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<23>

 その場所には肌を焼くような熱気が充満していた。

 熱気は、その場にあるあらゆるものが焼けただれて消し炭になった残滓として放たれていた。

 そこにある炭化して黒くなった塊は、かつて日常を謳歌する人々であった者であり、またそういった人々が住まう憩いの我が家であった物だ。

 それらが今、レクト達の前で亡骸と瓦礫となって広がっていた。

「これを、あのモンスターがやったのか!?」

 あまりにも凄惨な現場を目の当たりにしてケルトが、今にも吐き出してしまいそうなほどに青い顔をしていた。

「クソッ!ゆるせない!」

 アリエスは惨劇を招いた元凶に大きな憤りを感じた。

「……タイラント!」

 レクトはこちらに後ろ姿を見せて街の中心へと向かって行くモンスターが図鑑に描かれた凶悪な怪物であることに気づいて戦慄を憶えた。

「あなた達、ここは危ないわよ!」

 目の前の惨状に三者三様の反応を見せている中で、突然横合いから声をかけられる。

 自分達を呼止めようとしている声に気づいて振り向くと、そこには『夜に哭く風亭』の女将であり、彼らの指導を行う先輩ハンターのレジーが立っていた。

「レジーさん。状況を教えてください!」

 破壊された街並みを見て不安や怒りを憶えたが、頼れる先輩の姿を見ることができて安堵し冷静になることができたのでレクトはレジーから現状を確認する。

「最悪よ。『双頭の鷲』の二人組が死んだのだから」

「「「ええっ!?」」」

 思ってもみなかった答えを聞いて三人はとてつもなく驚く。

 その勇姿は見ることは出来なかったが、それでも周りの評価から優れた力を持ったハンターであることは窺い知れたので、信じられない言葉を聞いて自分の耳を疑ってしまった。

「いったいどうして!?」

 ケルトの口から当然の疑問が出て来た。

「私もついさっき来て遠くから見ていたからよくわからなかったけど……」

 そう前置きしてからレジーは自分が見たままの出来事を話し始めた。

 【凍結】のファルカスが雄叫びを上げながら天恵を使おうとしていたこと。

 いつまでたっても力が発動する素振りも見せなかったこと。

 続けてダルカスがそれをフォローするかのように天恵を使おうとするが同じ結果に陥ったこと。

 そうしている間にもタイラントがこちらに振り向いて炎を吐いて『双頭の鷲』と周囲にいた大多数のハンターを全滅させたことを話終えた。

「天恵が使えなかった?」

「そうなのよ。まるでブルトンの【封印】が発動したときみたいに、二人とも力が不発に終わったのよ!」

「ブルトンかもしれない」

「え?」

 レジーの口から出た一人の人間の名前を聞いて、レクトは一つの確信を得た。

「オレはここに来る途中に天恵が発動するのを感じ取った。だがそれは『双頭の鷲』がいた場所じゃない。

彼らの後ろからだった!」

「まさか!?」

「そのまさかかもしれません」

「あのバカ!よりにもよってモンスターの手助けをするなんて!」

 レクトの指摘によりレジーは最悪のシナリオを思い浮かべた。それはこのモンスターをセルバの街に引き込んだのはブルトンで、日頃の鬱憤を晴らすために討伐に向かったハンター達の邪魔をしているというものだ。

 いくら性根の腐った人間であっても、そこまで愚かな人間ではないと思いたかったが状況証拠的に、この推測が当たっているのではないかと思いレジーは軽く目眩を憶えた。

「そうだとすると早々にあのバカを見つけてとっちめないといけないわね!」

「そのためにはブルトンの居場所をつきとめなければなりません」

 そう言ってレクトは街並を見回すが、この広いセルバの街の雑踏の中で一人の人間を捜し出すのは用意ではない。

 しかも今は街の中にモンスターが現れて暴れている最中だから混迷の度合いが増しますます目当ての人物を見つけ難くしていた。

 だが、それでもこの難事をやりとげねばならない。そうしなければタイラントを倒せる可能性を持ったハンターがこちらに駆けつけても、また同じようなことがおこって返り討ちになってしまうからだ。

