<12>
新たに現れたのは三人組のハンターと思われる男達。
その顔ぶれを見たガイストンはとても渋い顔になる。
「若いの早くそいつをしまいな厄介なことになるぜ」
「できない」
心配そうにそう忠告するがそれは最早かなわぬことだった。
なぜならアマルグマの素材を封印していた呪符は一度収納から取り出すと二度と元に戻せない一回こっきりの使い捨て品だからだ。
だからもう広げてしまったからには引き取ってもらうか捨て置くしかできないのだった。
それを聞いてガイストンの顔はこれからおこる厄介事を予想してますます渋面へとなっていく。
「一仕事終えて来たんだボスは後から来るから先にオレ達の装備を見てくれ」
そう言って店主のガイストンの所まで来て、そこに置かれている立派なアマルグマの素材を見て感嘆の声を上げる。
「おお!すげえな立派なアマルグマじゃねいか。買い取りならこれでオレ達に装備を作ってくれ」
「こいつはそこにいる若い奴の持ち込みだ。これから注文を聞いて装備を作るところだ」
「なに!」
その言葉を聞いて三人は一斉に隣にいるレクトへと顔を向ける。
そしてそこにいるのが年端のいかない若造だと見て取るとお互い顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべた。
「おい小僧!おまえみたいな若造にこいつはもったいねえ!オレ達が有効利用してやるからとっととゆずりな!」
「そうだ、そうだ」
「サイフルの言うとおりだぜ!」
案の定というべきか三人はレクトをあなどってアマルグマの素材を奪おうと恫喝にかかった。
「断る」
「なに!よく聞こえなかったな。もう一度言ってみろ!」
「断る!と言ったんだ」
それに対してレクトは臆することなく断固とした態度で断った。
「なんだと!粋がるなよ小僧!偶然アマルグマを仕留めたからっていい気になるなよ!」
「そうだ、そうだ」
「オレ達に逆らうなんて百年早いぜ!」
ちょっと脅せば素直に渡すと思っていた男達は、断られて紅潮し怒りの表情を見せ始める。
「こいつを仕留めたのはオレじゃない。オレの相棒だ」
「相棒?」
「そうだ」
そう言ってレクトは足下にいるポップを抱き上げた。
巨体を誇るアマルグマを倒した相手として、それに負けないくらいの大男が現れるのを予想していた三人組だったが出て来たのが可愛らしいウサギなのを見て一瞬安堵の表情を浮かべた後大声でバカ笑いをし始める。
「ヒャッハー!バカ言ってんじゃねえぜ!」
「そんなウサギさんにあのアマルグマが倒せるものか!」
「そうだ、そうだ!」
レクトの言葉を信じる事が出来るわけもなく、三人は威丈高な態度でレクトをバカにする。
それに対してレクトは挑発されて怒り狂うような様子も見せずに、抱き上げたポップをジッと見つめる。
レクトから真剣な眼差しを向けられたポップは決意を固めた表情で静かに力強くうなずいた。
「ならば勝負をしよう!」
その言葉を聞いた三人はしてやったりといった顔でニマリと笑いとてもいやらしい顔つきになった。
「いいぜ。受けてたってやるぜ!ただしこのままやり合っても面白くないから賭けをしないか?」
「賭け?」
「そうだ。オレ達が勝ったらそこにあるアマルグマの素材を全てもらおう」
「オレが勝ったら?」
「ふん!そんなことは万に一つもないがオレ達の今持っている金を全部くれてやるぜ!」
そう言って三人は懐から金の入った袋を取り出してジャラジャラと振って見せる。
いくら入っているかはわからないが振った音と、袋の膨らみ具合から相当な額が入っているように思える。
「本当に金が入っているのか?」
だがレクトは胡乱な目をして訝しげな態度をとる。
「バカ言ってんじゃねえぜ!こちとら大物をしとめたばかりで懐は充分温まっているぜ!」
レクトに疑いをもたれて心外だという顔をした三人はわざわざ袋の中身を見せてくれた。
促されるままに除いてみると確かに大量の金貨がきらめいて見えた。
「いいだろう。賭けにのろう!」
金があるのを確認したレクトは賭けをすることを承諾した。
「よし!だったら表に出な叩き潰してやるぜ!」
そう言って三人組は早くも勝った気になって威風堂々とした態度で店を出て行く。
それに続いてレクトも外に出ようとするが店の主のガイストンが呼止める。
「気をつけろ。あいつらは腕は立つけど素業が悪いので有名なハンターのパーティーだ」
「大丈夫だ。オレもポップもあんな奴等には負けない」
バツの悪そうな顔でガイストンが忠告をしてくるが、レクトは自信の満ちあふれた顔で返事をする。
レクトが勝負を挑み、なおかつ賭けにまでのったのは安い挑発にのせられたからではなかった。
ただ単に大きな街のハンターと自分達の実力を比べてみたいというちょっとしたいたずら心のようなもので事を起こしただけなのであった。
