第57話 旅館の夕食
部屋へ戻って少しすると、夕食の時間になった。拓也とノエルが食事処へ向かうと、入口の近くで直樹たちとちょうど一緒になる。
「あ、ノエル!」
リカがすぐに駆け寄ってくる。
「リカ!」
「温泉入った?」
「入った! 外のお風呂で雪降ってたよ!」
「いいなー! リカの方も外のお風呂あったよ!」
そのまま話しながら案内された席へ向かう。広めの座敷には低いテーブルが並び、拓也たちの席にはすでにいくつもの小鉢や刺身、鍋の具、それに小さな陶板まで用意されていた。
「いっぱいある!」
「すごっ!」
ノエルとリカがほとんど同時に声を上げる。
「まだ全部じゃないですよ。温かいお料理はあとからお持ちしますね」
料理を運んでいた仲居が笑いながら言い、鍋と陶板焼きの下へ火をつけていく。
陶板の上には薄く切られた牛肉と野菜が並んでいた。火が入ると、しばらくして小さく音を立て始める。
「これお肉?」
「そうみたい」
ノエルがじっと陶板を見ている。その隣では、リカが鍋の蓋を気にしていた。
「これもう食べられる?」
「まだじゃない?」
美咲が答えると、リカは一度鍋から目を離した。けれど少しすると、また蓋を見ている。
「リカ、ずっと見てる」
「ノエルもお肉見てるじゃん!」
「僕はまだかなって思ってただけ!」
「リカも!」
拓也はそのやり取りを聞きながら、目の前の前菜へ箸を伸ばした。
「待ってる間にそっち食べたら?」
「あ、そっか」
「僕も食べる!」
それぞれ食べ始めると、さっきまで鍋ばかり見ていたリカも小鉢へ箸を伸ばした。ノエルも自分の前にある料理へ順番に口をつけていく。
少しして、鍋の中からぐつぐつと音が聞こえ始めた。
「あ!」
「鳴ってる!」
リカとノエルが同時にそちらを見る。
「今度こそできた?」
「そろそろいいんじゃない?」
直樹が蓋を開けると、白い湯気が一気に上がった。中には肉や白菜、きのこ、豆腐が入っている。
「おいしそう!」
「僕も食べる!」
取り分けてもらった鍋を食べながら、ノエルはすぐに次の一口へ進んでいく。リカも熱そうに息を吹きかけながら食べていた。
そのうち陶板の肉も焼け始め、香ばしい匂いが広がる。
「こっちもできた!」
ノエルがすぐに気づいた。
「ほんとだ」
拓也は焼けた肉をノエルへ渡し、自分の分も取る。
「おいしい!」
ノエルの尻尾が揺れる。
「リカも!」
リカも食べて、すぐに頷いた。
「これ好き!」
食事が進み始めたところで、美咲がふと思い出したようにリカを見る。
「そういえば、今日写真撮ったんでしょ?」
「撮った!」
リカがすぐに拓也の方を見る。
「タクヤおじちゃん、見せて!」
「はいはい」
拓也はスマートフォンを取り出し、昼間に撮った写真を開いた。
最初に出てきたのは、巨大な雪だるまと三つの雪像が並んでいる写真だった。
「これノエルが作ったの?」
美咲が画面を覗き込む。
「うん! こっち僕!」
ノエルが自分の雪像を見る。
「これリカ!」
「ちゃんと似てるね」
「でしょ!」
リカが得意そうに笑う。
次の写真には、雪像の前にリカとノエルが並んでいた。その次へ送ると、今度は拓也とノエルが一緒に写っている。
「あ、これリカが撮ったやつ!」
「ちゃんと撮れてるじゃん」
「リカ上手でしょ!」
「うん!」
ノエルがすぐに頷く。
「タクヤもちゃんと写ってる!」
「俺もいたんだから、そりゃ写るだろ」
直樹が画面を見て少し笑った。
「雪だるま、思ってたよりでかいな」
「ノエルがどんどん大きくしたの!」
ノエルは写真の中の雪だるまを見て、満足そうに尻尾を動かした。
写真を見ている間にも料理は少しずつ増えていった。焼き魚や茶碗蒸しが運ばれ、少しあとには揚げたての天ぷらも置かれる。
「まだ来るの!?」
リカが目を丸くする。
「いっぱい!」
ノエルも嬉しそうに新しく来た皿を見る。
「昼も結構食べてたよな?」
直樹がノエルを見る。
「食べたよ!」
「まだ余裕そうだな」
「うん!」
ノエルは迷わず天ぷらへ口をつけた。
食べながら写真をもう少し見ているうちに、話は明日のことへ移っていった。
「明日もいっぱい滑ろうね!」
「うん!」
「今度はリカが勝つから!」
「僕も負けないよ!」
「明日も朝から元気そうね」
美咲が笑う。拓也は残っていた鍋を食べながら、そのやり取りを聞いていた。
しばらくすると、ご飯と味噌汁、漬物が運ばれてくる。そこまで食べ終えた頃には、テーブルの上に並んでいた皿もだいぶ空いていた。
「お腹いっぱい」
リカが満足そうに言う。
「僕まだ食べられるよ」
「ほんとに?」
「うん!」
ちょうどそこへ、最後のデザートが運ばれてきた。小さなケーキと果物が並ぶ。
「あ、デザート!」
「やった!」
さっきお腹いっぱいと言っていたリカも、すぐに身体を起こす。
「別腹ってやつか?」
直樹が笑う。
「デザートは食べられるの!」
「僕も!」
最後まできれいに食べ終わる頃には、食事を始めてからかなり時間が経っていた。
それでもリカとノエルは、明日はどこから滑るか、雪遊びもするかとまだ話している。
「明日も雪だるま作る?」
「作る!」
拓也はリカとノエルの話を聞きながら、残っていたお茶を飲んだ。
今日一日だけでもかなり遊んだはずなのに、もう明日のことで頭がいっぱいらしい。
食事が終わって席を立つ時まで、リカとノエルの話はまだ続いていた。
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