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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
27/49

1

 けたたましく何かが壊れる音がした。屯所内の空気が騒然とする中、暙桜は一人とある一室に横たえられていた。

 僅かに上下する胸が、彼女が生きていることを証明している。

 散々吐血をしたあと、彼女はこの一室へ連れてこられ、そのまま褥の上へ横たえられた。汚れた袴や服を今は脱いで寝るときの単だけだ。


「………」


 再び何かが壊れる音がしたとき、暙桜の瞼が僅かに持ち上がってくる。覚醒のしきっていない頭で考えようとするが、うまく考えられない。

 しばらくぼうっとしていた暙桜は、再三音が鳴ってようやく覚醒した。


「…な、に……?」


 何かが壊れる音。

 断末魔のような悲鳴。

 肉を切る生々しい音。

 そしてなにより―――。


「ど……して……」


 かすれた声しか出ない自分の喉を訝しみつつも、暙桜は力の入らない体を引きずりながら妻戸を開く。

 瞬間、彼女は後悔した。


「…っ!」


 引き攣れた悲鳴を上げなかっただけ手放しでほめてほしい。

 目の前に転がる一人の肢体。浅葱の羽織を着た隊士だ。恐る恐る首元へ手を伸ばすが、脈を打っている箇所に動きは無い。指先に伝わるはずの脈動は、しかし彼女の予想通り感じない。

 目の前に転がっている彼同様、庭先や手すりの上にうつぶせにかかかっている浅葱色の羽織を着た男性たちも息をしていないだろう。

 早鐘を打つ心臓を必死でなだめるようにしながら、暙桜は一歩一歩踏み出した。


「………れか…」


 誰か…。

 一縷の望みは、しかしあっけなく崩れる。

 再びけたたましい音が鳴り響く。ものが壊れる音。建物が僅かにきしむ。


「………なに…?」


 状況が読み込めない。けれど確実にいまこの建物の中で何かが起こっている。それは決して、いいことなどではない。

 暙桜は目を閉じた。

 視覚は役に立たない。いま五感の中でもっとも有効なのは、聴覚。どこから音が響き渡っているか。どこの柱が一番きしんでいるか。神経を研ぎ澄まして、彼女は静かにたたずんでいる。

 僅かに音を捉え始める。それは些細な音だから、聞き逃してしまいそうだけれど、彼女は正確にその音をききとめた。


「…………あっち?」


 瞼を上げて視線を上げた先は、屯所の門から間反対の位置。ちょうど小池のある庭だ。

 静かにとことこと歩き始めた少女は、自分が向かっている先から漂ってくる血臭に思わず鼻を押さえた。きつくなる臭い。

 けれど立ち止まるわけにはいかない。立ち止まっている暇なんて、ないんだ。


「………………」


 音に混じって聞こえてくる声。ふとそれに気付いた。


「だれ…? 土方さん…? 沖田さん?」


 順番に名前をあげて言っても、答えなどあるはずが無い。けれど、生きていることだけでも確認したい一心で彼女はそこへ足を向けた。

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