<17>
その日の夜、『夜に哭く風亭』の食堂にレクト、ケルト、アリエスの三人が同席して食事を楽しんでいた。
「今日のレクトの活躍を祝して乾杯だ!」
ジョッキに並々と注がれたエールを高々と掲げてアリエスが乾杯の音頭をとる。
それにつられてレクトとケルトの二人もジョッキを高く掲げて打ち付け合う。
「プハー!それにしても今日のレクトは本当に凄かったな!」
「同感だな。まさか僕らと同様にハンターになりたての木札の人間が鉄札のハンター四人と戦って勝ってしまうなんて、この目で見たことなのに今でも信じられないよ」
エールを一気飲みしたアリエスが今日見たレクトと『ロックバスター』との戦いの様子を思い浮かべながら感嘆の声を上げ、ケルトはエールを一口ふくんでからしきりにうなずきながらそれに同意した。
「どうしたらそんなに強くなれるんだ!」
エールの御代わりを頼んだアリエスが好奇心に瞳を輝かせながら聞いてくる。
「ひょっとしてレクトは【テイマー】以外の天恵を持っているのか?」
顎に手を当ててしばらく思案した後、ケルトはそう聞いて来た。
「オレは…、オレが強いのは師匠に巡り会えたからだ」
ケルトに天恵のことを聞かれて胸の奥にうずくものを感じたが、それも一瞬のことですぐに気を取り直して師匠であるジェイドのことを語りはじめた。
「そんなすごい人がこの世にいたのか!」
「ふむ…、ジェイド・カーシス…?」
浮かれてレジーにした話を再びアリエスとケルトに話した。
話を聞いた反応はどうなのかと二人を見てみると、アリエスは先ほど以上に瞳を輝かせうっとりとした表情をしている。
それに対してケルトは先ほどよりも深く考え込み、酒や料理にほとんど手がつかない状態になっていた。
「そうだ!あんた私達と組まないか?」
「あら、それはいい考えね」
串焼きを一口ほおばった後、アリエスは名案が浮かんだとばかりに勢い込んでレクトにそう提案してきた。
レクトがどうするべきかと思案顔していると、横合いからそれに賛同する声が聞こえて来た。
宴の席に着いているものが一斉に声のするほうへと振り向くと、そこにはアリエスが注文したエールの御代わりを持ってきたレジーの姿があった。
「私もあなた達ならいいチームになるんじゃないかと思っていたところよ」
『夜に哭く風亭』の女将であるレジーは固定のパーティーを組まずに宿に来た新人ハンターと組んで若手の育成をすることを現在の生き甲斐としている。
そんなレジーが今日、レクトをアリエスとケルトのコンビに引き合わせたのはもちろん三人と一羽でパーティーを組ませるためだった。
いくらセルバの街に現れるモンスターが農作物を食い荒らすタイプのものが主流でも、持っている異能の数が二、三個だろうと危険なモンスターとやりあっているのは変わらないのだ。なるべくならそれなりの人数で狩りに出て欲しいと思うのはレジーなりの親心というものであろう。
小さな村から腕に覚えがあって街に来る若者は毎年大勢いる。
しかし、それらの若者が必ずしも充分なパーティーを組める人数で訪れるわけでもない。
中には一人で来る者だっているのだ。
そういった人間が街に来ていきなりパーティーを組めるとは限らないのだ。
そのためレジーはそういった若者がソロで無謀な狩りをして命を散らさないようにするために、新人どうしが気軽にパーティーを組めるように骨を折ることを生き甲斐にしているのだった。
そんな優しさがこめられた言葉をかけられたレクトはしばらく考え込んだ後、意を決したのか自分の胸中にある思いを皆に語りはじめた。
「オレとパーティーを組んでもいいと思ってくれるのなら、オレは皆に言っておかなければならないことがある」
各自の反応をうかがいながら重い口調で言葉を続けるレクト。
「オレはいつかアスタリウスに行って闘神大会に出ようと思っている」
その言葉を聞いて全員が一様に驚いた顔をする。
そしてアリエスとケルトがそれぞれ興奮しながら感想をのべた。
「おお!あの闘神大会か!私も参加したいと思っていたんだ!」
「そうか!ジェイド・カーシス。どこかで聞いた名前だと思ったらあのジェイド・カーシスか!」
