【十三人目】 さあ、失恋なんて忘れて次の恋へ進もうか?
「ごめんなさい。他に好きな人がいるの」
俺は今、好きな子に告白したがフラれた。
俺の一年の片想いは今、終わった。
俺は落ち込みながら家へと帰る。
足が重い。
体が重い。
頭が重い。
「あれ? お兄ちゃん?」
俺は呼ばれて、下に向けていた顔を上げると、妹がいた。
妹は変な人を見るかのような視線を、俺に向けて家の前に立っている。
そんな妹の視線も気にならないほど俺は、何も考えられない。
フラれるというのはそれほどショックなんだ。
「今は俺に話しかけないでくれ。失恋のショックで、、、」
俺はまた下を向き、足元を見ながら言った。
「どうしたの? 私の友達と一緒ね」
「えっ」
俺は驚いて顔を上げた。
妹の隣には可愛い女の子が、涙目で立っていた。
かっ、可愛い。
「えっ、彼女もフラれたのか?」
「お兄ちゃん、それは言っちゃダメよ」
すると彼女は泣き出した。
「えっ、俺のせい? ごめん。泣かないで」
彼女の頭を撫でても彼女は泣き止まない。
「やっと泣き止んだのに。彼女が泣き止むまでお兄ちゃんが見ててよ」
「えっ、何で俺?」
「お兄ちゃんのせいだからよ。でも、気が済むまで泣かせてあげて」
「分かったよ」
妹はそう言って家へと入っていった。
しかし、自分の友達なんだから、一緒にいてあげてもいいと思うんだが?
俺の妹はそんな冷たい子に育ったのか?
俺は悲しいぞ。
お兄ちゃんにも、優しい言葉をくれてもいいと思うんだが?
「えっと、家に入る?」
俺が彼女に聞くと彼女は泣きながら頷いた。
泣いている女の子と一緒にいると、俺が泣かしているように見えるからね。
「あっ」
リビングに入ると、彼女は何かを見つけたのか、ソファへ一直線へ向かっていく。
そしてソファに座り、置いてあったぬいぐるみを抱き締めた。
いつもは妹の部屋にいる大きなクマのぬいぐるみがソファにいた。
妹が彼女の為に置いたのだろう。
やはり、妹は優しい子に育ったようだ。
お兄ちゃんは嬉しいよ。
「そのぬいぐるみが好きなんだね?」
「はい」
彼女はそう言ってクマのぬいぐるみに顔を埋めている。
俺は彼女の隣に座り、落ち着くのをただ静かに待った。
少し経つと彼女の寝息が聞こえてきた。
泣き疲れて寝たみたいだ。
まるで子供みたいだ。
「眠いなら俺のベッドで寝てもらうよ」
彼女からの返事はなかったが、俺は彼女を横抱きにして俺のベッドまで運んだ。
彼女を寝かせて俺はリビングへ戻る。
「お兄ちゃん、彼女はどこ?」
妹が冷蔵庫の扉を開けながら俺に言った。
「俺の部屋で寝てるよ」
「彼女を一人にするのはダメよ」
「何で?」
「失恋した彼女は一人にすると暴れるの」
「なんだよそれ?」
「心が不安定になるの」
「分かった。部屋に戻るよ」
俺は急いで自分の部屋に戻る。
彼女はまだ眠っていた。
暴れるような子には見えないけどな?
俺は彼女の顔をよく見た。
綺麗に整った顔だ。
肌も綺麗で、こんな可愛い子がなんでフラれるんだろう?
俺は眠っている彼女の目から涙が流れたのに気付いた。
そしてその涙を親指で拭った。
すると彼女は俺の手の上に手を重ね嬉しそうに笑った。
彼女の目は開いていない。
俺を誰かと間違っているのかな?
俺は咄嗟に彼女の手を振り払って、彼女の頬から手を離した。
彼女はゆっくり目を開き、俺を見て悲しそうな顔をした。
俺だったのが嫌だったのかな?
ごめん。
君の好きな人じゃなくて。
何故か俺達は見つめ合っていた。
どれくらい経ったのか分からない。
数十秒か、もしかしたら数分くらい経っていたのかもしれない。
「俺が君の好きな人じゃなくてごめん」
「えっ」
「だからそんな悲しそうな顔をするんだろう?」
「私の好きな人?」
「そうだよ。君がフラれた相手だよ」
「フラれたと言うよりは諦めることにしました」
彼女は苦笑いで言った。
無理して笑っているのが痛いほど分かる。
「どうして?」
「彼には他に好きな人がいたからです」
「君は諦められるの?」
「だから泣いていたんです。泣いて涙と一緒に流してしまおうと思ったんです」
「俺も君の隣にいてもいい?」
「えっ」
「俺も君と一緒で忘れたい相手がいるんだ」
「お兄さんにも好きなアイドルがいるんですか?」
「えっ」
アイドル?