「レジーさんの天恵でタイラントを倒せますか?」

 しばらく最良の手立てはないかと思案していたレクトだったが、何かしら思い浮かんだのかそのようにレジーに尋ねる。

「無理ね。私の天恵は威力よりも手数で攻めることを得意とするように成長させてきたから」

「なら、この街で他にタイラントが倒せそうな人物に心当たりはありますか?」

「そうね私の知る限りでは『祝福の剣』にいる【巨大化】のラシェルと領主に仕える騎士の【竜巻】のノドムぐらいかしら」

「なら、彼らが来たら合流して協力を仰ぎましょう!」

「何か作戦があるのかしら?」

「作戦というほどではないですが」

 そう言いながらレクトは思いついた策を皆に説明する。

 まず、レクトは自分が天恵が発動するのを感知することができ、なおかつ大まかな位置をたどることができることを説明した。

 その上で、これから来るであろう強い力を持ったハンターに協力を仰ぎ、彼らが天恵を使おうとしたところに邪魔をするところを待ち構えて居所を探るというものであった。

「なるほど。それならいけそうね。それにしてもレクトが【テイマー】以外の天恵を持っていたなんて驚きだわ」

「……」

 レクトが修行して習得した技能をレジーに天恵と勘違いされて、レクトは複雑な表情をする。

 厳しい修行をやりとげてハンターとしてだけではなく一人の武人として成長した今になっても天恵を持たない喪失者である自分に対するコンプレックスはなかなか払拭できるものではなかった。

「あら、噂をすれば」

 そう言ってレジーが視線を向ける先から屈強な男達の一団が駆け足でやってきた。

「おう、レジー。すげえモンスターが街の中に突然現れたって聞いたぜ!」

 一団の先頭に立つリーダーと思しき男がレジーに気がつき声をかける。

「ええ、そうよ。それもとびっきり厄介な奴がね」

 声をかけられたレジーは彼らに悠然とした態度で街の中央へと進むタイラントを指し示す。

 レジーの指差す方向を見た彼らはタイラントの持つ巨体の迫力と無造作に腕を振るって撒き散らされる破壊の衝撃に息をのんだ。

「あなた達、彼らがさっき言ったハンターパーティー『祝福の剣』の一団で、彼がリーダーで鋼札のハンターの【巨大化】のラシェルよ!」

 レジーが紹介した『祝福の剣』の一団は全員大柄で筋肉質な体型をしており、モンスターの攻撃を防具よりも肉体で受け止めることができるように見える顔ぶれだった。

 その中でも先頭に立つラシェルはリーダーをしているだけあって周りよりも頭一つ大きく見えた。

 そんな頼りがいのあるハンターパーティーにレジーは現状を説明し、なおかつこちらに作戦に協力してくれるよう頼み込んだ。

「そうか、あの二人が死んだか」

 『双頭の鷲』の二人組の死を聞いてラシェルは腕を組んで感慨深い表情になるが、それも一瞬ですぐさま気持ちを切り替えて戦意をあふれさせる。

「要するにオレが天恵を使えば、あのバカがどこにいるのかわかるんだな?」

「はい。次にブルトンが天恵を使えば確実に尻尾を掴んでみせます!」

 作戦を聞いたラシェルが確認のために発案者であるレクトのほうをジッと見つめて確認する。

 ラシェルの視線がこちらを侮るものではなく、自らの男気を確かめるためのものだと気づいたレクトは自信と気迫のこもった返事をした。

「いい目をしているな。レクトと言ったな小僧。いいだろうおまえの策に乗ってやるぜ!」

 ボサボサの頭と無精髭伸ばしたラシェルの顔が爽快な笑顔を浮かべる。

 ほんの一瞬視線を絡ませただけでレクトの気合いの高さを感じ取ったラシェルは、相手を侮ること無く一人前のハンターとして接することに決めた。

「聞いてのとおりだ野郎共!敵はあの怪物だけじゃあねえ!この街にモンスターを引き入れたかもしれないブルトン達『ロックバスター』の連中達もだ!だがそちらのほうはこのレクトっていう新人のハンターがどうにかしてくれるから安心しろ!」

