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《出てこないで!》
鋭い少女の声が、その場に響いたと同時に、創世の瞳にあった戦意が消え、苦しげに歪んだ。そしてその瞳に苛烈に煌くは、憎しみの色。
「貴様……っ!」
《出ないで。あなたが何者かは知らないけど、わたしの身体を返してっ》
鋭い少女の声は、自らの中にあるもう一つの魂を拒絶している。
「たかが人間ごときが、吾に逆らうか……!」
《ええ、人間よ。貴方の言うとおり、脆弱で愚かで浅ましくて、そしてなくより、儚い》
けれど、と続いた少女の声音は、先ほど新選組の幹部達に向けていたように、鋭く鋭利だった。
《そんな人間だから、わたしはまだ、強くなれるわ…!》
決意を讃えたような瞳を、一瞬だけ創世姫の後ろに見えた気がした。ずっとそうして応答をしていた創世姫は、顔をゆがめてさらに苦しげに呻く。
「貴様は………、吾に逆らうというのか…っ」
《当たり前よ》
凛とした暙桜の言葉は、鮮明に耳に残るほど強い。
忌々しげに舌打ちした創世姫は、しかし暙桜の力に抗えず、そのまま消えてゆく。
それと同時に戻ってゆく髪の色。見事な黄金はたっぷりとした黒髪に。歪んでいた紅は透き通る水面の色に。すべてが戻ったとき、暙桜は息を切らして座っていた。
「っ………、は…」
「しゅ―――」
手を伸ばして暙桜に近づこうとする総司を視線一つで留まらせた彼女は、怒りと憎しみを含んだ瞳で新選組の顔ぶれを一瞥する。
視線を投げかけられたものは、動けなかった。
その瞳にある怒りや憎しみ。その奥にある、絶望にも似た色を、正確に読み取ってしまったがために。
「………………なんだろう……、ね…」
自問の響きがあるその言葉に、誰一人口を開くことはできなかった。答えを求めていたわけでもない暙桜は、そのまま立ち上がった。
「っ……、っぁ……」
しかし立ち上がったと同時に胸元を押さえて膝が砕けるように、そのままそこに崩れ落ちた。
声が、聞こえない。
聴覚が、働いていない。
新選組の人間、誰一人の声も届かないのに、耳にするりと滑り込むように聞こえる声が、一つあった。
《身体の負担が大きすぎる…。今は一度、眠りなさい》
暙桜は、その声に誘われるようにそのまま瞼を下ろした。崩れた痩躯を誰かが抱きとめた。その腕に身体を預けるようにして、暙桜は意識を手放した。