彼女の言っている意味が分からない。
俺、アイドルの話をしたかな?
「お兄さん?」
「えっ、アイドルって何?」
「アイドルを知らないんですか?」
「アイドルは知ってるけど、今アイドルって関係あるのかな?」
「関係ありますよ。だって私の失恋した相手はアイドルですよ?」
「そうなの?」
「お兄さんはアイドルに失恋したんじゃないんですか?」
「俺は同じ学校の女の子だよ」
「それならお兄さんには私の気持ちなんて分からないですよね?」
彼女は当然という顔で言った。
アイドルも、学校の女の子も、同じ想いで好きなんだと思うんだけどな?
好きって気持ちに、違いなんてあるのかな?
「どうしてそんなことを言うのかな?」
「だって、みんなが言うんです。アイドルを好きになるのは恋じゃないって」
「そんなことはないと思うよ」
「えっ」
彼女は驚いたように俺を見つめる。
珍しいモノを見るように見てくる。
「俺、変なこと言ったかな?」
「私そんなことを言われたことがないんです」
「君のアイドルへの恋も、ちゃんと恋愛と呼べると俺は思うよ」
「どうしてそう思うんですか? 私の友達はおかしいって言うんです。一度も会ったことがないし、私の顔も相手は知らないのに、それを恋なんて呼べないんだと」
「それは君の友達が言っているだけで君は恋って思っているの? アイドルに片想いしてるんじゃないの?」
「片想いをしてます。私はアイドルの彼のことを、心から好きです」
彼女の想いは俺と同じだと、彼女の言葉を聞いて、彼女の表情を見ていて分かる。
「それなら君も俺も同じ想いで、恋をしていたんだよ」
「失恋も同じですよね?」
「そうだね」
「ヨシヨシ」
彼女は俺の頭を撫でながら言った。
彼女の優しさが嬉しい。
「慰めてくれるの?」
「はい。私もヨシヨシしてもらって嬉しかったので」
「君って可愛いね」
「えっ。そんなことないです。私より可愛い子はたくさんいますよ」
「君は可愛いよ」
「そんなこと言わないで下さい。恥ずかしいです」
「恥ずかしがってる君も可愛いよ」
「お兄さん。言わないで下さい」
彼女は顔を手で覆った。
そんなことをしても、耳まで真っ赤になっているのは隠せていない。
「あれ? そう言えばこの部屋はお兄さんの部屋ですか?」
「そうだよ」
「でもこの部屋には彼女の部屋の香りがするんです」
「妹の部屋の香り?」
「そうです。すごく良い香りなんです」
彼女はクマのぬいぐるみを嗅いでいる。
「これです」
「それは妹の部屋にいつもあるから、香りがついたのかもしれないね」
「この香りを嗅ぐと眠くなるんです」
彼女はそう言って目を擦る。
クマのぬいぐるみは彼女の抱き枕になっている。
「本当に君は可愛いよ」
「何回も言われると嘘っぽく聞こえますよ」
「何回も言わなければ、君は気付かないからね」
「私は何回、言われても可愛いなんて思いません」
「それならそれでいいよ」
「えっ」
「俺が気付いてほしいのは他にあるからね」
「他ですか?」
「そうだよ」
俺が彼女に気付いてほしいのは君の近くに君のことを好きだと思っている人がいるってことなんだ。
アイドルもいいけれど、君の近くにも目を向けてほしいよ。
「気になるけど眠いです」
「寝てもいいよ」
「は、、い」
彼女はもう、ウトウトとしている。
「おやすみ」
俺は彼女の頭を撫でる。
「お兄さん」
「ん?」
「また失恋したら、こんなふうに頭を撫でてくれますか?」
「いいよ」
「良かっ、、た」
彼女は目を閉じて眠ってしまった。
「でも、もう君には失恋はさせないけどね」
俺は眠ってしまった彼女にそう言った。
彼女は俺の声が聞こえているのかは分からないが、ニッコリ笑っていた。
失恋で傷ついた俺の心は、彼女のお陰で消えていた。
彼女が俺に教えてくれたんだ。
新しい恋が、失恋した心には一番の薬なんだと。
俺にはそれが一番の効きめだった。
彼女もそうだといいなあ。
『さあ、失恋なんて忘れて次の恋へ進もうか?』
彼女が起きたら、そう言おう。
そしていつか俺と恋をしようなんて言ったら、彼女はどんな反応をするのかな?
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次のお話は、大事なモノを落とした彼女の落とし物を拾った主人公の物語です。
彼女の落とし物を見つけて返したのに、彼はまた落とし物を拾います。