 ラシェルはそう言いながらレクトの背中をバシバシと叩きながら豪快に笑う。

 彼の率いる『祝福の剣』のメンバーも、そんな様子のリーダーに不安や不満を見せること無く心地よく賛同してくれた。

「レクトがブルトンを見つけたら私達(・・)が押さえるからその間あなた達に任せることになるわ。お願いね!」

「おう。任せとけ!」

 レジーはラシェル達『祝福の剣』のメンバーの頼もしい姿に信頼をよせた言葉を送る。

「レジーさん?」

 そんなレジーの言葉に引っかかるものを感じたレクトは訝しげな顔をする。

「ブルトンの所には私も行くわ!」

 憤慨した面持ちでレジーはレクトに同行することを宣言する。

「私の【風刃】ではあの怪物を倒せないことはわかっている。だから、あのバカを殴りに行くわ!」

「わかりました」

 レクトはレジーの瞳に隠された自分の力の及ばない相手へのやるせなさとそれでも衰えることのない闘志を感じ取り同行することを了承した。

「あなた達も当然パーティーとして一緒に行くわよね?」

 レジーはレクトと同様『止水明鏡』のパーティーメンバーであるアリエスとケルトほうを向いて二人の意志の確認をとる。

 そう聞かれてケルトのほうは直に賛同してくれたがアリエスのほうは難しい顔をしてしばし考えていた。

「レジーさん!私は『祝福の剣』の人達と一緒にタイラントに挑みたい!」

 しばしの間神妙な面持ちをしていたアリエスだったが考えがまとまって出てきた言葉は意外な一言だった。

「どうして?あなた達の実力ではまだまだ力不足だってわかっているでしょ!?」

 あまりにも予想外の言葉に驚いてしまったレジーは大きく目を見開きながらアリエスの真意を尋ねる。

「私だって実力不足な相手だということこはわかってます!それでも私はあのモンスターこれ以上街を壊されたくないと思っています。だから『祝福の剣』の人達と一緒にあいつが暴れるのを止めたいんだ!」

 レジーに問われて答えたアリエスの瞳には固い決意と強固な意志が宿っていた。

「そこのお嬢ちゃんもいい目をしているじゃねいか」

 二人のやり取りを見ていたラシェルが興味深そうな顔をしながら会話へと入ってきた。

「そこのお嬢ちゃんの目は一度決めた事はテコでも動かさねえって感じの漢の目だぜ」

 さも面白そうな感じでラシェルにそう言われても、レジーは後輩を指導している者の責任感からかアリエスをなんとか説得しようとしている。

「アリエスといったな嬢ちゃん?ついてくるなら構わないがハンターである以上自分の身に何がおきても自己責任だ。そのことはわかっているな?」

 タイラントと戦うことをやめさせようとしているレジーを押しのけるようにして、ラシェルはアリエスへと覚悟のほどを問いただす。

「もちろん!私だってハンターの端くれだ!運が悪ければあっけなく死んでしまうということぐらいわかっている!」

「フッ。いい目をしているぜ。いいぜついてきな!ただしさっきも言ったが何が在っても自己責任だ。オレにお前を助ける義理はないというこおとを憶えておけよ!」

「私もさっき言ったとおり。そんなことはわかっている!だから気を使う必要なんかない!」

 そう言って真剣な眼差しと強い意志をぶつけ合った二人は力強く腕を交差させ不敵に笑いあう。

「ちょっとラシェル。勝手に話を進めないでよ!」

 そんな様子を呆気にとられて見ていたレジーだったが正気に戻って猛然と抗議する。

 だが、そんな非難の声などどこ吹く風と、ラシェルは背にある大剣を引き抜いて今にも突進するかのように身構える。

「行くぜ野郎共!オレ達の街を守るんだ!」

 ラシェルに続いて彼の率いる『祝福の剣』のメンバーが号令と共に同様に身構え、その後ろでアリエスも気迫を漲らせて後に続こうとしていた。

「待ってくれ!アリエスが行くならボクも行く!」

 引き絞られた弓のごとき緊張した雰囲気の中、ケルトが慌てふためいた様子で声を上げる。

 せっかく高められていた闘志が、今のケルトの一言で出鼻をくじかれた形になってしまったが、気にする様子も見せずにラシェルはケルトのほうへ品定めをするような視線を向ける。

