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ところどころ赤黒く汚れた畳の上に横たわる暙桜と、彼女の腕を掴んでいる平助。よく見ると彼女の爪にも僅かに赤黒い汚れがある。喉元にある、引っ掻いたような痕。にじみ出ている血はようやく固まってきたのか、流れ出ている様子は無い。そしてなにより、胸元に広がる朱色の花は、彼女がどれほどの量の血を吐いたかを思い知らしめるように大きく咲き誇っている。
「如何がした。状況を説明しろ」
鋭くその瞳を細めた斉藤は、瞬時に平助に状況説明を要求したが、対する彼はそれどころではない。
「状況はあとで説明するから! とにかく土方さんでも新八でもいいから誰かよんできてっ。あと布も! コイツ、自分で喉引っ掻いちまうから、危ないんだよっ」
切羽詰ったような平助の声に思考をめぐらせた斉藤は、しかし一瞬で答えをたたき出した。
「わかった、副長の状況をうかがってこよう」
ひとつ頷いた斉藤はすぐに踵を返した。ほどなくして駆け込んできたのは、斉藤でも土方でもなく、井上だった。
「彼女は大丈夫かい、平助」
目に見えてほっとした様子の平助は僅かに頷くと、井上の手の中にある布を受け取り彼女に喉に優しく巻いた。
少しだけ呻いた暙桜はしかし無抵抗のままされるがままになっていた。ただ、その紅い唇から鮮血を吐き出しながら。
ふと違和感を覚えた暙桜は薄く瞳を開いた。
透き通る淡い水色の瞳があてもなく彷徨う。平助と井上を素通りしたその瞳は、何を探すでもなくただ彷徨う。
訝しんだ二人はしかし、彼女が瞳を開けたことにほっと胸をなでおろした。尋常ではない吐血量。もしかしたら彼女はこのまま彼岸を渡ってしまう可能性もある。此岸にいるならば心配は無用だが、彼岸へ行ってしまうということはそのまま死を意味する。
「………――――――……」
薄く唇を開いた暙桜は喉から言葉を発しようとするが、うまく声がでない。上がってくる言葉は、彼らに届けたいというのに、何故だか、届かない。それが無性に哀しくて、歯がゆい。
どくん、と息苦しさとは別の脈動が生じた。息を詰めた暙桜は、身体の奥から感じる妙な感覚に眉を寄せた。尋常じゃないぐらいに身体が震える。
不意に暙桜の細い肢体が宙に浮き上がった。
「しゅんお―――」
手を伸ばしかけた平助だが、しかしその手が届かなかった。
見開いた双眸から流れ落ちる雫は、透明な涙。
―――もうすぐだ
耳元でささやくような小さな声。聞き覚えのある声に暙桜は瞼を震わせた。
赤黒く汚れた部屋。
ぽたぽたと滴り落ちる赤の雫。
血まみれの浅葱色に身を包んでいる壮年の体躯の男性が何人も転がっている。
まるで地獄絵図のような光景に吐き気がこみ上げてくるのを必死で堪えた暙桜は、その中心に立っている見慣れない男に目を向けた。
―――みつけた
にぃと歪んだ唇が、不気味に嗤んだ。




