第58話 Bランクダンジョンへ
翌日もリカとノエルは朝からスキー場へ出て、昼近くまで滑ったり雪で遊んだりしていた。帰る頃にはリカもノエルもまだ遊び足りなさそうだったが、また来ようと約束して、スキー旅行は終わった。
それからしばらくして。
拓也とノエルは何度かCランクダンジョンへ通い、最後まで攻略を終えていた。
次に進めるのはBランクだ。
拓也はリビングのソファに座り、スマートフォンでBランクダンジョンの探索動画を見ていた。
画面の中では、何人かの探索者が距離を取りながら魔物と戦っている。杖を持った魔物の前に光が集まり、次の瞬間には炎の塊が飛んだ。盾を持った探索者が前へ出て受け止めると、大きな音と一緒に炎が弾ける。
「……やっぱCとは違うな」
床に伏せていたノエルが顔を上げた。
「次ここ行くの?」
「行けるようにはなった」
「行こう!」
「うん。そのつもりなんだけど」
拓也はもう一度画面を見る。ノエルが強いのは分かっている。それでも、自分はほとんど戦えない。映像を見る限り、ノエルと自分だけで気軽に入る場所にも見えなかった。
その時、テーブルの上に置いていたスマートフォンが震えた。
「あ」
「誰?」
「葵さん」
「葵!?」
ノエルがすぐに身体を起こして、拓也のそばまで来る。
届いていたのは、久しぶりにノエルに会いたい、今度どこかへ行かないかという連絡だった。
「会う!」
「まだ何も返してないって」
「会おう!」
「分かった分かった」
拓也は少し笑いながら返信を打った。
そのまま何度かやり取りをし、Cランクを攻略し終えたことと、次はBランクへ行こうとしていたことも伝える。
少しして、葵から返事が来た。
「一緒に行きますって」
「やった!」
ノエルの尻尾が一気に揺れた。
「葵とダンジョン行く!」
「そうなるな」
拓也にとってもちょうどよかった。
数日後。
拓也はリュックを背負い、ノエルと一緒にBランクダンジョンの管理施設へ来ていた。
駐車場へ車を停めた時点で、Cランクの施設とは雰囲気が違った。
大きな建物の正面は広くガラス張りになっていて、入口の前には車を横づけできる屋根付きのスペースまである。中へ入ると、二階まで吹き抜けになったロビーが広がっていた。明るい石張りの床に大きなソファが並び、壁にはダンジョン情報を映す大型モニターがいくつも設置されている。
「広い!」
ノエルが周りを見回す。
「すごいな……」
館内案内を見ると、装備店や買取窓口だけではなく、個人用の大型ロッカー、装備の洗浄や乾燥をするスペース、休憩用の個室まで用意されていた。
さらに奥には、パーティー単位で使える準備室もあるらしい。ダンジョンのマップや出現魔物を確認できるモニターがあり、探索前の打ち合わせや装備確認もそこでできるようになっている。
「タクヤ、葵どこ?」
「ああ、探すか」
ノエルは施設より、もう葵の方が気になっているらしい。
ノエルとロビーを進んでいると、少し先のソファから人影が立ち上がった。
「拓也さん!」
明るい茶色の短い髪。動きやすそうな服に軽い装備を身につけた葵が、こちらへ歩いてくる。
その視線は途中から完全にノエルへ向いていた。
「ノエル!」
「葵!」
ノエルが嬉しそうに走っていく。
「久しぶり!」
「久しぶり!」
葵はすぐにしゃがみ、ノエルの頭を撫でた。
「相変わらずふわふわ!」
「そう?」
「そう! 会いたかった!」
「僕も!」
ノエルの尻尾が大きく動く。
拓也は少し離れたところで、その様子を見ていた。
「そういえば拓也さん、Cランク終わったんですよね?」
「はい。この前やっと」
「早くないですか?」
葵が少し驚いた顔でノエルを見る。
「ノエルがほとんど倒したんですか?」
「うん!」
ノエルはすぐに答えた。
「やっぱり!」
葵が笑う。
「Bランク行く前に、何か食べません? ここのカフェ結構おいしいですよ」
「食べる!」
拓也が返事をするより先に、ノエルが答えた。
