私を知ってほしかったの」

「君のことを知ったことで、俺も友達に秘密を持つことになったんだね?」

「ごめんね。私が双子なのは秘密だからね」

「うん。でも、君と同じ秘密を持てたのは嬉しいよ」

「あなたの婚約者で良かった」

「待って、俺は本当に君の婚約者なのかな?」

「どうして?」


 彼女は不安そうな顔で俺を見る。


「だって俺の母親の勘違いかなあって思っていたんだ」

「えっ、私のお母さんは、妹の私があなたの婚約者だって言ってたよ。そういえばあなたのお母さんから写真が来てたけど、いつも名前がアイカだったわ」

「やっぱり間違っていたか。それなら俺はまず、婚約を取り消すよ」

「どうして?」


 彼女は悲しそうな顔をした。

 待って、最後まで話を聞いてくれ。


「悲しまないで。俺の母親は、君のお姉さんを婚約者だと思っていたみたいなんだ。だから俺も、君のお姉さんが婚約者だと思っていた。だから婚約破棄をして、そして君の婚約者になるよ」

「何よそれ? 紛らわしいわよ」

「それは君達が双子だと黙ってCMに出たからだよ」

「私達のせいなのね」

「でも違うよ。君達のお陰で俺は、本当の婚約者に気付けたんだよ」

「あなたが婚約者で良かったよ」

「アイラ」

「何? いきなり名前を呼んでどうしたの?」

「いつか俺と結婚して下さい」

「はい。喜んで」


 彼女は笑って俺に抱き付いてきた。


◇◇


 CM

『どっちの味が好き?』


 太陽が眩しくて綺麗な砂浜で、太陽のように笑うアイカが、水着姿でソーダ味の飲料を持っている。


「あなたはこっちの、太陽のように笑う私が持っている、爽やかなソーダ味がいい?」


 夕日が沈みかけている教室の窓際で、切なく笑うアイラが、セーラー服姿でレモン味の飲料を持っている。


「あなたはこっちの、切なく笑う私が持っている、甘酸っぱいレモン味がいい?」


 画面の左にアイカ、画面の右にアイラが映る。


「選べないでしょう?」

 

 左のアイカが、水着姿で切なく笑って言う。


「どっちも好きでしょう?」


 右のアイラが、セーラー服姿で太陽のように笑って言う。


◇◇◇


「ねぇ、どっちの私が好き?」


 初めて見た第二段のCMは、第一段より二人の違いがよく分かる。


「えっ、初めて見たCMだから、どっちって言われても覚えていないよ」

「もしかして、どっちか分からないなんてないわよね?」

「君はセーラー服姿だよ。でも、あまり覚えていないから、両方の笑顔を見せてよ」

「いいよ」


 彼女は太陽のように笑ってその後、切なく笑った。


「どっち?」

「俺はどんなアイラも好きだよ」

「え~どっちか決めてよ」

「決められないよ。どっちも好きだからね」

「それはCMの言葉でしょう?」

「本当にそう思うんだよ」

「つまんない」


 彼女は頬を膨らませ拗ねたように言った。

 CMと同じ言葉じゃ伝わらないよな?

 どう言えば君に伝わるんだ?


「俺はアイラだから好きなんだよ」

「私もあなただから好きなのよ」


 俺達は見つめ合ってキスをした。

 俺達はいつか結婚をする。



 だって彼女は俺の婚約者だから。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。

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次のお話は、仲が良過ぎる幼馴染み二人の物語です。

二人の仲が良過ぎだと友達に言われる原因は、主人公の彼が彼女の笑顔を守る為にすることが、恋人のように見えるからです。

二人の関係はどうなるのでしょうか?

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