↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/58

第37話 部屋でゆっくり

 バイキングを終えて部屋へ戻ると、外はもうすっかり暗くなっていた。


 温泉にも入ったし、夕飯も腹いっぱい食べた。今日はもうどこかへ行く気もなく、拓也はテレビをつけると、そのまま手前のベッドへ横になる。


「はあ……もう今日は動きたくない」


 適当につけた番組の音が部屋に流れる。


 ノエルはもう一つのベッドへ飛び乗っていた。白い掛け布団の上を少し歩き回り、そのまま真ん中で伏せる。


「ふかふか!」


「そっちはノエルのな」


「僕の?」


「ベッド二つあるし」


 ノエルはそのまま身体を沈めて、しばらくテレビを見ていた。


 けれど数分もしないうちに立ち上がり、ベッドから下りる。次に向かったのは拓也の方だった。


「……ノエルのベッド、あっちだぞ」


「僕こっちで寝る」


「さっき喜んでただろ」


「でもタクヤこっちにいるもん」


「まあ、いいけど」


 拓也が少し身体をずらすと、ノエルは空いたところへすぐ伏せた。家でも寝る時はいつも一緒だ。


 頭へ手を置いて撫でると、ノエルは目を細める。首の後ろまで指を動かすと、少しだけ拓也の方へ身体を寄せてきた。


 テレビでは知らない芸能人が何かを食べて笑っている。


 拓也もぼんやり画面を見ていたが、隣のノエルを撫でているうちに、ふと思った。


「そういや、ノエルって向こうではどんなところに住んでたんだ?」


 ノエルは目を開けて、少しだけ考える。


「うーん……森だよ。木がいっぱいあって、僕たちもいっぱい住んでる」


「みんな同じところに住んでるの?」


「うん。お母さんもお父さんもいるし、友達もいるよ」


「へえ」


「みんなで森走ったり、遠くまで行ったりする。みんな速いよ。僕も速いけどね!」


「それは知ってる」


 拓也が笑うと、ノエルも少し尻尾を動かした。


 最初の日に見たノエルの母親を思い出す。ノエルと同じ白い姿だったが、大きさはまるで違った。向こうには、ああいう姿の仲間たちが普通に暮らしているらしい。


「楽しそうだな」


「楽しいよ」


 ノエルは前脚へ顎を乗せる。


「でも毎日同じなんだよ。森で遊んで、ご飯食べて、寝て。また遊ぶ」


「それでこっち来たの?」


「うん。向こうに何があるか見たかった」


「行ってみたかったんだもん」


 ノエルは前脚へ顎を乗せたまま、当たり前のように言う。


「森の奥にね、こっちに来られるところがあるんだよ。そこ通ったらタクヤの山だった」


「俺がいたところの、もっと奥か」


「うん。それで、いい匂いしたから行ったらタクヤがいた」


「結局肉かよ」


「お肉おいしかった!」


 ノエルの尻尾が布団の上で一度動く。


 あの日、森の奥からノエルが現れて、そのあと母親も同じ方からやって来た。帰る時も木々の間へ消えていったから、その先が向こうの世界につながっていたらしい。


「最初は、何日かいたら帰るのかと思ってたけどな」


「僕ずっといるよ」


 ノエルは間を置かずに言った。


 拓也は手を止めず、そのまま耳の後ろを撫でる。


 会社を辞めようと決めた時も、いつかノエルが元いた場所へ帰るかもしれないとは考えていた。本人にいつまでいるつもりなのか、ちゃんと聞いたことはなかった。


「……そっか」


「タクヤといるの楽しいもん」


 ノエルはそのまま話し続ける。


「おいしいものいっぱいあるし、知らないところいっぱいあるし。今日も温泉行ったし、バイキングもあった!」


「今日は特に多かったな」


「ゲームもあるし、ダンジョンもあるし」


「向こうにはダンジョンないの?」


「ないよ。あんまり戦ったりもしない」


「そうなんだ」


「森で遊んだりする方が多いよ」


 そう言って、ノエルは拓也の腕へ身体を寄せた。


 拓也は少し笑って、そのまま背中をゆっくり撫でる。


「お母さんたち、心配してないのか?」


「分かんない。でも心配してたら来るよ」


「前も来てたもんな」


「うん。お母さんもお父さんも、こっち来れるよ」


「じゃあ、そのうちまた会うかもな」


 ノエルは「うん」と答えて、しばらくテレビの方を見る。


 少し間が空いたあと、今度はノエルが拓也を見上げた。


「タクヤは、子供の時も一人で住んでたの?」


「いや。子供の頃は親と一緒だよ」


「お母さんと?」


「そう」


 ノエルは少し考える。


「子供のタクヤ、何してたの?」


「学校行ったり、友達と遊んだり。普通だよ」


「学校って何するところ?」


「同じくらいの歳の子が集まって、勉強したり運動したりするところ。毎日決まった時間に行く」


「みんな一緒なんだ」


「まあな。ずっと教室にいるだけじゃなくて、外に出かける日もあったぞ」


「どこ行くの?」


「近いところなら遠足とか。もっと大きくなると、みんなで遠くまで行って泊まったりもする」


 ノエルが少し身体を起こした。


「学校でも旅行するの?」


「修学旅行ってやつな」


「今日みたいにホテル?」


「ホテルとか旅館に泊まる」


「温泉もある?」


「場所によるな」


「バイキングは?」


「それも場所による」


 さっきまでゆっくりしていたのに、旅行の話になると目がはっきり開いている。


「僕も行きたい!」


「学校の旅行は無理だけど、また二人で行くか」


「また行こうね」


「うん。どっか行こう」


 ノエルは満足したようにもう一度伏せた。


 拓也はテレビへ目を戻す。しばらくして、ノエルがまた口を開いた。


「タクヤ、学校ずっと行ってたの?」


「俺は大学まで行ったよ。小さい頃から結構長い」


「そのあと会社?」


「そう。卒業して働き始めた」


「会社ではパソコン?」


「俺はほとんどそうだったな」


「楽しい?」


「楽しい時もあったけど、毎日行きたいほどじゃなかった」


「じゃあ辞めてよかった?」


「今はな」


 ノエルはそれを聞くと、また拓也の方へ身体を寄せた。


「タクヤずっと家にいるからいいね」


「まあ、前より一緒にいる時間は増えたな」


「うん!」


 背中を撫でていると、今度こそノエルの目が閉じていく。


 拓也はテレビの音量を少し下げた。


「もう寝る?」


「まだ寝ない……」


「目閉じてるけど」


「起きてる」


「そう」


 そのあと、ノエルから声は返ってこなかった。


 拓也はしばらくそのまま背中を撫でていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。