<15>
『夜に哭く風亭』の女将レジーは今のところ固定のパーティーメンバーを持ってはいなかった。
結婚する前まではちゃんとしたパーティーを結成して狩りをしていたが、結婚を期に他のパーティーメンバーがそれぞれ違う道を歩むことを決めて解散したのだった。
そのため今は一人で狩りにいくか宿に来た新米ハンターを育成するための臨時パーティーを結成してモンスターと戦っていた。
そのような活動でハンターとして成り立っているのはこのセルバの街の周辺に生息するモンスターが血肉を貪る肉食獣ではなく農作物を食い荒らす草食の害獣が多いからなのかもしれなかった。
セルバの街の周辺は広大な農耕地となっており穀物、野菜、果物といった農作物の畑が辺り一面に広がっていた。
セルバの街を出たレジー達一行は畑のど真ん中に立つ一頭の牡鹿を遠くから眺めていた。
警戒して周囲を見渡している鹿の頭には針山を思わせるような鋭い突起がいくつも枝分かれして突き出した角があった。
「あれが鹿のモンスター。スパイクディアーよ」
物陰に隠れて様子をうかがっていたレジーが背後の三人にそう告げる。
「持っている先天性異能は【突撃】と【刺突】。あの角は人間を串刺しにして持ち上げることが出来るくらい丈夫で鋭いわ」
そう言われてしまうと思わず自分が串刺しにされた姿を思い浮かべて身震いしてしまうが、すぐに気を取り直して標的に鋭い視線を向ける。
「まずは私があいつを狩るわね」
レジーは単身乗り込んで戦闘の見本を見せることにした。
スパイクディアーがいる所はこれから種を蒔く畑の中心だ。
そのため周りは開けていて見渡しがいい。
そんな死角のなさそうな所のどこに隠れているのかというと隣の畑のあぜ道の壁際であった。
あぜ道と畑の高さの差は大してなさそうに見えるが、それでも立つことはできなくても匍匐前進ができるだけの段差はあった。
レジー達はそこからひょっこりと頭を出して狩るべき獲物の様子を観察していた。
しばらく周囲を見渡していたスパイクディアーが食べられる物を見つけたのか頭を地面へと垂れた。
それを好機と見て取ったレジーは素早く段差から飛び出し駆け出していく。
襲撃者に気づいたスパイクディアーも素早く頭を上げて自らへと襲いかからんとする者へと視線を巡らせる。
姿が鹿とはいっても相手はモンスター。向かってくる敵の姿を捉えると獰猛な野生の本能を発動させ迎撃準備を整える。
レジーも相手が反応して対応しようとする僅かな時間差をついて大急ぎで距離を詰めようと全力疾走する。
それでも彼我の差はかなりありレジーの持つ短剣の間合いにはかなりの距離があった。
レジーが必殺の間合いに入る前にスパイクディアーが角を突きつけて突進しようとし始める。
ヒュン
その瞬間、レジーは腰の短剣を抜いて一閃させる。とても短剣が届くような距離ではないにもかかわらず。
だがこの時のレジーの表情には焦りや絶望感など微塵も感じさせず、むしろ狩りをする喜びに満ちていた。
ザシュ
その自信のほどを証明するかのようにレジーが短剣を振り抜いてから間髪をいれずにスパイクディアーの左前脚に切り傷が生み出された。
足が自慢の四足獣が突然前脚を負傷してよろけてバランスを崩す。
それからもレジーは駆け足でスパイクディアーに近づきながらも両手に持った短剣を二閃、三閃させていいき、そのたびにスパイクディアーの足の傷は増えて行った。
短剣の間合いから離れているにも関わらず狩るべき獲物をレジーが負傷させることができる理由はレジーの持つ天恵にあった。
レジーの持つ天恵【風刃】は発動させ腕を一閃するごとに風の刃が生まれて飛んで行き、撃つべき敵に斬撃を行うという効果のものだった。
レジーの持つ天恵の優良性は彼女が身に着けている数々の宝飾品が証明していた。
瞬く間に両の前脚を負傷したスパイクディアーは自慢の俊足を使って突撃することも逃げることもできなかくなり無惨にも大地に倒れる。
もはや立つこともできなくなった獲物の姿を見たレジーはそこから一気に止めを刺そうと、さらに駈ける速度を上げるようなことはせず、一旦速度を落として回り込むように近づいて行く。
