第33話 ホテル
灯台から坂を下り、二人は港の駐車場まで戻ってきた。
歩いている間に少し汗もかいたが、車の前まで来ると拓也はようやく一息つく。後ろのドアを開けて荷物を確認してから運転席へ乗り込むと、ノエルもすぐに隣へ乗った。
「次、ホテル!?」
「そう。ここからそんな遠くないよ」
「どんなところかな!」
「写真では見たけどな。俺も早く実物見たい」
拓也はスマートフォンで場所を確認し、車を出した。
港の近くを離れ、海沿いの道をしばらく走る。店の多かった場所から少し離れると、周りには宿らしい大きな建物が増えてきた。
道が緩く曲がったところで、前方に何階もある白い建物が見えた。入口の前には車寄せがあり、その横にホテルの名前が大きく出ている。
「あれ!?」
「……あれだな。でかっ」
拓也も思わず少し速度を落とした。ノエルは窓の外へ顔を向けたまま、ホテルが近づいてくるのを見ている。
「すごい! あそこ泊まるの!?」
「そうそう。今日と明日」
拓也も建物を見上げながら、そのまま案内に従って駐車場へ入った。
「着いた!」
「着いたな!」
車を停め、拓也は小さめのスーツケースを下ろす。ノエルは先に降りると、駐車場からホテルの上の方まで顔を上げていた。
「タクヤ、早く行こう!」
「行こう行こう」
二人で正面玄関へ向かう。大きな自動ドアが開くと、その先には広いロビーが続いていた。
床は明るい色の石張りで、正面の少し奥に長いフロントカウンターがある。片側にはソファや椅子がいくつも置かれ、中央には背の高い花が飾られていた。壁際には大きな絵も掛かっている。
ノエルは中へ入ったところで足を止めた。すぐ近くを大きなキャリーケースを引いた人が通り、その向こうではソファに座った人たちが話している。少し離れたところでは、スタッフが荷物を運んでいた。
「……広い!」
「うわ……いいな」
拓也も足を止めたまま、ロビーの奥まで見渡した。
ノエルは中央の花の近くまで行き、そこから壁の大きな絵を見上げる。今度はソファの方へ顔を向け、またすぐに拓也のところへ戻ってきた。
ノエルはもう一度ロビーの奥を見る。拓也もスーツケースの取っ手を持ったまま、少しだけその場に残っていた。
「……部屋も楽しみだな」
「僕も! 早く見たい!」
「じゃ、チェックインしようか」
二人でフロントへ向かった。
カウンターで名前を伝えると、予約はすぐに確認された。スタッフが宿泊日数を確認し、夕食の時間と一階のレストランについて説明する。続けて、大浴場は二階にあると案内された。
拓也がカードキーを受け取っている横で、ノエルは行き交う宿泊客を見たり、奥にあるエレベーターへ顔を向けたりしていた。
「バイキング、今日!?」
フロントを離れたところでノエルが聞く。
「今日の夜。場所もここから近いな」
「早く食べたい!」
「俺も。でも先に部屋見ようぜ」
「うん!」
ノエルはすぐにエレベーターの方へ向かった。
「タクヤ、早く!」
「はいはい。部屋は七〇二だって」
「七〇二!」
拓也も笑いながら、その後を追った。
エレベーターに乗り、七階まで上がる。扉が開くと、さっきまでのロビーとは違って人の声がほとんど聞こえなかった。
正面の壁には客室の案内があり、左に701から710、右に711から720と矢印が出ている。廊下には濃い色のカーペットが敷かれ、壁には一定の間隔で照明が並んでいた。
ノエルは扉が開くとすぐに右へ向かった。
「ノエル、逆逆。七〇二は左」
「あっ!」
ノエルはすぐに向きを変え、少し急いで拓也の前を通り過ぎた。
左の廊下へ入ると、両側に同じ形の扉が続いている。ノエルは扉の横の番号を一つずつ見ながら先へ進み、少し行ったところで足を止めた。
「タクヤ、あった! 七〇二!」
「お、あったな」
拓也が追いつくと、扉の横に702の数字が付いていた。
「開けて!」
「今開けるよ」
拓也は扉の横にカードキーをかざした。
短い電子音が鳴り、ランプの色が変わる。取っ手を下げると、扉が開いた。
二人で中へ入る。入口の先はまだ少し暗く、奥の様子まではよく見えない。
拓也は壁際にあった差し込み口へカードキーを入れた。
すぐに照明がつき、部屋の中が明るくなった。
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