3
思わず暙桜を抱きとめた平助は、苦々しい面持ちをしていた。
「…………オレ、こいつを部屋に連れて行くよ…」
是非を求めていない平助の言葉に、誰かが口を開くことは無かった。
そのまま暙桜を抱き上げた平助は、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。細すぎる肢体、軽すぎるその身体に、平助は痛みを堪えるように目を細めた。
「…………なぁ、土方さん…」
そのまま出て行かず、平助は一度立ち止まり、背中を向けたまま口を開いた。
「こいつ、さ……。確かにオレたちに必要かもしれないけど、さ……。なんか、オレは暙桜を利用するだけは、嫌だよ……」
返事を聞かず、平助は今度こそ部屋を後にした。
平助の寂しそうな声音に、異を唱えるものは誰一人としていなかった。
「僕も平助の言ってることには賛成ですよ、土方さん」
総司が口を開いたときには、重い空気だけが流れた。
「しかし…」
異を唱えるとも、意見をするとも取れるような少しだけ弱々しい声音が、僅かに遠慮がちに漏れ出た。
「彼女を利用するだけ、とは一概には言えないかも知れません」
山南は静かに瞼を伏せた。
利用するのは、こちらか……――あちらか、だ。
「彼女を我々が利用するだけなら、藤堂君や沖田君の言うとおりですが、彼女あるいは彼女の中にいる先ほどの神と名乗るものがこちらを利用するつもりならば、一概に我々が一方的に利用する、とは言えません」
「けどよ、山南さん……!」
反論しかけた原田を黙殺し、山南はさらに続ける。
「しかし先ほどの状況を見て、彼女を追い込むようなことは、こちらとしても得策ではありません。しばらく様子を見て、その後、彼女をどうするかを決めることも、ひとつの道ではないかと私は考えます。―――どうでしょう、土方くん」
原田に視線を向けず、そのまま彼を素通りした山南はそのままその視線を土方に向けた。
それまで瞑目していた土方は、瞼を上げた。その瞳の中にある色は、まるで感情の篭っていない瞳で、誰もが一瞬息をのんだ。
「あいつの処遇は、あいつが目覚めたあとで決める。各自部屋にて待機しろ。明朝、使いを出す」
土方はそのまま席を立ち、部屋を出た。立ち上がった彼を追うものは、誰一人いなかった。
「………あーあ、鬼の副長がちょっとだけ情けかけてるよ。らしくないことするよね、土方さんも…」
総司がいつものように少しだけおどけた様子でそういうと、少しだけその場の空気が緩んだ。
「だな、土方さんも、いつもどおり勝手に決めちまえば、俺たちがあれやこれや言う前に勝手に決まってどうしようもなくなるのになあ…」
それは、一方的な思いなのかもしれない。彼一人に重圧を担わせる行為だとしても、彼はいつもそれを当然の如くの顔でやっていたのだから。
だから、それは望んではいけない。今彼は、それをできるほどの判断力を持っていない。そして、なにより、それが気軽にできるような状況でも、無い。
「………俺たちが、勝手なんだよな…」
分かっているのに、無意識に思ってしまう気持ちだけは、どうにもならない。
だからこそ、惑いの路は抜けられないのだ―――。