「おら!さっさとこねえか!それとももう怖じ気づいたか!」
三人組はいらついた声でがなり立て、レクトを表へと呼び寄せる。
そんな向こうの脅すような態度に慌てふためく様子も見せず、レクトはポップを抱えて悠々と歩き出し、三人組へと対峙した。
「へへへっ。一応言っておくがオレたちゃ『雪崩落とし亭』の鉄札のハンター『ロックバスター』のパーティーメンバーだ。いつもはオレ達の他にボスを加えた四人で狩りをしているが用事があって外している」
「お前もハンターの端くれなら名前は聞いているだろう!なんったてオレたちゃ有名人だからな!」
「そうだそうだ。泣いて謝って許しを請うんなら今のうちだぜ!」
三人組はレクトが萎縮するのを狙って自分達のパーティー名を宣言する。
このパーティーはガイストンの言うとおり素業が悪くトラブルを何度も起こしているが、それらを荒事で無理やり片付けてしまうので他のハンターや街の住人からかなり嫌われていた。
「それで、勝負の形式はどうするんだ?オレは別段三人まとめてでも一向に構わんぞ」
だがレクトはずっと田舎暮らしで街に来るのも今日が二度目。街に着いたのも昨日とセルバの街の事情にはかなり疎いので『ロックバスター』という連中がどれほどのものかはまったく知らない状態だった。
「ほう、オレ達相手に随分余裕じゃないか。それに免じて一人ずつ相手をしてやるぜ!」
「小僧!そんな強がりを言ってられるのも今のうちだぜ!」
「そうだそうだ!」
抱き上げていたポップを地面に降ろしたレクトは三人まとめて来ても問題が無いと判断してそう言ったが、それが向こうには挑発していると感じられたのか一対一の戦いになることになった。
「まずはこの【一刀両断】のサイフルが相手をしてやるぜ?」
三人の中で唯一ジャラジャラと装飾品を身に着けた男がハルバードを振り回しながら前に出た。
「小僧。お前はモンスターを操る【テイマー】の天恵を持っているようだが、こき使っているモンスターがブレーダラビ程度じゃ、オレの足元にも及ばないぜ!」
「ヒュー、ヒュー。かっこいいぜサイフル!」
「そうだそうだ。テメエなんかがオレたちに挑むなんて百年早いぜ!」
三人組はポップを連れたレクトをモンスターを使役する【テイマー】だと勘違いしていた。
実際にはレクトは喪失者でポップは天恵で主従関係を結んだわけでもなく、剣を交えた結果武人として相通じるものを感じて共生しているだけなのだが、レクトはその辺の誤解を解こうとはせず彼らの想像に任せることにした。
「ガハハハ!さあどこからでもかかって来い!」
戦闘態勢を整えたサイフルはハルバードを大上段に構えて威圧的な態度で挑発してきた。
「よし、行って来いポップ!」
まずは相棒の実力を性格に把握しておこうと思いレクトはポップだけに戦わせることにしてみた。
ポップもレクトの考えに同意し四つ足のままでサイフルとの間合いを詰める。
「オラッ!かかって来やがれ!」
怒声を張り上げハルバードを振り回してこちらを威嚇する相手にポップは怯む事無く駆け出し先手をとる。
「バカめ!」
自分の武器の必殺の間合いにポップが入り込んだのを見てサイフルは渾身の一撃を撃ち込んでいく。
サイフルの持つ天恵【一刀両断】は斬撃武器を装備して攻撃すれば切れぬもはないという強力なものだ。
この天恵がどれほど優れているかは彼の身に着けている装飾品の数を見ればわかるはずだ。
なにせ首周りには数十個のネックレスが巻き付き腕には全ての指に指輪を着けているだけでなく腕輪や足輪なんかも着けているのだから。
勢いのある斧槍の一撃がまっすぐポップへと迫る。
その軌道が回避不可能なものと確信しサイフルは内心ほくそ笑む。
だがそれはすぐさま驚きへと変わる。なぜならポップは自分に迫る凶刃を紙一重でかわし、さらに間合いを詰めて来たのだから。
かわされたと思った瞬間左手に激痛が走った。
慌ててそちらに目を向けるといつのまにやら左の手首にポップが噛みつき、鋭い前歯を深く食い込ませていた。
「ギャアー!」
あまりの痛みに武器を取り落とし鮮血が溢れ出る左手を押さえてサイフルは絶叫し転げ回った。
この街では名を知られるくらいに腕の立つサイフルの攻撃は確かに重くて鋭いものだった。
しかしレクトと共に修行しジェイドから妖斬流無刀術を学んだポップにとってサイフルの動きはあまりにも遅すぎた。
四つ足のままで駆け回って余裕でかわせるくらいに。そのため攻撃後にできた隙に思いっきり噛みついてやったのだ。
ポップから受けた負傷でいつまでも七転八倒しているサイフルを見てレクトとポップは相手が戦意を喪失したのを確信した。
「くそっ!よくもサイフルを!」
サイフルがやられたの見て残りの二人が憤慨し、こちらに襲いかからんと身構える。