レクトが目標としている闘神大会とはセルバの街の西にある闘技場都市と呼ばれるアスタリウスで4年に一度おこなわれるこの国最大と言われる大きな武芸大会だ。
一つの大闘技場と四つの小闘技場を中心にして発展したこの街には闘士と呼ばれる闘技場での試合を生活の糧とする人間がたくさん集まっている。
そして彼らの強さはハンターのようにランクづけされており、その中からある一定以上のランクの闘士が集まってその中から最強の闘士を決める催しが闘神大会である。
レクトの将来の目標は、このセルバの街でモンスター相手に経験とお金を稼ぎ、しかるのちアスタリウスに行って闘士になって闘神大会に参加して優勝して闘神の称号を得るというものであった。
「たしか20年ぐらい前に飛び入りで参加した男が【剣聖】の天恵を持つ闘士を破って優勝したという話があった。しかも【剣聖】は大会初の三連覇がかかった試合だった。その【剣聖】の三連覇を阻止して優勝した男の名がジェイド・カーシスだという話だ!」
ケルトが喉の奥に引っかかった小骨がとれたような顔で、今思い出した噂話を披露する。
レクトが闘神大会に参加したいと思う理由はこの噂を聞いたからであった。
修行に関すること以外で会話が弾むことのなかった師弟であるため、ジェイドがいなくなった後に師匠の残した足跡の噂を聞いたレクトはアスタリウスの闘士にも興味を持つようになった。
そのため一時はハンターと闘士、どちらになろうか真剣に悩んだが、結局、セルバでハンターとしての経験をつんだ後にアスタリウスに行って闘士となり闘神大会に出場することにしたのだ。
「う〜ん。だがそうなるとおかしいな?」
ジェイド・カーシスという人物が何者なのかの噂を思い出したケルトは、レクトが語った件の人物に関する事柄に疑問点を感じて悩み出す。
「レクトが会ったジェイド・カーシスは20代なかばだというなら、20年前に闘神大会で優勝したジェイド・カーシスはいったい幾つだったんだ?」
「それってただ単に同姓同名の人間がいたってことじゃないの?」
ケルトが首をひねって考え続ける中、エールの御代わりを飲み干したアリエスがあっけらかんとした答えを導き出す。
「単純に考えればそうなるな…」
「そうよ!ケルトは少し考えすぎなのよ!」
同姓同名という言葉に腑に落ちないものを感じつつも、それ以外の答えを出せずにいるケルトを酒で顔が赤くなり始めたアリエスは背中をバシバシ叩きながら同意させる。
「それならお義父さんに話を聞いてみる?」
「えっ!」
「お義父さんは昔アスタリウスで闘士をやってたって言っていたから何か知っているかもよ」
仏頂面して考え込んでいるケルトの姿に見かねたのかレジーは助け船になるようなことをつぶやくと給仕としてまた忙しく人々の合間を行き交い始めた。
せわしない夕餉の時間が終わりに近づいた頃、人気がまばらになったカウンター席にレクトとケルトは座っていた。
二人の向かいには白髪の初老の男であるこの宿の元主がグラスを磨いていた。
そしてアリエスは元いたテーブル席で酔いつぶれて寝ていた。
「それで…、マスター?いや元マスターかな?」
「フラルだ」
「あ、はい。フラルさんはジェイド・カーシスという人物を知っていますか?」
隠居したはずの元店主をなんと呼べばいいかわからずしどろもどろしていたケルトに老人は自分の名前をそっとつぶやくように教えた。
「ジェイド・カーシスか、懐かしい名を聞いたぞ」
その名を聞いたとたんフラルは天井を見上げしばし過去の郷愁に思いを馳せる。
それから孫を愛する好々爺とした顔をしながら二人の前にグラスを置き上質そうなワインを注ぐ。
「そいつはワシからのおごりだ。遠慮するな」
なんとも高級品のように見えるワインをいきなり目の前にだされて恐縮している二人に対してフラルは心地よくすすめてきた。
「それでジェイド・カーシスについて知りたいんじゃったな?」
「知っていますか?」
「あの当時は誰もがその名をしっていたよ」
「闘神大会に優勝したからですか?」
「それもあるが、それよりもあの男は誰よりも圧倒的に強かったからな」
「戦ったことはありますか?」
「あるとも。ワシはあの時、予選であの男とかち合った運の悪い闘士の一人だったのだからな」
