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魂の奥に忘れた使命が、引きずり出されたのはきっと宿命。
◆ ◆ ◆
ぼんやりと視界が霞かかっている。
暙桜は指先を僅かに動かし、体が動くことを確認したらゆっくりと肘を支えに起き上がった。
見覚えのない室内には、申し訳程度に置かれた調度品。
わずかな音を立ててずり落ちた大袿を思わず抱きしめて、暙桜は声を殺して涙を流した。
「…っ―――…」
一体、何ができただろうか。あの惨劇を見て、暙桜は一体何ができただろうか。援けることもできずに、ただ骸になってしまったものたちに申し訳がたたない。自分が生きていることすらおかしいのに、生きていることに疑問しか覚えないのに、それでも、自分は生きながらえている。それがどうしようもなく哀しくて、浅ましい。
知らないことが多すぎて、知っていることが少なすぎて。まるで袋小路だ。
抱きしめた大袿が冷たいことが、いっそう哀しさを引き立てる。哀しくて、寂しい。
「玉依…」
「…っ―――!」
引き攣れた悲鳴のような声は、しかし喉の奥で絡まってうまく言葉にできない。
誰も居ないと思ったその場に響いた声音は、ひどく穏やかで優しいものだった。
「違う…っ、玉依じゃないっ!! 太古から生きている人間なんじゃないっ、わたしは……っ、わたしは…………っ!」
喉に絡まっている言葉は、胸の内を燃やすように。
「すみません…、傷つけるつもりはなかったのですが………」
心底申し訳なさそうなその声音に、暙桜は反射的に顔を上げた。
見慣れない服を着ているが、なにかでみたことがある。たしか狩衣というものだ。平安時代に着られていたそれに身を包み、うなじの辺りで結んである髪の束とは別に、右のほうにも一束、銀の装飾に止められて垂らしてある。暙桜を心配そうに見つめる双眸は、深い藍色。左手につけた手甲についている銀の装飾が、その青年をさらに引き立てるように月光をはじいて輝く。
「ごめ………、なさ…っ」
自分だけが取り乱すなんて、おかしすぎるんだ。
そう思うと、暙桜は情けないような悔しいような気持ちになった。感情の起伏が激しいことはないと思っていた。なのに、こんなときに限ってなぜか浮上したりするのがどうにも苛立たしく感じる。
ぐいっと無理矢理涙を止めるように袂で目元をぬぐうと、暙桜は凛として目の前の青年を見つめた。深い藍色の双眸と視線が交わる。
「教えて……。玉依のこと、あの屯所を襲ってきた男たちのこと……、わたしの知らない、わたしのことを……」
暙桜の言葉に、覚悟していたように男が僅かに瞼を震わせた。そして静かに頷いた。
「わかっています…。お話します。ひとつずつ、順番に…―――」




