第31話 昼ご飯
海が見えてからしばらく走り、高速道路を降りる。道路の周りには低い建物が並び、少し進むたびに店の看板や観光客らしい人の姿が増えていった。
拓也は港の近くにある駐車場へ車を入れた。
「着いたぞ」
「着いた!」
ノエルは拓也がドアを開けるのを待って、すぐに車から降りた。
駐車場の向こうには海が広がっている。道路を一本渡った先には店が並び、そのさらに向こうには何隻もの船が停まっていた。
車の中から見ていた時よりも海がずっと近い。
ノエルはその場で海を見たあと、今度は港の方へ顔を向けた。
「タクヤ、あれ動く?」
ノエルが顔を向けた先には、白い船が一隻停まっている。
「船? 動くよ。あれで海の上走るんだよ」
「乗れるの?」
「乗れる船もあるけど、今日は乗らないかな」
ノエルは少し船を見ていたが、近くを飛んでいった海鳥に気づいて顔を上げた。拓也も荷物を車に残し、必要なものだけ持って歩き始める。
港沿いの道には観光客向けの店が並んでいた。魚や貝を売っている店もあれば、店先で魚を焼いているところもある。
香ばしい匂いが流れてくると、ノエルの足が少し遅くなった。
「いい匂いする」
「腹減ってきたな。昼飯の店、もうちょっと先」
「もうお昼ご飯?」
「ちょっと早いけど、混む前に入った方がよさそうだしな」
それを聞くと、ノエルはまた先へ歩き始めた。
店先に並ぶ魚を覗いたり、港に停まっている船を見たりしながら通りを進む。岸壁のすぐ横まで来ると、下で海水が揺れているのが見えた。
ノエルは端まで近づきすぎないところで足を止め、下を覗き込む。
「近い!」
「落ちるなよ」
「落ちないよ!」
すぐ近くを小さな船が通り、船の後ろに白い波が広がった。ノエルは身体の向きを変えながら、それが遠ざかるまで目で追う。
そこから少し歩くと、拓也が見覚えのある店を見つけた。
「あ、ここだ」
旅行先を決めた日に、二人で写真を見ていた店だった。
ノエルも入口の写真を覚えていたのか、すぐに拓也より前へ出る。
「ここ!」
「そう。昼ここで食おうって見てたところ」
「早く入ろう!」
店の中は昼前でも何組か客が入っていた。二人は案内された席につき、拓也がメニューを開く。
海鮮丼や刺身の定食、焼き魚、揚げ物まで写真付きで並んでいる。
ノエルは最初に大きな海鮮丼を見た。
「これ食べる!」
「海鮮丼な」
拓也が自分の分を探している間にも、ノエルは別のページを見ている。
「これも」
「焼き魚も?」
「うん。それとこれ!」
今度は魚の揚げ物だった。
拓也はメニューとノエルを交互に見る。
「結構あるぞ」
「食べられるよ!」
「まあ、ノエルなら食うか」
結局、ノエルは海鮮丼と焼き魚、それから揚げ物を頼んだ。拓也も海鮮丼を一つ注文する。
しばらくして料理が運ばれてくると、テーブルの上が一気に狭くなった。
ノエルの前には、魚やイクラがたっぷり乗った丼。その横に焼き魚と、揚げたての魚が並んでいる。
「いっぱい来た!」
「ほとんどノエルが頼んだやつだけどな」
「どれから食べよう」
ノエルは少し迷ってから、まず海鮮丼へ口をつけた。
「おいしい!」
そのまま何口か食べ、今度は焼き魚へ移る。さらに揚げ物にも口をつけ、気に入ったものから順に食べていった。
拓也も自分の海鮮丼を食べる。魚は新鮮で、家の近くで食べるものとはまた違う。
「うまいな、これ」
「こっちもおいしいよ!」
「それもあとで一個もらおうかな」
「いいよ!」
二人で食べているうちに、あれだけ並んでいた料理が少しずつ減っていく。
拓也が海鮮丼を食べ終える頃には、ノエルの丼もほとんど空だった。焼き魚も残っているのは骨だけで、揚げ物も最後の一つになっている。
「ほんとに全部食ったな」
「おいしかった!」
最後の揚げ物を食べ終えると、二人は店を出た。
外へ出ると、さっきより人が増えていた。港沿いの道を歩き、今度は店の並ぶ方ではなく海の近くへ向かう。
少し先に腰を下ろせる場所があり、拓也はそこで一度座った。ノエルも隣で伏せ、目の前の海を見る。
港から一隻の船がゆっくり動き出した。
白い波を引いて遠ざかっていく船を、ノエルは見えなくなるまで追っていた。
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