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すっと瞼を上げた暙桜の周りには五人の人影があった。外人と見間違うほど日本人とは違う容貌だが、それは恐怖の対象になどならない。
「彼の地に光く神、及び蠅聲す邪神多に有り」
謳うように呟く暙桜に訝しんでいる新選組の幹部達がひとりひとり彼女に視線を向ける。そこにいる彼女は、今まで見たこと無いぐらい、神々しく、美しい。
「天神地祇、還るかえるひとつの神々。息一つして、身ひとつ。肉体ある我が玉依が命じる。神に仇為人影を、ひとつ残らず殲滅せよ」
暙桜が僅かに掲げた手のひらに光の粒子として現れた一つの剣。古びていて、何かを切れるとはとても思えないその刀を、彼女が両手で一振りする。
千歳と呼ばれた男に向けて無感情な瞳で薙ぎ払った。土方と相対していた彼は、飛び退ってそれを回避した。その斬撃が通った瞬間は、変化が見られなかった。しかし刹那に、その情景は一変して、深く地を抉っている力が通ったことが分かった。
「っ、帰るぞ、貢」
身を翻した千歳は、舌打ちをしながらもう一人の男を呼んだ。呼ばれた男――貢は面白くなさそうに眉を寄せる。
「なぜ」
端的な言葉の中に、明らかな苛立ちが含まれている。
「退くぞ」
もう一度言って、彼は闇を近くした。
「ここの奴等を殺したい」
残忍な言葉は、しかし彼の味方によって否定された。
「確かにあいつを覚醒させるためにはあいつらの血肉が必要だろう」
しかし、と言葉を続けるようにして、千歳は暙桜に視線を向けた。真っ向から金色の瞳を受け止める淡い水色の瞳は揺るぎもしないで彼を睨む。
「今は分が悪い。確認はかない、玉依は見つけ出した」
きらりと光った金色の双眸が向けられて思わず後ずさった暙桜は、しかし背中に体温を感じて振り仰いだ。
先ほど顕現した神の化身が、そこにいた。
「古き契約に逆らうか、天津神も国津神も敵に回した存在が。貴様らは永らえているのではない。永らえさせられいるのだ。夢、忘れるな」
鋭い声音は、しかしなぜか耳に心地がいい。体がだんだんと疲労を訴えるように重くなる。自然ともたれてゆく暙桜を青年は何の苦も無く彼女の体に負担がかからないように持ち上げる。ぐったりとしている四肢は何かを求めるように、縋るように僅かに動く。
「……………」
声が、うまくでない。彷徨う指先は、肌とは思えぬほど蒼白になってゆく。
「…誰だ……?」
鋭い誰何を投げかけたのは、唯一両足で地を踏んでいる土方だった。青年は彼に一瞥くれてやると、用は済んだとばかりに踵を返した。
「待ちやがれ…っ」
思わず踏み出しかけた土方は、予想以上に疲労が体に溜まっていることに舌打ちをした。いまこの状況では、あの青年を追うことなどできるはずが無い。
―――だが翌日、何事も無かったようにして、どの隊士も起き上がっていた。
―――事実を知り、傷を覚えているのは、たった数人の幹部のみだった。
―――そして、消えた少女は『玉依』の力を発揮していたのだった…。




