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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
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6

 ゆっくりと暙桜の歩調に合わせているものの、決して互いに口を開くことはない。それでも総司は少女の気配に気を使っていることがよくわかる。

 彼女が疲れてきたら歩調を緩め、彼女の気配が途絶えていないかを確認しながら歩いている。それは彼だからできる所業でもあるのだが。


「あ、の……」


 おずおずと切り出された言葉は、やはりどこか心もとなく聞こえる。


「なに」


 冷たくかえしてしまったことをすぐに後悔したが、発してしまったからには取り消せない。今暙桜がどんな表情をしているのかなど、総司には想像することが容易い。

 その瞳を細めてその中を彩る哀しみの色をかくすように僅かにうつむいているだろう。

 総司の予想通り暙桜はそうしていたが、意を決したようにもう一度口を開く。


「わたしの言葉、なにか気に障りましたか?」


 分かっているのかいないのか。少女はただ不安げに青年を見上げた。その瞳に返されるまなざしはないと分かっていても。


「君のせいじゃないさ」


 予想外に振り返った総司は、優しく笑った。頭の上に大きな手のひらが無造作に置かれ、そのままゆっくりと撫でられる。

 猫になった気分だと、暙桜はふと考えた。

 総司の手つきは壊れものを触るように優しい。


「ただ僕が勝手に落ち込んでいるだけ。君が気にすることはないよ」


 優しく微笑んでいた顔に翳りがさした。それは悔しそうで哀しそう。


 ―――わたしは天地を隔てる神のためだけに在る


 耳の奥に蘇る暙桜の声音は、怖いほどしっかりしていて、凛々しいほどはっきりと残っている。それが妙にやるせない。


「ひとつ、言っておきますね」


 そんな総司の心情を察したように暙桜は口を開く。

 胸の前で両手を組んだ様は、まるで神に祈っているよう。


「我が君…、天之御中主神が何より護りたいと思っているのは、ひとです」


 意図が酌めない総司は瞬いた。そんな彼の様子を見て仄かに笑った暙桜は瞼を下ろしてその瞳を闇の奥に鎮めた。


「神が護りたいものがわたしの護りたいもの。玉依の家系は代々、その任についています。神の意を酌み取り、人の意を神に伝える。わたしはそれが使命だと、感じていました。逃げられない、宿命だと」


 古くからの血族は、純潔になるほどその役割が重く陰湿なものへと変わっていく。そのなかで玉依の家系は陰湿ではなく神聖なものだった。けれどどこにだって陰や闇はある。玉依の家系は、使えるべき相手は神であったにも関わらず、家の中は陰湿な古き契約を重視し、その血を残すためなら何だってした。それこそ、人をあやめることでさえ。

 しかし一度その身が血で穢れてしまうと神聖な場には立てない。だからこそ、家の者達は血で穢すものを輩出し、内部ではそんないさかいや争いがないように見えさせた。そしてそれは口伝で伝えられる陰の歴史の部分。


「わたしの護りたいものは、確かに神が護りたいもの。しかしそれだけではありません」


 言い切った暙桜は瞼をあげて紺の双眸を見つめた。不安げに揺れていたその双眸は、今は驚愕に彩られて、そのどこかに嬉しさが見える。


「わたしは、わたしの意志であなたたちを守りたい」


 たとえそれが、彼らに拒まれることだとしても。

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