闘神大会はアスタリウスに住まう闘士にとって憧れの大会である。そのため参加者は百や二百では聞かない数になる。
だから初めに多人数によるバトルロイヤルを数度おこなって勝ち残ったものでトーナメント戦をやるというのが闘神大会のルールになっている。
その荒ぶるバトルロイヤルの予選でこの初老の元闘士はジェイドと戦ったというのだ。
「あの時の光景は今だに憶えておるぞ」
そう言ってフラルは懐かしくも壮絶な体験をした話をしてくれた。
フラルの話によると会場に入場し試合が始まるまでのわずかな時間で自分がどう立ち回るかを考えている最中にえらく場違いな格好をしている人間がいることに気づいた。
試合会場にいる全ての人間が完全武装しているなか、その人物だけが武器も防具も身につけずどこにでもいる庶民のような服装で立っていたのだ。
その容姿は灰色の髪と瞳をしており年のころは二十代半ばで、その表情はやる気に満ちあふれていながらも若干緊張しているというどこにでもいる闘士と同じものではなく、世の中全てに不満を持っているかのような不機嫌そうな顔で両手を組んでふんぞり返っていた。
最初は闘神大会をなめたバカな奴と思いすぐに興味を失ったが、試合が始まった後にその認識はすぐに改まることになった。
開始の合図が始まるや否や、その男の元に五、六人の闘士が殺到したのが横目のほうでちらりと見えたが、こちらは目の前の敵を倒すのに夢中になっていたので後は知ったことかと戦い続けた。
そして自分が目の前の強敵を倒して次の相手を探そうとしたとき驚くべき光景を目にした。
バトルロイヤルに参加している闘士の大部分がすでに倒されていたのだ。
それもたった一人の男に。
フラルはその時の様子を幸運にも見ることが出来た。
灰色の髪をした男を取り囲む複数の闘士達。
灰色の髪の男はこちらに背を向けていて表情はわからなかったが、そのかわりそれを取り囲む闘士達の表情は一様に見ることができた。
彼らの顔はどれもが恐怖と驚愕に彩られており、徒党を組んで取り囲んでいるのにも関わらず追いつめられて絶望したような暗い表情をしていた。
取り囲んでいた闘士達が二言、三言罵声のような声を浴びせている。
言い合いをしているようにも見られたが、会場の喧騒と離れた距離にいたため何を言っているのかはわからなかった。
それから問答無用とばかりに武器を振り上げようとした瞬間に男が動いた。
一歩前に出て拳を突き出す。
灰色の髪をした男がしたのはそれだけだ。
たったそれだけの単調な動きしかしなかった。
それだけで男を取り囲んでいた闘士達は瞬く間に倒れていった。
足を一歩前に出せばどんなに離れていても瞬時に間合いを詰められ、体重が乗っているようには見えない軽く突いているだけにしか見えない拳を打ち込まれた者はたちまちのうちに倒れ込み二度と立ち上がることはなかった。
フラルはそれを呆然と見ていた。見とれていた。それしかすることがなかった。
なぜなら、この予選会場の上で立っていたのはもはや自分と灰色の髪の男の二人だけだったのだから。
フラルはこの時どうしようもないくらいの恐怖にかられた。
目の前の人物が何をしたのか皆目見当がつかなかったからだ。
灰色の髪の男は自分を取り囲んでいた最後の一人を倒した後、ゆっくりとこちらに振り向いて来た。
「まだ一人残っていたか」
自分の姿を確認した男がそうつぶやくのをこの時は何故だかはっきりと聞くことができた。
そのようなことをつぶやく男の表情は戦いに喜びを感じるような戦闘狂のような感じなどまったくなく、どちらかといえばとても面倒くさいと言っているように見えた。
相手がそのような表情していることに何故だか侮辱されたような気分になったフラルは頭に血が上るのに任せるままに天恵を発動させようとしたが全ては手遅れだった。
何故なら灰色の髪の男はすでに一歩前に踏み出していたからだ。
フラルと灰色の髪の男の間には10デュメル以上の距離があったはずだった。にもかかわらず彼の者が一歩前に踏み出せば瞬く間に間合いを詰められ懐に入り込まれる。
それには一つの例外も無くフラルにも同様におこった。
そして今までフラルが見て来たとおりに拳が突き出され、今までと同じようにフラルの体に小突くように触れた。
