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そして彼が視界から消えたと同時に、足の力が抜けたようにがくんと崩れ落ちた。慌てて駆け寄ろうとした成人男子二人を止めたのは、凛とした声音だった。
「来るな!」
震える体を自らの腕で抱くようにしてぐっと力をこめて、汚れるのもかまわずに震える体を必死に押し殺そうとしている姿は、先ほど山南に言葉を投げかけたのと同じ人物とは思えないほど、はかない。
「来るな……」
繰り返す声は弱々しく、彼女は震える体のまま立ち上がると呆然と立ち尽くしている二人を一瞥もせずそのままさってゆく。小さな後姿が見えなくなるまで、総司も原田もその場から動くことはできなかった。
「………っ」
与えられた部屋に戻った直後、暙桜はその華奢な身体を畳の上に叩きつけるように倒れこんだ。喉から競りあがってくる鉄の味。脈動がするたびに痛みが大きくなる胸。
口もとを必死に押さえ込んで彼女は衝撃を押し殺す。
「………ぁ…っ…!」
仰け反った肢体が細くしなやかに動き回る。のたうちまわっている姿は苦しみのせいで自制などできはしない。
衝撃を殺しても身体の芯からせりあがる痛みはひくことを知らない。ただただ、彼女の命を蝕むように上りつめる。
「暙桜、いるか?」
なんとも間の悪いときに聞こえた少しだけ高めの声。成人男子が多い中で、とりわけ最小年の彼は何かと暙桜を気遣ってくれるが、今はその気遣いがありがた迷惑極まりない。
「………あれ~?」
返事が無いことに彼女がこの部屋に居ないと思ってくれたのか。それならば手放しで喜べる。こんな姿は、たとえ平助であっても、見られたくないのが暙桜の本心だ。
しかし平助が去ろうとした瞬間、暙桜が咳き込んだ。もちろん彼は敏感にそれを聞き捉え、慌てて部屋に入った。
「おいっ! 大丈夫か!?」
「っ、はっ………」
喉を掻き毟る暙桜のか細い腕を必死で止めるように捕らえた平助は、彼女が時折仰け反りながら激しく咳き込む様をただ見ていることしかできなかった。
「おい…っ」
必死の形相で声をかける平助だが、彼の声は苦しむ彼女には届かない。
ひときわ大きく脈動が生じる。
「……――――っ!」
声にならない悲鳴。慟哭にも似たその深く激しい声音に、平助は眉を寄せた。
彼一人では対応できない。しきれない。平助ではまだ彼女を分かってやることはできないのだ。だからといって今この状況で大声で誰かを呼ぶと平隊士まで集まってくる可能性がある。それは困る。しかしこの場を離れて特定の人物を探しに行くとなると、彼女の腕を放さなくてはいけない。そうしてしまうと、彼女は自らの命を消してしまうだろう。無意識だろうと、故意だろうと。
「平助。どこにいる、平助」
別段力があるわけじゃない声が聞こえた。抑揚の無い声音は、しかししっかりと平助の耳に届いた。
「一くん? 一くんかっ?」
天の助けとばかりに平助がほっと胸をなでおろすと、斉藤は静かに暙桜の部屋のふすまを開いた。そして中の光景に絶句した。




