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 炎や雷が飛び交う中をレクトとレジーはハチやツバメを思い起こさせるような素早い動きでかわし続けていた。

 侮っていた相手から攻撃を受けたことになったイシリッド人は怒り心頭となって怒濤のような攻撃を続けていた。

 息急き付かぬイシリッド人の攻勢は凄まじいものがあったが、師匠であるジェイドがおこなった連続攻撃に比べればあまりにも温い攻撃としかいいようがなかった。

 ハンターとして経験が浅いレクトでもそう感じる攻撃を、ベテランであるレジーは危なげなくかわし続けていた。

 それでもレクトが一気に攻勢に出ないのは相手が奥の手を隠し持っていないかと用心して観察を続けていたからだ。

 レクトはジェイドから追い詰められ手負いになった獲物が思わぬ反撃にでることを教えられていた。

 そのために相手の行う攻撃がどんなものかを観察し続けた。

 レクトの見た所、自分達と相対するイシリッド人の攻撃は火球、電撃、氷槍と単発で直線で飛ぶものに時折地面から突き出す土の錐といったものだった。

 他にも何か隠し持っている可能性も考えていたが、力を振るう相手の姿を見る限り冷静に策謀を巡らせているようには見えず、むしろ怒りに任せてやたらめったらと撃ちまくっているように見えた。

「レジーさん!」

 相手の様子を観察し続け、その結果から何か決意を決めたレクトがレジーに語りかける。

「そろそろ勝負を決めようと思います」

 その言葉を聞いたレジーは驚愕の表情をするようなことはなく、目線の鋭さを微かに高める。

「そのための準備をする時間が欲しいのです!」

「いいわ。私が時間を稼げばいいのね」

 後輩からの決意をこめた頼みにレジーは心地よく承諾する。

 レジーは先輩としてレクトに経験をつませるために花道を譲ることにした。

 短いやりとりでお互いの役目を確認した所に、並んで駆け回る二人のもとに一際大きな火球が放たれる。

 どうやら二人が並走する姿を見てまとめて葬ろうと思ったイシリッド人が気合いのこもった火球を放ったようだった。

 だが今の二人にとっては、それは窮地にはならず、むしろ好機となった。

 迫り来る大きめの火球を紙一重でかわす二人、その直後に背後から大音量の爆発音が響き、続く衝撃波が瓦礫と土砂を巻き上げていく。

 そのおかげで圧倒的な量の砂煙が巻き起こり、二人の姿を隠す絶交の隠れ蓑となった。

 不鮮明となった視界の中でレクトは物影へと身を寄せ気配を断ち、レジーは相手の死角へと向かって一撃離脱の攻撃を繰り返していく。

 自らの行った絶大な威力の攻撃の副産物のおかげでイシリッド人は視覚を奪われるが、人を超えた身体能力で巧みなレジーの攻撃をさばいていた。

 その様子をしばし眺めていたレクトだったが、相手が冷静さを失いなおかつ視界が悪いのも手伝って攻めての人間がレジーしかいないことに気づいていないことに確信を持ったレクトは決着をつけるための準備をすすめる。

 そのためにレクトが行ったのは身に着けていた鎧を脱ぎ、さらにその下に着けていた鉛板を差し込んだシャツを脱ぐことだった。

 そうやって鎧と全ての重りを外したレクトはファルシオンを鞘に納めて、背には背負わずに手に持ち物影に隠れてその時が来るのを待つ。

 かくしてレクトが必要とする準備を終えた時、辺りを包んでいた砂煙は治まり剣を交える二人の輪郭が確認できるようになりはじめていた。

 そのような中でレジーの行う一撃離脱攻撃をさばいたイシリッド人がこちらに背を向けたのを隙だと判断したレクトは猛烈な勢いで駆け出した。

 強敵を倒すためにレクトが行った選択は自分の動きを制限する重りをはずして身軽になり、最速で最強の一撃を放つことだった。

「妖斬流!」

 充分な間合いに片足が入ると同時にこちらに気づいたイシリッド人が驚愕の表情を浮かべてこちらを見つめている。

 その視線に臆することなく手にしたファルシオンを鞘走らせて必殺の一撃を放った。

「烈空牙斬!」

 風よりも早く駆け抜け奥義の抜刀術を炸裂させると同時に標的となったイシリッド人の悲痛な叫びが周囲に轟いた。

 イシリッド人の背後に立ったレクトは油断することなく残心していたが、その顔は強敵を倒したという達成感はなく、何かを納得し難いといった感じになっていた。  

 そんな苦々しげな顔をしているレクトのもとに何かが落下してきた。

 それは今しがたの斬撃で切り落とされたイシリッド人の左腕だった。

 忌々しげな眼差しを向けてレクトが振り向くと必殺の一撃を放った相手は失われた左腕のあった肩口を押さえて苦悶の表情を浮かべて呻いていた。

 本来ならレクトの繰り出した奥義を用いた攻撃は敵の胴を両断するはずであった。しかし、相手は咄嗟に【回避】の異能を使ってかわそうとしたが、かわしきれずに左腕を切り落とされてしまったのだ。

「オ、オノレ」

 予想外の痛手を負い絶叫を上げていたイシリッド人は今度は一転して憎悪に満ちた目でレクトの方を睨みつける。

 それに対してレクトは先ほど相手を討ち損じてしまったことえの悔しい気持ちを早々に切り替えて、次の一撃で今度こそ討ち倒すべくファルシオンを構え直す。

 そして、必殺の一撃を加えるために必要な間合いへと一歩踏み出した。

 自分に手傷を負わせた憎き相手がこちらに間合いを詰めて来るのを見てイシリッド人も先程、痛みのために取り落としてしまったククリ刀を拾い、自身も前に出ようとするがどういうわけか踏み出すことができずにいた。しかも、それどころか自分の体が震え出していることに気づいて驚きを露にする。

