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「キサマラ人間ナド天恵ガ使エナケレバドウトイウコトハナイワ!」
戦う意志を見せて身構えるレクトとレジーの姿を前にイシリッド人は、そう豪語して手にした剣を振り上げる。
それだけの物言いをするだけはあって目の前のイシリッド人の攻撃は鋭く激しいものがあった。
もともとイシリッド人は人類よりはるかに上回る身体能力を持っているデーモンだ。
何も考えずにぶつかり合えば当然、イシリッド人のほうに軍配があがるだろう。
そんな強烈な相手の猛攻をレクトとレジーの二人は慎重に確実に捌いていく。
時間をかけた持久戦は、今回の戦いでは不利になる点が多かったが、だからと言って初見の相手に功を焦って即座に方をつけようとすればたちまちの内にに返り討ちあうことがわかるだけの冷静さが二人にはあった。
そのために、今タイラントと戦っている『祝福の剣』の実力を信じ、少しずつコツコツとダメージを積み重ねることを重視して戦うことに専念していた。
「オノレチョコマカト!」
そうした努力が実り始めたのか、ククリ刀を振りかざすイシリッド人のほうが、こちらのしぶとさに焦れ始め出した。
そのような苛立ちが隙を生むこととなり、レクトの放った力強い横薙ぎをかわしたさいに体勢を崩してしまいレジーの追撃を許してしまう。
「グハッ!」
左脇腹の鋭い痛みを感じた所に手をそえれば、そこには衣服に裂け目があり、その下の紫色の肌を露出している。
踏み込みが甘かったのか、それとも皮膚が強靭だったのか幸いにして切り傷までは負っていないようだった。
「クッ!オノレ」
それでもイシリッド人は思わぬ反撃を受けて怒り心頭といった顔をしている。種族の異なるレクトとレジーにもわかるほどに。
戦う前の余裕のある態度から怒って興奮している姿を見た二人は真剣な表情は崩さずに内心ではほくそ笑む。
相手が怒りに我を忘れて見境無く暴れれば危険度は増すが、その分動きは大雑把になり隙をつきやすくなる。
そうなればお互い連携の訓練をする仲である二人なら十分な勝機が得られるはずだ。
そう思いながら次なる好機を伺っていると、当のイシリッド人が天に向かって雄叫びを放った。
憎悪と憤怒に満ちた叫び声が、相対するレクトとレジーの心を怯ませた瞬間、その場を支配する雰囲気のようなものが薄れて消えていくのを感じた。
そうした奇妙な感覚を感じ取れなくなるのと同時にイシリッド人は空いた左手をこちらに向けて突き出した。
ヒュゴ
突き出された左手からは本人の憤怒の感情が宿っているかのような赤黒い火の玉が出現してものすごい勢いでレクトとレジーの元へと飛んでいく。
その光景に二人は一瞬呆気に取られるが、すぐさま反応して素早く回避する。
そして間一髪の所で目標にかわされた火の玉は二人の遥か後ろで着弾し、盛大な轟音を轟かせて大爆発する。
「レジーさん!」
「ええ!」
今おこった出来事に二人は素早く目配せして状況を把握する。
二人の目的は【封印】の能力を使って暴虐のモンスターであるタイラントを討つことを邪魔する者を排除することにある。
その【封印】の力を持つ者が【封印】以外の力を使ったのだ。【封印】のシステムがどうなっているかは解らないが、相手が【火球】の異能を使って攻撃してきたということは【封印】の力を解除した可能性が高かった。
そのことに考えが及んだレジーは意識を集中させて【風刃】を発動しようと試みる。
すると手にした剣の先端に風の力が渦巻き集約されていくのを感じた。
「オノレ、調子ニノリオッテ。ユルサヌゾ!」
一方、手傷を負わされたイシリッド人は激昂していた。
彼らイシリッド人の認識としては人類など天恵がなければ取るに足らない軟弱な存在だったからだ。
事実、千年前、魔王の強襲により絶滅の危機に瀕していた人類は創世の女神から天恵をもらうことで窮地を脱することができた。
魔王が敗れた後に地下へと潜って潜伏していたイシリッド人は認識を改める機会を得ること無く千年という雌伏の時を過ごしてきた。
そんな中で彼らの地下帝国では地上侵攻の気運が高まり攻勢にでることになった。そして村を不意打ちして滅ぼし、ブルトンと仲間のパーティーも騙し討ちで倒した。
慎重に計画を立て、ここまで作戦を成功させ、遂にセルバの街を攻め落とす時が訪れた。
この計画もすこぶる順調で街で有力なハンターを多く仕留めることがでた。
それがここにきて調子を狂わされ始めていた。
偶然にも自分の居場所が見つけられ、思わぬ襲撃をくらい。襲ってきた相手を返り討ちにするどころか逆にジリジリと追い詰められてしまっていた。
そのため攻撃をその身に受けてしまったイシリッド人は逆上してしまい【封印】の異能を解除して【火球】の異能を発動させたのだ。
「遊ビハ終ワイダ!コレカラハ本気…!」
相手に絶望を与えるような宣言をしようとした刹那、レジーが試しに発動させた【風刃】が撃ち出されて来たので、イシリッド人は慌ててこれをよける。
その後も連続して【風刃】を撃ち続けて追撃するが、それには【障壁】の異能を発動させてイシリッド人は猛攻をしのいだ。
「調子ニノルナトイッテイルダロウガ!」
猛烈な【風刃】の連続攻撃を受けながらもイシリッド人を怒りに燃えた瞳を怪しく輝かせ攻撃のための異能を発動させる。
「レジーさん。下から来ます!」
禍々しい力の奔流をいち早く感知したレクトは、レジーに注意を促しながら、その場から飛び退く。
その言葉に反応してレジーも同様に、その場から飛び退くと同時に先ほど迄二人が立っていた地面から大地が錐場になって突き上げた。
もしレクトが異能の発動を感知することが出来なければ、二人とも無数に生えた大地の槍に串刺しになっていただろう。
それからもイシリッド人は【雷撃】【氷槍】といった異能を発動させて二人に猛烈な攻撃を加え続けていく。
どれも当たれば必殺の威力を持つ一撃であるため二人は全身全霊をもってこれをかわし続けていく。
レクト達の戦いはイシリッド人が【封印】の異能を解除してからのほうが本番となっていた。