「じゃあ行こっか!」
そのまま拓也たちはロビーの奥にあるカフェへ向かった。
店内は広く、大きな窓のそばにソファ席が並んでいる。探索者向けの施設とは思えないほど落ち着いた雰囲気だった。
席へ着くと、葵とノエルが並んでメニューを見る。
「ノエル、何食べたい?」
「これ!」
「それおいしいよ」
「葵食べたことあるの?」
「あるよ。こっちも好き」
「じゃあそれも!」
「いいね」
ページを変えるたびにノエルの食べたいものが増えていく。
「好きなの頼んでいいよ。今日は私が出すから」
「ほんと!?」
「うん!」
「やった!」
ノエルはまたメニューへ顔を近づけた。
結局、肉を使ったサンドイッチとパスタ、それに小さなデザートまで選んだ。葵も楽しそうに一緒に注文し、拓也は自分の分だけ頼んだ。
料理を待つ間、拓也はBランクのことを聞いた。
「葵さん、BランクってやっぱりCよりかなり危ないですか?」
「強い魔物は増えますね。魔法使うのも出ますし」
「動画見たんですけど、あれ見たらちょっと俺とノエルだけで入るの怖くなって」
「ああ、分かります」
葵は軽く頷いた。
「でも今日は私もいますし、大丈夫ですよ」
あっさり言われ、拓也は少しだけ葵を見る。
「慣れてるんですね」
「まあ、それなりには」
「魔法使うのいるの!?」
ノエルが嬉しそうに会話へ入ってくる。
「いるよ」
「どんな魔法?」
「火とか雷とか。杖持ってるゴブリンもいるよ」
「見たい!」
「もうちょっとしたら見られるかもね」
「早く行こう!」
「その前にご飯ね」
「あ、そうだった!」
葵が笑う。
料理が運ばれてくると、ノエルはすぐにサンドイッチへ口をつけた。
「おいしい!」
「でしょ!」
「こっちも食べる!」
葵の隣で次々と食べていくノエルを見ながら、拓也も自分の料理を食べ始めた。
しばらくして、ノエルがデザートまで食べ終える。
「おいしかった!」
「満足?」
「うん!」
「よかった」
葵は嬉しそうにノエルの頭を撫でる。ノエルもそのまま目を細めていた。
少しして、葵が手を止める。
「ノエル、抱っこしてもいい?」
「いいよ!」
「ほんと!?」
葵の顔が一気に明るくなった。
「じゃあちょっと失礼します」
葵はノエルの身体を支えながら抱き上げた。
「わ、軽い!」
「そう?」
「うん! かわいい!」
葵は嬉しそうにノエルを抱え、ノエルも嫌がる様子はない。むしろ葵の腕の中から拓也を見て、少し得意そうに尻尾を動かしていた。
「ずっと抱っこしてたい」
「ダンジョン行くんでしょ?」
「そうだった」
ノエルが言うと、葵は笑いながらゆっくり下ろした。
カフェを出たあと、拓也たちは探索前の準備スペースへ向かった。
葵は身体を動かしやすそうな服に、薄手の戦闘用グローブをつけていた。拳の部分だけ少し補強されているが、大きな武器や重そうな防具は身につけていない。
拓也はリュックの中身を確認し、飲み物やタオル、魔石を入れるための空きを確保する。
壁のモニターには、今日確認されている魔物の情報が並んでいた。
その中に、杖を持った小柄な魔物の画像がある。
「ゴブリンメイジ」
拓也が表示された名前を読む。
「これが魔法使うやつですか?」
「そうです」
葵が隣で答える。
ノエルは画像をじっと見たあと、嬉しそうに顔を上げた。
「早く会いたい!」
準備を終え、拓也たちは認証ゲートへ向かった。
拓也がカードを端末へかざすと、短い電子音が鳴る。
ゲートの先には、これまでと大きくは変わらないダンジョンへ続く通路が伸びていた。
「行こう!」
ノエルが真っ先に通路の先を見る。
「行こっか!」
葵もその横へ並ぶ。
拓也はリュックの肩紐を直し、ノエルと葵の後を追った。
拓也たちはそのまま、初めてのBランクダンジョンへ入っていった。
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