第52話 魔法でスキー?
リフトが上へ進むにつれて、下に見える景色はどんどん広がっていった。
「すごい! あんな下にいる!」
ノエルは拓也の膝の上からゲレンデを覗き込み、滑っている人を目で追っている。
「もうすぐ降りるぞ」
「ここで降りるの?」
「そう」
降り場が近づくと、拓也はノエルを抱え直した。椅子が足元の雪へ近づき、タイミングを合わせて立ち上がる。そのままノエルを抱えたまま少し前へ進み、邪魔にならないところまで出てから雪の上へ降ろした。
少し遅れて、直樹と美咲も上がってくる。
「高い!」
ノエルはすぐに斜面の下を見た。
さっきまでいた場所はかなり遠く、白いゲレンデが山の下まで続いている。その上を滑っている人たちも、ここから見ると小さく見えた。
「ここから下まで行くの?」
「行くよ!」
リカが嬉しそうに答える。
「リカ、先行く!」
「転ぶなよ」
「転ばないもん!」
板を雪の上へ向けると、リカはそのまま滑り出した。
最初はゆっくりだったが、すぐに速度がつく。左右へ曲がりながら斜面を降りていく。
「僕も行く!」
ノエルもそのあとを追って走り出した。
雪を蹴るたびに白い粉が舞う。四本の足で斜面を駆け下り、少し先を滑るリカとの距離をすぐに縮めていく。
後ろを振り返ったリカが目を丸くした。
「ノエルもう来た!」
「僕速いよ!」
「でもリカも負けない!」
リカが前を向き直り、また少し速度を上げる。
ノエルも楽しそうにその横へ並びかけたが、ふとリカの足元を見た。
板は雪の上を滑るだけで、ほとんど足を動かしていない。
「それやっぱり楽しそう!」
「スキー?」
「うん!」
ノエルは走りながら少し考えた。
「じゃあ僕も滑る!」
「どうやって?」
次の瞬間、ノエルの足元の雪が白く光った。
踏み出した先から、雪の表面が薄く凍っていく。
「え?」
リカが横を見る。
ノエルが一度強く雪を蹴ると、その身体が氷の上をすっと前へ滑った。
「わっ!」
思ったより滑ったらしく、ノエルの身体が少し横へ流れる。
「ノエル、大丈夫!?」
「大丈夫!」
前脚を広げて体勢を整えると、ノエルは一度止まった。
自分の足元にできた薄い氷を見て、すぐに顔を上げる。
「もう一回!」
今度は進む方向へ少し長く氷を作る。
雪を蹴る。
白い身体が、その上を一気に滑っていった。
「できた!」
「すごい!」
リカが声を上げる。
ノエルは嬉しそうに尻尾を上げたまま、さらに前へ氷を伸ばしていく。
最初はまっすぐだった道が、少しずつ斜面に合わせて曲がり始める。ノエルも身体を傾けながら、その上を滑っていった。
「リカ、見て!」
「見てる!」
「僕も滑ってる!」
「それスキーじゃないけど!」
「でも滑ってるよ!」
言いながら、ノエルがまた速度を上げる。
「速い!」
リカも負けじと追いかけた。
少し後ろを滑っていた拓也は、その様子を見ながら思わず笑う。
「それで滑れてんのすごいな」
ノエルは聞こえていないのか、氷の上を滑ることに夢中だった。
進む先へ薄い氷を作り、そこを滑る。曲がりたいときは氷の道そのものを少し曲げる。何度か繰り返すうちに、最初の危なっかしさはほとんどなくなっていた。
「タクヤ!」
少し先からノエルが振り返る。
「僕できた!」
「見てるよ」
「速いでしょ!」
「速い速い」
拓也が答えた、その直後だった。
前を見直すのが少し遅れた。
「あ」
板の片方が雪を取られ、身体が傾く。
立て直そうとしたが間に合わず、そのまま横へ倒れ込んだ。
「タクヤ転んだ!」
ノエルの声がすぐに飛んでくる。
リカも少し先で止まり、振り返った。
「ほんとに転んだ!」
「そんな嬉しそうに言うなよ」
拓也が雪の上から身体を起こす。
ノエルは氷を途切れさせて拓也のところまで戻ってきた。
「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと油断しただけ」
「ふふっ」
「笑ってるだろ」
「ちょっとだけ!」
リカも戻ってきて、笑いながら拓也を見る。
「タクヤおじちゃん、転ばないって言ってたのに!」
「一回くらいは転ぶよ」
「リカ見た!」
「僕も見た!」
「はいはい」
拓也が立ち上がると、ノエルは満足したようにまた前を向いた。
「じゃあ行こう!」
「今度こそリカが先!」
「僕の方が速いよ!」
二人はまた並んで斜面を降り始める。
リカは板で雪を切りながら曲がり、ノエルはその横で薄い氷を作りながら滑る。途中で何度も前後が入れ替わり、そのたびに二人の声がゲレンデに響いた。
やがて斜面の下まで降りると、ノエルは勢いを落としながら氷の道を消した。
「楽しかった!」
そのまま振り返り、今降りてきた斜面を見上げる。
「もう一回やる!」
「リカも!」
拓也が追いつくころには、二人はもう次のリフトの方を見ていた。
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