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「……ぁぅ………っ」
抑えていた苦しみと灼熱の痛みが、暙桜の命を蝕む。刻々と、確実に。それは彼女の命を縮める。
命を灼く病。そしてそれは、完治しきらない病だから。暙桜は引き受けたのだ。自分の命を縮めることになっても。それでも、他人を救うために。
「……っ」
口の端に血が滴る。地面にのた打ち回る少女を止める術を知るものは、そこにはいない。ただ、その衝動が治まるのを見ているしかできないのだ。仰け反った少女の細く白い首。あえぐように空気を求める唇は、しかし色を失っているはずなのに真っ赤な鮮血によって赤く染まっている。
仄かに立ち上る光は、彼女の中の激しさをあらわしているようで、近づこうとするものを鋭利に阻む。それは頑ななまでの少女の意思。
「…………、……っ!」
脂汗が浮かんでいる額は、目元の疲労が手伝って少女の面差しをいっそう蒼白にみせる。ただ口許が朱色に染まっているだけだ。
「…っ、あ………!」
胸を焼く熱い痛み。それは決して褪せることの無い罪業の証。
暙桜はそれを分かっているから、その痛みを甘んじて受けようとする。その身を挺して押さえ込もうとする。その力を決して外へ放出させないがために。玉依の力と拮抗する病が彼女にこの苦痛を味わわせる。それは決して消すことが不可能な痛み。
ゆっくりと、しかし確実にその痛みが引いてゆくのが分かった少女は、思わず息を吐き出す。
責め苦のような苦痛は、想像を絶するほどの痛みをこの人間の体にもたらす。それはいつか彼女の体を壊すほどの激しさを秘めた痛み。
息も絶え絶えの少女は肘をついてゆっくりと起き上がる。ふらふらな足取りのまま剣を支えに立ち上がる。時折足元がおぼつかなくなってふらりとしたいが傾くが、彼女はそれを自分で立ち上がる。
「しゅん……―――」
名を呼びかけた誰かは、しかしその肢体が崩れ落ちそうになったのを見て慌てて駆け寄る。その力強い腕に抱かれた暙桜は、薄く目を開いた。心配そうに覗き込んでくる紺の瞳。
「…きた……さ…」
満身創痍の少女は、しかし受け止めた総司に淡く微笑んだ。それが痛々しく、とても綺麗で。総司は慌てて彼女の膝裏に腕を回した。
「ちょっと、大丈夫?」
いつものような軽い口調だが、その実とても心配そうな色が浮かんでいる。それを汲み取った暙桜は僅かに瞼を震わせた。今は瞳を覗かせているだけでも重労働のように思えてならない。
「だ……じょ……うぶ…」
だから、と荒い息の中で告げられた言葉に総司は軽く目を瞠り、そして哀しそうに、どこか寂しそうに、頷いた。
「うん、わかったから。今は休んでいいよ。暙桜」
優しい言霊が心に響く。それは酷く心地よく、ある人物を連想させた。その人はもう二度と見えることのできない、会いたいと願ってもその顔を見られないたった一人の人物。
彼女はその体が重い中でも、一筋の涙を流し、無意識に呟いた。
その名は、彼女を抱えている青年が、たった一度だけ耳にしことのある、たったひとりの彼女の大切な人であろう者の名前。
――――く……がみ……っ
繰り返されたその名は、二度と聞こえないはずの声を思い出させるはかない言霊。二度と、見えることのできない。
―――そう、あの人を殺したのは、暙桜自身なのだから。
許しを請うことさえ、許されない。