その瞬間何かがフラルの体を突き抜けた。
それは矢玉などより速く大きく鋭いものだった。
言葉では語り尽くせぬほどの衝撃が体内を反響して駆け抜けていった。
フラルの体は見た目からは想像できないほどの威力のある拳打を受け、あっけないくらい簡単に意識を失い倒れ込んでしまった。
そこまでの話を聞き終えたレクトとケルトはしばし呆然とした後、目の前にあったワインを一気に飲み干した。
なにしろ聞いているだけで興奮してきて手に汗を握ってしまったのだ、そのため喉が渇いてしかたがなかった。
「それからワシは闘技場の医務室で目を覚ました。その後すぐだよ、あの男の名がジェイド・カーシスだということを知ったのは」
そこまで語り終えたフラルは懐かしき青春の1ページに聞き入ってくれた二人のグラスに再びワインを注いだ。
「それからどうなったのですか?」
上質そうなワインをもう一杯御馳走になったことに恐縮しながらもケルトは、その後の顛末を聞いて見た。
先を促されたフラルは自分の分のワインをグラスに注ぎ、ゆっくりと味わって飲み干してから続きを話し始めた。
予選で敗れたフラルはしばらく医務室のベットに居座るように寝転がり続けた。
その間も闘神大会は順調に運営され続け、ついに決勝の日を迎えた。
だが、それでもフラルはベッドの上で天井を見つめながら何事かを考え続けていた。
そして開催前の予想を覆して【剣聖】を破って今まで誰も名を聞いたことのないジェイド・カーシスという男が、予選でフラルをあっけなく倒したあの灰色の髪の男が優勝したという話を聞いてフラルは何かを決意して立ち上がった。
「ワシはあの時、闘士を引退することを決めたのだ」
「どうしてですか?」
「自分の限界を悟ってしまったのだ」
フラルはあの時、打倒【剣聖】を目指して自分の体調を最高の状態になるよう特訓を重ねてきた。
そして今度こそ【剣聖】を倒して闘神の称号を得ようと意気込んで出場してみた結果、無名の新人にあっけなくやられて予選敗退。
自身があっただけに衝撃も大きかった。
だからこそ何もかもが虚しくなり逃げるように財産をまとめてアスタリウスから旅立った。
それから目的も無くしばらくフラフラしていたが、このセルバの街で腰を落ち着けハンター稼業をしている内に拠点にしていた宿屋の一人娘に見初められ、この『この夜に哭く風亭』の主となったのだ。
「あれからもはや20年。いや30年になるのか。息子が大きくなって嫁までもらい孫までできたのだからな。かつて【沈下】のフラルと呼ばれたワシも年をとったものだな」
こうして人生の転機となった体験を語り終えたフラルは、どこか自嘲的とも見える笑みをみせながらカウンターから静かに立ち去り就寝へとつくのだった。
「すごい話だったな」
壮絶な半生とも言える体験談を聞き終えたケルトは感嘆の声をもらした。
そして話を聞いて興奮した体を冷ますように二杯目のワインを飲み干した。
「師匠だな」
「なに!?」
今まで一言も口を出さずに話に聞き入っていたレクトがポツリとつぶやく。
「それは間違い無く師匠だ。オレは師匠以外にそんなことができる人間を知らないし、他にいるとも思えない!」
強い意志と確信のこもった瞳でレクトはそう断言した。
「いや、フラルさんの話だとジェイド・カーシスは20年どころか30年前の人間だ!どう見ても50は超えていなければおかしいのに見た目が変わらない人間などいるのか!?」
「師匠ならおかしくない!」
ケルトの最もな意見を聞いてもレクトは前言を撤回することなく力強く断言する。
隣にいるケルトは自信満々なレクトの態度に啞然とするがレクトにはそう思うだけの根拠があった。
まずジェイドの戦い方。
レクトはジェイドと一緒に狩りを行うことが何度もあったので、ジェイドが得物を仕留める所を何度も見ていた。
それは今、フラルが語ったのと同じことをジェイドは行っていた。
すなわち一歩前に出て拳を突き出す。
それだけの動作で野生動物もモンスターも鹿もクマもイノシシもすべて倒してしまった。
これも天恵の力だと思い聞いて見るとやはり意外な答えが帰ってきた。
「修練による蓄積だ」