レジーがここであえて慎重な行動に出た理由は、ハンターとしての長年の経験から例え致命傷に見える手傷を負っても生き残るために、又は敵を道連れにするために最後の悪あがきをする相手がいるということを充分に知っているからだ。
そのためレジーは血の海に沈んでいる獲物の背後に回りこみ、そっと近づいて相手が動きそうにないことを確認して止めを刺した。
どうやら懸念していた最後の反撃はなかったようだ。
「こんな感じかしらね」
獲物を仕留め終えたレジーは悠然とした態度でレクト達のもとに戻り髪をかき上げながらそう言った。
「すごいですねレジーさん!私もあなたのようにかっこよくなりたいです!」
今回でレジーの戦いを見るのが二回目となるアリエスはその勇姿にいたく感激していた。
なぜならアリエスにとってレジーの戦う姿は彼女の思い浮かべる理想の戦乙女の姿の一つになるからだ。
「ありがとう。さあ皆で獲物を解体しましょう。それが終わったらレクト。あなたの戦い方が見たいわ」
そう言ってレクトを見つめるレジーの瞳には新米ハンターの実力を期待を込めて見極めようとする意気込みが感じられた。
レジーの指導の元、スパイクディアーは見事解体され、新鮮なブロック肉へと様変わりしていた。
これらは一部はハンター協会と提携している商会に降ろされ、商会に下ろさされなかった部分はレジーが住居としている『夜に哭く風亭』に下ろされる。
そう、昨日レクトがレジーに驕ってもらった鹿肉のステーキはこのスパイクディアーの肉を熟成させてから調理したものだったのだ。
かくして肉と骨と皮にバラされたスパイクディアーはレジーの背嚢に全て納められた。
レジーより大きな鹿の素材がレジーより小さな背嚢に全て収納することができたのは、それはこの背嚢がアーティファクトだからだ。
レジーの持つ背嚢は見た目以上に収納力があり、外見の約十倍の容積があると言われているものだ。
この容量拡張機能のあるカバン類はセルバの街の特産品とも言える品で鉄札以上の実力を持つハンターでないと買うことができない高級な品物だった。
そのためセルバの街でハンター業を始める人間の最初の目標は、この容量拡張カバンを買うことにあった。
「あれが次の獲物ね」
次にレジー達が訪れたのはこれから花を咲かせようとしている果樹園であった。
これから花が咲き乱れる場所となる地でレジー達が物影に隠れ様子をうかがっている相手は十匹位の猿の群れだった。
「あれはストラエテ。【群体】と【投擲】の異能を持つ猿のモンスターよ」
人間の子供位の背丈で茶色い毛並みをしたモンスター、ストラエテは群れで行動することにより能力が向上する【群体】と物を投げたときの命中率と攻撃力が上がる【投擲】の異能を持っていた。
「あのストラエテは【投擲】の異能を使って糞投げをしてくるから気をつけて!」
「はい!」
レジーの注意するとうりストラエテとの戦闘で一番気をつけなければならないのは糞無げであった。
ストラエテから凄い勢いで投げ出される糞に当たると強烈なダメージを受けるだけでなく、全身に鼻が曲がるような異臭が染み付いてしまうのだ。
この悪臭の強烈さは大通り歩けば人気がなくなるほどであり、体に染み付く頑固さは一、二回水浴びしただけでは取れず、このとき身に着けていた衣服は焼却処分をしなければならないほどであった。
「だからレクト君。もしストラエテの糞が当たったら、あなたは今夜野宿決定よ!」
「はい!」
春になったとはいえ立派な外壁のある街の外で野宿するのは精神的にいろいろときそうなのでレクトは気合いを入れ直して戦場へと赴くことにした。
まずレクトは足下にいたポップを抱き上げて真剣な眼差しを向ける。
「頼んだぞポップ!」
気合いの入った短い言葉だったがレクトの相棒であるポップはそれだけで何かを察したのか力強くうなずく。
言葉の無い静かな返事を確認したレクトはポップを地面におろした。そして下ろされたポップはそのままいずこかへと駆け足で去って行った。
