↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/58

第30話 出発

 数日後の朝、拓也が目を覚ますと、隣でノエルがもう起きていた。


「タクヤ、朝だよ」


「……まだ早いだろ」


 枕元のスマートフォンを見る。外は明るくなり始めたばかりで、出かけるにはまだ早い時間だった。


「もう行ける?」


「まだだよ。朝飯食って、準備してから」


 ノエルはベッドの上で立ったまま、拓也をじっと見ている。


「じゃあ早く食べよう!」


 拓也も起き上がり、朝食を済ませた。


 出発までの間に荷物を確認していると、ノエルは何度も玄関の方へ行っては戻ってくる。拓也がバッグを持つと、今度は先に玄関まで走っていった。


「まだ靴履いてないから、ちょっと待って」


「早く!」


「はいはい」


 家を出て車に荷物を積む。ノエルもすぐに乗り込み、拓也が運転席に座る頃には窓の外を見ていた。


 エンジンをかけ、家の前を出る。朝の住宅街はまだ車も少ない。


「行くぞ」


「うん!」


 いつもの住宅街を抜け、少し大きな道へ出る。見慣れた店や交差点が後ろへ流れていき、やがて高速道路の入口が見えてきた。


 料金所を抜けて本線へ入ると、車の速度が一気に上がった。ノエルは窓の外へ顔を向けたまま、流れていく景色を追っている。


「速い!」


「そういえば、高速乗るの初めてだったな」


「うん!」


 周りの車も同じような速さで走っていて、隣の車線から次々に車が前へ出たり、こちらが追い越したりする。ノエルは窓の外へ顔を向けたまま、その流れをずっと目で追っていた。


 そのうち街中の建物が減り、道路の両側に山や開けた景色が見えるようになってきた。


「あとどれぐらい?」


「あと二時間くらいかな」


「まだそんなにあるの?」


「途中で休むし、そんな急がなくていいよ」


 ノエルは少しだけ拓也を見たあと、また窓の外へ顔を向けた。


 高速道路を走っているうちに、道路の脇には山や畑が見える時間が増えていった。ノエルは窓の外を見たまま、ときどき遠くの方まで顔を向けている。


 しばらくして、拓也はサービスエリアの案内を見つけた。


「一回休もう」


「うん」


 車を駐車場へ入れる。何台もの車が並び、その先には大きな建物があった。中へ向かう人もいれば、外のベンチで何か食べている人もいる。


 ノエルは車を降りると、拓也の隣を歩きながら周りを何度も見ていた。


 建物へ近づくと、食べ物の匂いがいくつも流れてくる。


「お腹空いてきた」


「俺もちょっと食いたいな」


 二人で店を見て回り、拓也は温かい軽食と飲み物を買った。ノエルは肉の入ったものを選び、外の席に着くとすぐに食べ始める。


「おいしい!」


「うまいな」


 拓也も自分の分を食べる。


 食べ終えて建物の中を通って車へ戻ろうとしたところで、ノエルが売店の前で足を止めた。棚の横には、袋に入ったビーフジャーキーが並んでいる。


「タクヤ、これ食べたい!」


「今食べたばっかりだろ」


「車で食べる!」


 拓也は少し笑って、ノエルが見ていたものを一つ手に取った。


「じゃあ一個だけな」


「やった!」


 拓也も途中で飲むための飲み物を追加で買い、二人で車へ戻った。


「帰りもここ来る?」


「時間合えば寄ろうか」


「うん!」


 再び高速道路を走り始める。


 ノエルは買ったビーフジャーキーを食べながら、しばらく窓の外を見ていた。


 しばらく走ったところで、遠くに周りの建物よりずっと高いビルが見えてきた。高速道路の先に大きく立っていて、近づくにつれて窓から見える部分も増えていく。


「タクヤ、あれでっかい!」


「ほんとだな」


 ノエルはビーフジャーキーを食べるのを止めたまま、そのビルが横へ流れて見えなくなるまで追っていた。


 そこから先は、道路の周りにも建物が増えていった。低い建物の間に何階もあるビルが混じり、少し進むたびに街並みが変わっていく。


 けれど、朝早くから起きていたせいか、ノエルの動きは少しずつ減っていった。最後の一つを食べ終える頃には伏せたままになり、それでもしばらくは窓の外を見ていた。


 拓也が少しして横を見ると、ノエルは目を閉じていた。


 寝ている間も車はそのまま走り続けた。


 道路の両側には建物が途切れず並ぶようになり、背の高いビルも増えていた。走っている車の数も、さっきより多い。


 拓也は前を見ながら、ときどき助手席の方へ目をやる。ノエルは揺れにも起きず、そのまま眠っていた。


 さらに走っていくと、背の高いビルは少しずつ後ろへ流れ、窓の外には低い建物が増えてきた。道路の向こうまで空が広く見える場所も多くなっていく。


 その頃になって、ノエルがゆっくり顔を上げた。


「……もう着いた?」


「まだ。もうちょっと」


 ノエルは眠そうに瞬きをしてから、窓の外を見た。さっきまでより建物が低くなり、その向こうまで空が見えている。


 そのまましばらく外を見ていたノエルが、急に身体を起こした。


「タクヤ、あっち!」


 ノエルが窓の外へ顔を向ける。


 低い建物の間から、青い水面が見えていた。


「海見えてきたな」


 ノエルは返事をせず、そのまま窓の外を見続けている。道が曲がるたびに隠れたり、また大きく見えたりする海を追うように、何度も身体の向きを変えていた。


 拓也も前方に広がってきた海を見て、少し笑った。


「もうすぐだよ」


 ノエルは窓の外を見たまま、尻尾を大きく振っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。