ジェイドは長年の鍛錬であれだけの力を手に入れたのだと言うのだ。
まさに驚くべき答えだった。
それを聞いたレクトは、それだけのことをできるようになるまでどれくらいの月日を費やすのかという不安を持ったが、それよりもいつか自分もそれだけの力を手に入れたいという思いを強く持ち、さらなる修行に励んだのだ。
そして、それとは別にジェイドと行った数々の特訓の日々の記憶だ。
ジェイドはいつも模擬戦を行うたび火球、氷槍、雷撃、地割れといった攻撃を死んでもおかしくないくらいの威力と勢いで放ち続けた。
しかもそれらは天恵でも異能でもない未知なる超常の力をもって休むことなく放ち続けるのだ。
そんなことができる人間がたかが外見の若さを保つことなどなんとでもなるのではないかと思っていた。
「修行しただけでそんなことができるというのか?それと天恵でも異能でもない超常の力?そんなものが本当にあるのか?」
レクトはジェイドの人物像は語っても修行の内容までは今まで語らなかった。
それは常人には信じることも理解することもできない苛烈な内容だからだ。
それが今、こうして語っているのは初めて聞く師匠の英雄譚と酒のせいであろう。
そのためか後ろから酔っ払いが抱きついてくるのにまったく気づくことができなかった。
「なーに二人して深刻な顔してんのよ!」
後ろから勢いよく抱きついてきたのはアリエスだった。
アリエスはレクトとケルトに比べて酒を飲む量が多く、ペースも早い。
そのため真っ先に酔いつぶれて先ほどまでテーブルに突っ伏して眠りこけていたのだ。
「レクトは私達と組んで明日から一緒に狩りをするんだからね!」
アリエスの顔はまだ赤く、足下もおぼつかない。おそらく今夜の出来事を奇麗サッパリ忘れてしまう可能性がある。
実はレクトは二人からの誘いを受けたが答えはまだいっていなかった。
いつかアスタリウスに行くつもりだが、それまでの間でよければと言おうとしたのだが、話題がジェイド・カーシスに移ったものだから、そのままズルズルと酒だけが進んでしまったのだ。
それに加えてアリエスが酔っぱらった勢いで暴れ出しそうになったのでてんてこ舞いになってしまった。
幸いなんとか押さえ込んで事なきをを得たが下手をすれば店の中が大変なことになっていただろう。
そうなってしまったら弁償するのにどれだけ無茶な狩りで稼がなければかと考えるとケルトは背筋に薄ら寒い者を感じながらも、そんなことにならなかったことにそっと胸を撫で下ろした。
「だめよアリエス。そんな毎日狩りばっかりしてちゃ」
アリエスが絡み酒をしそうになったのを止めたのは給仕の仕事が一段落したように見えるレジーだった。
「ハンターだからって毎日狩りをしているものじゃないのよ。今日狩りをしたら最低一日は休みを入れて休息と怪我の治療。それに消耗品の補充をするものよ!」
レクトとケルトからアリエスを引きはがしたレジーは、そのまま二階にある彼女の部屋に連れて行こうと肩に担いだ。
それを見たケルトは慌てたように手伝う事を申し出て三人で二階へと上がっていった。
しばらくして一階の食堂にはレジーだけが戻ってきた。
食堂に戻ってカウンターにまだレクトがいることを確認したレジーは、そのままレクトの隣に座ってから軽くため息をついた。
「ご苦労様です」
酒場でよくありそうな重労働を終えたレジーに、レクトは労いの言葉をかける。
「手伝ってくれてもよかったのに」
「ケルトが手伝いをかってでたのならオレがしゃしゃり出なくてもいいでしょう」
アリエスを二階にあげた時に、レクトが動こうとしなかったことにレジーは責めるような拗ねるような態度をとるが、その目が笑っていることから本気で言っているわけではないことを悟ったレクトは軽く流すことにした。
「さっきも言ったけど、毎日狩りをするのは体によくないわ」
軽い冗談を言った後に、レジーは打って変わって真剣な表情で語りかけてきた。
「だから、明日は狩りを休んでまた私につきあいなさい!」
そしてまた明るく朗らかな口調になって休日のお誘いをしてきた。
「それはいいですけど、どこに行くのですか?」
「フフッ。とてもいいところよ♪」
そう言ってレジーはいたずらっぽく笑いながらウインクした。