向かって行く先はストラエテのいる群れの真っ只中ではなくレクトの右側面。
一見して見当違いの方向に走り去ったかのように見えるが、そうではない。その証拠にレクトの顔には困惑も絶望もなく、絶対なる自信と信頼に満ちていた。
遠くに過ぎ去るのを見送ったレクトは視線をストラエテに向けるが、意識はポップの気配を探っていた。
通常の【テイマー】の天恵ならティムしたモンスターの居場所は大雑把に把握できるが、レクトは特殊な状況でいくつかの偶然が重なった結果、ポップを相棒にすることができた。
そのためレクトには【テイマー】の持つ天恵の力が使えないため師匠であるジェイドに鍛えてもらった感知能力を使ってポップの位置を把握していたのだ。
その一方でポップのほうも隠密行動をしながらも攻略対象に見つからず、なおかつレクトが感知できるギリギリの気配を出して行動していた。
感知していたポップの気配がとある場所にたどり着いてから動かなくなったのを認識したレクトは腰のサーベルに手をかける。
レクトの持つサーベルには通常の物と比べると異なる点が二つあった。
それは鍔と柄だ。
鍔の部分には本来ナックルガードがあるはずなのだが、それはなく。代わりに円盤状の板がはめられていた。
そして柄のほうは、本来なら片手武器に適切な長さをしているはずが両手で握れる位の長さに延長されていた。
レクトの持つサーベルはどことなくジェイドの持つ刀に似ているように感じられた。
これは偶然似ていた剣をレクトが見つけて購入したというものではなく、ワザと似るように手を加えてもらったのだ。
昨日レクトは予備の武器となるサーベルを買う時に店主に一つの注文を出した。
それは鍔と柄の形を刀と似た物に作り替えることだった。
加工自体は店の職人がその場ですぐにやってくれたので、日をまたがずにすぐに受け取ることができた。
レクトが何故このような加工を頼んだかというと、持ち馴れた木刀と柄の長さを同じにしたということと師匠が持っていたのと同じ刀を持ちたいという欲求からくるもだった。
レクトはジェイドから愛用の刀を見せてもらっただけでなく、実際に触らせてもらい素振りまでさせてもらったことがあった。
そのためその時の感動が忘れられずに今でもどこかに刀が置いていないかと探してしまう時があるのだった。
別行動をとったポップの用意が整ったと判断したレクトは大きく深呼吸してから物影から飛び出し、ストラエテの群れへと一直線に駆け出した。
レクトがこちらに向かって来るのに気づいたモンスターの群れは威嚇の吠え声を上げながら一斉に取り囲むように動き始めた。
一体多数の優位性を確保するために包囲網を築き始めたのだ。
敵がこちらを迎え撃つための陣形を構築し始めたことに気づいたレクトだったが、それでも全力で前へと駆け出していく。
ストラエテの群れも襲撃者が決して引くことがないことを本能的に理解し威嚇から攻撃へと動作を移行した。
そのためストラエテの群れは地面に落ちてあるものを拾って大きく腕を振り上げる。
ストラエテの最強にして最恐の攻撃、糞無げを行うモーションを群れで一斉にとり始めていた。
全方位から行われる凶悪な攻撃に対してレクトは絶望に打ち拉がれた様子を見せることも、戦意を喪失することもなく撃つべき相手を見定めて前進し続ける。
そして悪臭と破壊力を秘めた魔弾が投げられようとしたときストラエテの群れに異変がおこった。
群れの後方に控えていたストラエテが悲鳴をあげながら次々と倒され始めた。
仲間の悲痛な叫び声を聞いて投擲体勢をとっていたストラエテの動きが一斉に止まり大きな隙が生まれる。
その隙をついてレクトは討つべきと見定めた個体へと一気に肉薄する。
それは人間より小柄な体格を持つストラエテにおいて唯一存在する人並みに大きな個体。
レクトが群れを見た時から真っ先に狩りとろうとした相手は、この群れを率いるボスであった。
ストラエテのような群れを形成する生き物は必ずそれを統率する個体が存在する。それはモンスターであっても同じことだ。
そして群れのボスとなるモンスターは必ず【統率】の異能を持ち、この力で硬い結束力と巧みな連携を発揮することができるのであった。