「お仲間のお嬢ちゃんにも言ったがついてくるなら自己責任だぜ!わかっているな?」

「はい!」

 ラシェルから戦士の貫禄を纏わせながら、そう問われたケルトはラシェルの睨みに臆する事無く、自分の持つ最大限の気迫をのせた返事を返した。

「すまないレクト。本当は一緒に行くべきなんだろうけど、ボクはアリエスを放っておくことができないんだ」

「かまわない。お前が正しいと思った判断をしたのならオレはそれは指示する」

 すまなそうにそう言うケルトに対し、レクトは言葉の通りに遺恨もわだかまりも見せずに心地よく送り出すことにする。

「ケルトくん…」

「ちょっと!何言ってるのよ。放っておけないのはケルトのほうでしょ!」

 そんな様子を見てレジーは何かを言いかけたが諦めたように呆れた顔をし、アリエスは腑に落ちないといった顔をする。

 そうしている内に周りのそういった雰囲気に感化されたのかポップがレクトの裾をクイクイっと引っ張る。

「どうしたポップ?」

 しゃがみ込んでポップの真剣な眼差しを見つめたレクトは、そこに宿る強い意志を読み取ろうと思考する。

「ケルトと一緒に付き合おうと思っているのか?」

 しばし考え込んだ後、行き着いた考えを確認するためにポップに問いかける。

 レクトがまがい物ではなく本物の【テイマー】の天恵を持っていたならある程度は相手の気持ちが流れ込んできて何とはなしに考えが解るのだが、それはかなわない事ゆえ表情や仕草で読み取るしかなかった。

 かくして自信を持って口にしたポップの思いに対して当の本人は静かに力強くうなずいて、これを肯定した。

「そうかありがとう」

 思っていたとおりの考えだったことにレクトは嬉しさを憶えながら立ち上がり、その思いをケルト達にも伝える。

「アリエス、ケルト。ポップも二人に着いて行きたいと言っている」

「それは心強いな!」

「ポップが来てくれるのは嬉しいけど、私ってそんなに頼りないかな?」

 レクトの告げるポップの意志を聞いてケルトは素直に喜び、アリエスは腑に落ちないといった顔をしながらもポップの頭を優しくなでる。

「あなたが猪突猛進な性格をしているからよ」

「ムゥ!」

 レジーの冷静なツッコミを受けてアリエスは膨れっ面をしてしまう。

「今度こそ話はまとまったか!」

 出鼻を挫かれた後、レクト達のやり取りを半分焦れて、半分は微笑ましい雰囲気で見守っていたラシェルが声をかける。

「はい。大丈夫です!」

 一同を代表するようにケルトが返事をする。

 それを聞いたラシェルはアリエスになでられて愛くるしい姿を見せるポップにちらりと視線を向ける。

「それが噂のブレーダラビか」

 ブルトンの下っ端三人組が新人といざこざをおこしたあげくにコテンパンにやられて身ぐるみをはがされたという噂を聞いていたラシェルは、可愛らしポップの外見に騙されないようにさり気なく相手を観察する。

 全身が茶色く手足の先だけが白いモフモフとしたこの小動物は一見すると無害に見えるが、その内側には噴火する前の火山に似た大きな力が秘められていることにラシェルは本能的に感じ取っていた。

 とても最弱のモンスターの部類に入るブレーダラビとは思えぬほどの張りつめた気迫を感じる事にラシェルは頼もしさを感じるとともに相対する事になれば強敵になることを察し、戦場に立つ者の喜びを感じた。


 グオオオオッ!


「おっといけね!」

 新人ハンターの初々しい姿にいささか和んだ雰囲気になったが、タイラントの放つ雄叫びに正気に戻りにき合いを入れ直すラシェル。

「よし、野郎共今度こそ気合いを入れていくぞ!オレ達の街をあのデカ物から守るんだ!」

 一度は出鼻を挫かれることになったが、それでも話はまとまり再び勇猛な男達が怒号と雄叫びをあげて士気を高める。

 そんな頼れる仲間達の様子に満足したラシェルは静かに力強くうなずいた後、背にある大剣を抜き放ってから全力で駆け出した。

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