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目の前に、紺の瞳がある。そこにあるのは、いままで暙桜が受けたことのない瞳。愛おしそうに頬に触れている総司から思わず目をそらすが、頬に触れている手のひらがそれを許さない。
「だーめ」
額と額をくっつけて、触れるんじゃないかって言うほど、唇が近い。
「あの……っ、沖田さ……っ」
思わず声が上擦って顔が熱くなってくる。手を離してはくれないだろうかと、切実な訴えをするが、彼は気づかないふりをしてにこりとわらう。その笑みが、今までのものとはまったく違う、綺麗なもので。
「……っ、あの…」
「静かに――」
真剣な瞳で見つめられる。至近距離だから、彼の瞳の中に映る自分が見える。それが妙に気恥ずかしい。
左腕に引っ掛けるようにくっついている自分の指も、彼の背中に回っている右腕も、自由なのだから、それで押しのければいいのに、それをしないのは、この行為がそれほど嫌じゃないということだ。そう考えると、さらに羞恥が湧き上がってくる。
「逃げないんだ?」
「逃げられない、です…っ」
赤い顔のまま抗議をする暙桜を無視して総司はそのまま楽しそうに頬を緩ませる。
「楽しいね、君」
「ぜんっぜん楽しくありませんっ!」
力いっぱい抗議する暙桜を新しい玩具のように見つめ、総司は瞳を細めた。
温かい感情が胸に留まり続ける。わからないその感情の名を、総司は掴みあぐねて少しだけ、戸惑った。けれどその答えは要らない。今は、腕の中にいる少女が普通に笑っていてくれれば、いいのだ。
「……っ」
一瞬だけ、触れるかと思った唇。至近距離で見つめられ、見つめ返す。紺と透き通る湖の視線が交わる。
「おい総司、そろそろ………」
音を立てて障子を開いたのは、先ほど話題に上がっていた眉間に皺を寄せた副長――土方だった。途中で言葉が途切れたのはもちろん、先ほど十三人入った広い部屋の片隅に密着している男女の姿。
女のほうは免疫が無いのか赤面したまま固まっている。男のほうはその女を見て楽しそうにしていたのだろうが、土方が部屋に入るのと同時にそちらを向いて楽しそうに口許に弧を描いた。そしてわざとらしく自分の腕に絡んでいた暙桜の手のひらと自分のそれをつき合わせてまるでいとおしむようにその小さな手を包み込む。
「あれ、土方さん。入るなら入るで、声をかけてくださいよ。彼女驚いて止まっちゃったじゃないですか」
「……~~~~っ、総司、てめぇっ!」
総司は腕の中で赤面したまま止まっている少女の耳を肘でふさぎ、手のひらでは自分の耳をふさいだ。せめてもの防音だ。
一秒後、屯所内に土方の怒号が響き渡った。