そのためこの群れの混乱は一時的なものでありボスの力によってすぐに収束されることになるが、混乱が治まるまでには若干の隙が生まれる。
しかしレクトにとっては、その若干の隙さえあれば標的を仕留めるのは造作も無いことであった。
ザシュ
群れのボスが混乱を治めるために大きく息を吸い込み雄叫びを上げようとした瞬間、まさに電光石火の勢いで振り下ろされた一閃でボスの首が切り裂かれた。
薄皮一枚残して切られた首は跳ね飛ぶことはなく、まるで涙がこぼれ落ちるように地面に落ちた。
ドサリと重たい落下音がした後に残った胴の切り口から思い出したかのように盛大な血しぶきが吹き出し、地面に血の海を作る。
鮮血の噴水が静まった後、ボスの体は力なく膝をつき、そのまま地面へと倒れこみ、自らの鮮血で作り上げた血の池へとダイブした。
バシャーン
盛大な水しぶきの音に群れの頂点である存在が討ち取られたことを理解したストラエテは雄叫びをあげながら右往左往しクモの子を散らすように逃げていった。
レクトは混乱し狂騒する群れには追い打ちをかけようとはせずにサーベルを構えて油断無く辺りを見据えている。
そして全てのストラエテがその場からいなくなり立っているものがレクトとポップの二人だけになったのを確認して、レクトは構えを解きサーベルを鞘に納めた。
「ありがとう。ポップ」
いつのまにやら側に来ていたポップにお礼を言ってからレクトは優しく頭をなでた。
なでられているポップもとても気持ち良さそうにしていた。
「素晴らしい連携だったわね」
物影から戦い振りを見ていたレジー達もレクトのもとに近寄ってきた。
鋼札を持つベテランハンターとして狩りを観察していたレジーはレクトとポップがいかに役割分担して連携していたかを見ただけで理解することができた。
【テイマー】の天恵が持つ者の基本戦略は、まず自分が使役するモンスターを前衛として突っ込ませて、主は安全圏から攻撃するというものだ。
だがレクトはポップを正面から突入させることはせずに迂回して群れの背後をとらせることにしたのだ。
そしてレクトが自ら前に出て囮となり、ストラエテに隙が出来る投擲攻撃をしようとした瞬間にポップが背後から攻撃して混乱させた。
あそこでストラエテが悲痛な叫びをあげていたのはポップに攻撃をされていたからだ。
そしてボスが群れの秩序を取り戻そうとしたところでできた隙にすかさず切り掛かったのであった。
「ありがとうございます」
「さすがはヤツルト村の出身ってところかしら」
レジーの賞賛をうけて照れくさいながらも返礼するレクト。
その後ポツリともらしたレジーの言葉にケルトとアリエスは血相変えて反応する。
「ヤツルト村!あのヤツルト村ですか!?」
「餓狼団が壊滅したという、あのヤツルト村!?」
レクトの出身地を聞いた二人は激しく興奮して詰め寄ろうとするが、そこはすかさずレジーが窘めた。
「すまない。少し興奮してしまった」
「私も悪かったわ。でもヤツルト村のあの噂を聞いていたからつい…」
ケルトとアリエスがヤツルト村の名前を聞いて取り乱してしまった理由、それは去年の秋頃におきた『餓狼団事件』のことを聞いていたからだ。
世界を又にかけて悪逆非道の限りをつくし、各国が血眼になって捜査の手をのばしているにも関わらず後一歩のところで逃げられてしまう神出鬼没さ。
そんな大盗賊団が田舎の小村で壊滅的打撃をうけあまつさえ首領さえも討ち取られたというニュースは世界中を震撼させた。
そして餓狼団を壊滅させたのは旅のハンターとそれに協力したヤツルト村の一同となっていた。
そのためヤツルト村の人間は凶悪な盗賊を退けることができる屈強な人間のあつまりではないかと噂されていた。
実際には首領と取り巻きをレクトが倒し、のこり八割はジェイドが倒したのだが、真実についてはあえてふせることにした。
その理由としてはレクトのような少年が筋骨隆々の大男である首領を倒したといっても誰も信じてもらえないという思いと師匠のジェイドが残した言葉に『部不相応な名声は時として人を不幸にする』というものがあったからだ。