「今度はこの【腕立て】のリディンが相手だ!」
二人目はサイフル同様長柄武器のモールを装備していた。
「オレの天恵の力を見せてやるぜ!」
そう言った後、リディンはモールを振り回して襲いかかってくるようなことはせずに、その場でもの凄い勢いで腕立て伏せをしはじめた。
「フハハハハッ!この素早い腕立てを見るがいい!」
リディンの持つ天恵【腕立て】とは腕立て伏せを行った回数に比例して一時的に腕力が上昇するというものだ。
腕立てを行う回数が多ければ多いほど強力な攻撃が出来るが、それが出来るようになるまでの隙も当然大きなものとなる。
相手の奇行に戸惑った表情をしたポップは困った顔をレクトのほうに向ける。
レクトもポップと同様にどうしたものかと思案していたがジェイドの教えに『相手の能力の発動を丁寧に待つ必要などない!』というのを思い出したのでそのまま攻撃させることにした。
指示を受けたポップは恍惚とした表情で腕立て伏せを続けるリディンに素早く駆け寄り思い切り尻に噛みついた。
「ギャアー!」
尻を噛まれたリディンは尻を押さえて悶絶し、そのまま戦闘不能になった。
「おのれ!サイフルばかりかリディンまでも」
二人の同僚が無惨にも敗れたのを見て三人目の男が動き出す。
「二人の仇はこの【屈伸】のデントがとる!」
最後に残ったデントは刺付きの膝当てと足が一回り大きく見えるごつい脚甲を装備していた。
「オレの天恵の力を見るがいい!」
そう言ってデントはいきなり襲いかかって来るようなことはせず、その場で足を曲げたり伸ばしたりする屈伸運動を始めた。
「フハハハハッ!この素早い屈伸運動を見るがいい!」
デントの持つ天恵【屈伸】とは屈伸運動をした回数に比例して一時的に脚力が強化されるというものだ。
この後デントはリディンと同じ展開になり尻を押さえて悶絶することになった。
「クソ!これで勝ったと思うなよ!」
デントが大地に沈んだ後、痛みから悶絶していたサイフルが正気を取り戻して立ち上がる。
流血のしたたる左手のほうはいつの間にか取り出した軟膏を塗って治療していた。
「おぼえてやがれよ!」
尻から血を流している仲間たちに同様に軟膏を塗って復帰させた後、捨て台詞を残して立ち去ろうとするが、その進路にはポップが立ちふさがり通れなくしていた。
「て、てめえどういうつもりだ!」
逃げ道を塞がれて動揺しうろたえる三人組。
そんな哀れな姿を見せる三人にレクトはゆっくりと凄みをきかせて近づいていく。
「掛け金を払え」
「な、なに!ふざっ…!?」
目の前に立つレクトにそう言われ、賭けの事を有耶無耶にして逃げ出す事に失敗した三人組。ならば怒鳴りつけて脅して逃れようとするが鼻先に木刀を突きつけられたため出かかった言葉を飲み込んでしまった。
さらに追い打ちをかけるように背後にいるポップが立ち上がり濃密な殺気を三人に向けて容赦なく放ってくる。
「ぐぬぬ!」
前後を挟まれて打つ手のなくなった三人はうめき声を上げながらもおとなしくサイフを置いてその場をスゴスゴと去っていくのだった。
野次馬をかきわけて立ち去る三人組の哀愁の漂う後ろ姿を見送った後レクトはため息をついた。
「師匠に怒られるようなことをしてしまったな」
賭け試合が終わってからレクトはジェイドから『挑発に乗って猪突猛進するような奴は長生きできない』と言われたのを思い出し苦笑した。
「いやあ、大したものだな若いの!」
野次馬が今の出来事を語らいながら去っていく中、ガイストンが近づいてきて声をかける。
「さっきも言ったけどあいつらは腕はいいけど素業の悪さが原因で鉄札止まりだった連中だ。ボスの【封印】のブルトンがいないとはいえ大したものだ!」
そう言って豪快に笑うガイストンは心底愉快そうで、あの三人に今までどれだけ不快な思いをしてきたか窺い知れるというものだった。
「そうだ、申し訳ないが店主…」
「おお!そうだった仕事をしなきゃな!」
レクトが武具の注文をしにきたのを思い出したガイストンは喜び勇んで店に招き寄せる。
それからどんな装備を作るか相談し鎧を作るために体のサイズを測っていく。
「お前さん普段からこんなものを身に着けていたのか!」
体のサイズを測るために脱ぎ捨てた鉛板入りのシャツを持ち上げてガイストンは感嘆の声をあげる。
修行のための重りは免許皆伝された今でも身に着けていた。
ジェイドからは己の強さに驕って自堕落な生活をするようになればたちまち腕が落ちるということを常に言われていたからだ。
「そうだ店主。聞きたい事がある」
「うん、なんだ?」
さらに追加でサーベルを一本買おうとしたあたりでレクトはあることを思い出してガイストンに尋ねることにした。
「お勧めのハンターの宿を教えて欲しい」