「ドウイウコダ?マサカ!」

 自分の体におこった異常に驚愕しつつも、その原因がレクトにあると瞬時にさとったイシリッド人は慌てて相手を【識別】する。

「ナニ!天恵ガワカラナイダト!」

 本来ならレクトは天恵を持たない喪失者なのだがイシリッド人は魔王が敗れた後に早々に地下へと隠れ住んだ。しかも人類と接触する機会が少なかったために魔王討伐の後に現れた喪失者という存在は知るはずがなかった。そのためレクトの天恵を読み取ることができないと勘違いして慌てふためいてしまった。

 だが、それでもこの身におこった異常はレクトにあると思い執拗なまでに【識別】をし続けた。

 その結果レクトの持つファルシオンが【威圧】の異能を宿すアーティファクトであることに気づいた。

「ナッ、【威圧】ダト!コノ オレガ【威圧】サレテイルダト!」

 その事実にイシリッドは再び驚愕し、さらなる怒りに震え出す。

 イシリッド人が激怒する理由。それは【威圧】という能力は格下の相手か弱っている相手によく効く能力だ。だから自分が【威圧】で動けなくなっているということは自分は惰弱なはずな人間よりも格下だということになる。

「認メヌゾ!オレガ キサマニ【威圧】サレルナド認メヌゾ!」

 知らずのうちに受けた屈辱に狂乱するほどの怒りを感じたイシリッド人は手負いの獣のような獰猛さでレクトへと襲いかかった。

 常人なら恐怖で身がすくんでしまうほどの形相で襲いかかられてもレクトは臆することなく冷静に間合いを計って切り掛かる。

 イシリッド人の切っ先が振り下ろされるよりも早くレクトの斬撃が死の軌跡を描くが、イシリッド人は本能なのかまたもや【回避】を使ってかわそうとしたが、すでにその動きは見切られておりタイミングを合わせたさらなる踏み込みで脇腹を穿った。

「ギャー」

 本日二度目の絶叫をあげてイシリッド人は地面に倒れ臥し激痛のために無様に転げ回る。

 その姿を見るレクトの顔にはいかなる抑揚も感じない冷たい目をしており、油断が誘えるとはとても思えなかった。

「マテ!マッテクレ!」

 それでもイシリッドは喚くように命乞いをし続けた。

 生きる事の本能に従うように。

 だがレクトの師匠であるジェイド・カーシスの教えにより、例え相手が致命傷を負っていても魅力的な誘惑をかけてきても心を動かされることなく止めをさせるように訓練されていた。

 そのためレクトは最小の動きで手早く確実に止めをさせるように身構える。

 そして手負いの獣に逆襲されないよう充分に注意しながら切り掛からんとしたが、その瞬間に凄まじい轟音が辺り一帯に響き渡った。

 ズドーン

 何事かと思いレクトの意識は思わず音のするほうへと向かってしまった。

 目を向けた先の方には巨大な竜巻が現れ天高くそびえ立っていた。

「【竜巻】のノドム」

 巨大な塔のような竜巻を見てレジーがつぶやく。その名前はイシリッド人に戦いを挑む前にタイラントを倒せるかもしれない人物として聞いた名前だった。

 そうやってしばらく竜巻のほうに意識を向けていると、竜巻から何かが飛び出すのが見えた。

 突風の勢いで飛び出していった何かは街の東側のほうへと飛んで行き、ある程度行った所で重力に逆らうことができずに墜落した。

「あそこは?!」

 落ちて来た何かが、大爆発したかのような轟音と土煙をあげている場所を見て、何かに気づいたのかレジーは青い顔をして見つめている。

 一緒に見つめていたレクトもレジーの顔に映る驚愕の表情を見て何かを悟った。

「あの場所はまさか店のある場所か!」

 この状況を見て巨体を誇る何かが、レクト達が拠点としている宿屋『夜に哭く風亭』を圧し潰したのかもしれないとうことに気づき、レジー同様に不安な表情となる。

「レクト君!」

 この状況を見て次に何をするべきなのかを必死になって考えていると、レジーが先程とは違う驚きの声をあげた。

「はっ!しまった!」

 レジーに促され目の前へと視線を戻すと、重傷を負って喚き散らしていたイシリッド人が忽然と姿を消していた。

 わずかな痕跡として点々とした血の痕が残っていたが、血痕の続く先を見てもイシリッド人の姿は見えず、完全に見失ってしまったことに愕然としてしまった。

「クッ、すいませんレジーさん。オレが未熟なばかりに」

「いえ、いいのよ。本来なら私がしっかりしなきゃいけないのに」

 レクトとレジーは不覚をとってしまったことを悔やんだ。

 だが、今は緊急事態であるため、いつまでも失敗を悔やんでうつむいている状況ではなかった。

「レジーさん。行きましょう。店へ!」

 気持ちを沈ませていたレクトだったが、いち早く気持ちを切り変え、店の方を指し示す。

「レクト君。それでいいの?」

 本来なら取り逃がしたイシリッド人を追うべきなのだろうが、レクトはそれよりもどうなっているのかわからない店のほうを最優先させた。

「かまいません!あそこはオレ達とって大事な我が家も同然です!」

 決意を秘めた顔で、そう答えるとレクトは先ほど脱ぎ散らかした鎧やシャツを手早くまとめて、目的地へと駆け出そうとした。

「急ぎましょうレジーさん。みんなが心配です!」

「ありがとう。レクト君」

 そう言われて目頭に熱くなるものを感じつつもレジーは先に駆け出したレクトの後を追って全力で駆け出した。


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