レクトは今の自分の実力では餓狼団の首領を倒したという事実は災いしか招かないと思い、村長に頼んで前書したとうりに報告してもらうことにしたのだ。
「できれば餓狼団を壊滅させた旅のハンターの話しを聞きたい」
「私も聞きたいわ!」
餓狼団壊滅のニュースで一番気になるところはやはり正体不明の旅のハンターのことであろう。
このハンターについては噂に尾ひれがつき情報が錯綜しており、何が本当かわからない状態になっていた。
実際にはレクトが師匠ジェイド・カーシスのことを無断で脚色して伝えただけなのだが。
「それくらいならいいぞ」
「まちなさい。そうゆう話しはこんな所でするものじゃないわよ」
ケルトとアリエスにせがまれ村人一同と入念に打ち合わせて作ったお話をはじめようとしてレジーにとめられてしまい、二人はとてもがっかりした表情になる。
「それなら夕食の席できかせるよ。今夜はおごってくれるのだろ」
「それもそうね。それじゃあ楽しいお話は夜まで我慢するわ。今日はこれでかえりましょう」
そのように言われたのでアリエスは今日の狩りはここまでにして街に帰ることを提案する。
皆もそれに賛同し帰路につくことにしたが、それは目の前にあるストラエテの死体を処理してからだ。
「今夜は楽しみね。あの話しがもう一度聞けるなんて」
このまま猪突猛進して帰ろうとするアリエスを引き止めて協力して素材を解体するなか、レジーがイタズラっぽい笑みを浮かべてそうつぶやく。
「えっ!レジーさんは餓狼団の話しをもう聞いたんですか!?」
「ええ、聞かせてもらったわ。昨日の夜に」
実は昨日、レクトが鹿肉のステーキを御馳走になりながら聞いた話しに餓狼団のことが含まれていた。
酒は飲んでなかったが美味しいご飯に上機嫌になりながらも、話すべきことと伏せるべきことはきっちり判別してレクトは事の次第をレジーに語っていた。
「ずるい!こっちは今すぐにでも聞きたいのにレジーさんは先に聞いていたなんて!」
それを聞いてアリエスは憤懣やるかたないといった顔をしている。
その様子を皆で微笑ましく眺めているなか解体作業中暇そうにしていたポップが何かを伝えるかのように激しく地面を後ろ足で叩く。
その行動に訝しげな表情を皆がするなか、レクトだけが何かに気づいたのか険しい表情になって立ち上がり周囲をうかがいながら腰のサーベルに手をかける。
「誰かが天恵を発動している」
「それと殺気も感じられるわね」
レクトに続いて立ち上がったレジーも警戒心を強め同様に周辺に睨みをきかせる。
レクトがなぜそんなことがわかるのか疑問に思うケルトとアリエスだったが、レクトとレジーの放つただならぬ雰囲気にそんな思いは飲み込んで立ち上がり武器を構えた。
こうして全員が戦闘態勢をとり終えたのを見計らうかのように強烈な風切り音がこちらに近づきながら響いて来た。
この轟音が自らに迫り来る脅威だと感じ取ったレクトは、それが自分を傷つける前に迎撃するため当たりをつけてサーベルを振り抜いた。
ガキン
重量感のある金属音させながらレクトは見事に迫り来る脅威をサーベルで弾いた。
しばらく中空を舞って地面に沈み込みながら落下したそれは人の頭ほどもある重くて破壊力のある鉄球だった。
「誰だ!」
サーベルを正眼に構えて自分に殺意と脅威放ったほうえとレクトは叫ぶ。
「よく今のが防げたな。ほめてやるぜ」
そう言いながら出て来たのは戦斧と盾を装備した屈強な男。さらにその後ろにはレクトには見覚えのある三人の男達がいた。
レクトの見覚えのある三人組は昨日レクトに絡んで来た『ロックバスター』というハンターパーティーのメンバー、【一刀両断】のサイフル、【腕立て】のリディン、【屈伸】のデントの三人だ。
その前に立つ人物については見覚えはないが状況的に予想がついた。
そしてその予想を裏付けるようにレジーがその人物の名前をつぶやいた。
「【封印】のブルトン」
【封印】のブルトンを見つめるレジーの瞳には警戒心と嫌悪感がありありと浮かんでいた。




