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星の栞 -慟哭するひとつの導‐  作者: 白石さくら
16/49

2

 その室には、試衛館(しえいかん)道場の時代からの集まりが酒を(あお)っていた。


「なぁ……」


 誰が口を開いたのかはわからなかった。ただ、それほどみんなが酒を呷っていたときに不意に発された言葉だった。


「あの……暙桜さ…」


 平助が不意に思い出すのは、苦しそうなあの表情。笑っても、怒っても、喜んでも、泣いても。どんな表情でもきっと見惚れるほど綺麗だと思うのに、彼女の表情を思い出すのは、あの時の苦しそうな表情。

「確かに『あれ』の保持者で――血族で、オレたちにも『新撰組』にも必要なのかもしれないけど……それでも、さ……」


 やりきれなさが心を占める。短命だとは、聞いていた。分かっていたし、出会えたことが奇跡なのだ。


「あれは……ちょっとな…」


 原田が苦々しげに呟き、杯の中にある酒を呷る。

 近藤、土方、総司、山南、新八、原田、井上、平助そして、斉藤。試衛館道場の頃からの面子だが、口を開きながら酒を呷るものは多くない。


「あそこまで身体が危ないってことは、僕たちの力になる前に消えるね、絶対」


 総司が冷たいとも取れるような口調でそう言うが、彼の瞳にもまた愁

いの色が浮かんでいる。

 今はまだ目を閉じて眠っている少女に思いを馳せながら、彼らは酒を呷る。まるで何かの暗黙の了解のように、誰もが口を開こうとはしない。

 酒を注ぎ足し、呷る。飲み下す音だけが、静かな室内に鮮明に響く。誰のものなのかはわからない。だが、その場にいる全員の意識は、先ほど倒れた少女へと向いている。


「松本先生にも、どうしようもないよね…」


 酒を注ぎ足していた左之の手が止まる。しかし総司は、自分の杯にある酒を呷る。

 重暗い沈黙は切れずにその場に留まり続ける。誰もが口を重くし続けているだけで、その場の空気が一変することなど、ない。


「しかし彼女にすべてを話すことはできません」


 それまで口をつぐんでいた山南が不意に口を開き、そんな言葉を発する。それに反発したのは平助だけではなかった。


「ちょっと、山南さん! あいつはオレらの力になってくれるんだから、『新撰組』のことぐらい話すべきだろ、普通はっ!」

「そうだぜ山南さん。平助の言うとおりだ。俺たちがあいつの知らぬところであいつを利用することだけは嫌だぜ、俺は」

「それはちょっと、俺の流儀にも反する。あいつを利用するってんなら、あいつにだって知る権利ぐらいはある」


 平助、新八、原田と立て続けに意見を返してきたが、山南はそれを見越していたかのように静かに彼ら三人を見返した。


「私たちは彼女と友達ごっこをするのではありません。彼女の力を利用してでも、幕府を守るのが、私たち新選組の役目でしょう。そしてあの力を利用してでも薩長を迎え撃つことも」


 山南の言葉に三人は押し黙った。そのとおりだからだ。

 だが、それだからといって、親類がいない彼女を屯所でかくまいながら、すべてを隠し、なお彼女の力を利用する。それは果たして、彼女の目にどんな身勝手な人間に映るのだろうか。


 そして、どんなに彼女を傷つけることに―――――。


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