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第29話 旅行

 午後、拓也はノエルと一緒にソファへ座っていた。


 テレビはついているが、二人ともさっきからほとんど見ていない。ノエルは拓也の隣で伏せたり起き上がったりしながら、時々こちらを見ている。


「なあ、ノエル」


「なに?」


「旅行でも行くか」


 ノエルがすぐに顔を上げた。


「旅行?」


「ちょっと遠いところまで行って、向こうで泊まったりするんだよ。観光したり、うまいもの食べたり」


「泊まるの?」


「そう。二日とか三日とか」


 ノエルは立ち上がり、拓也の方へ身体を向けた。


「行きたい!」


「じゃあ、どこ行くか見てみよう」


「早く早く!」


 拓也は寝室からノートパソコンを持ってきて、ローテーブルの上に置いた。ソファの前へ座り直すと、ノエルもすぐ隣へ来て画面を覗き込む。


 いくつか旅行先を開いていく。山に囲まれた温泉街、大きな建物が並ぶ街、海沿いに店が並んだ観光地。ノエルは画面が変わるたびに顔を動かしていた。


 街の写真では、大きな建物が並ぶ通りをしばらく眺めている。拓也が次の候補を開くと、露天風呂の写真が出てきた。


「温泉もいいな。久しぶりに入りたい」


「温泉?」


「でかい風呂みたいなもん」


「お風呂なら家にもあるよ」


「いや、家の風呂とはちょっと違うんだよな。外で入れるところもあるし」


 ノエルは露天風呂の写真をしばらく見ていたが、画面の端に出ていた料理の写真へ目を移した。


「食べたい!」


 拓也が料理のページを開くと、大きな海鮮丼が出てきた。


「うまそうだな」


 魚やイクラがご飯の上いっぱいに乗っている。そのまま見ていくと、寿司や焼いた魚、肉料理の写真も出てくる。


 ノエルの目が肉料理のところで止まった。


「お肉も食べたい!」


「そんなに入る?」


「入る!」


 拓也も周辺を見てみる。海沿いには歩いて回れそうな通りがあり、その近くに飲食店も集まっていた。少し離れたところには温泉のある宿もある。


「ここ行く?」


「うん、ここにしよう」


 ノエルの尻尾が大きく揺れた。


「やった!」


 旅行先が決まっても、二人はそのまま周辺のページを見続けた。


 海沿いの道には店が並び、途中で海のすぐ近くまで出られる場所もあるらしい。朝に出て昼前後に着けば、車を置いてその辺りを歩きながら昼飯を食べるくらいなら余裕がありそうだった。


「ここ歩きたい」


「いいな。着いたらこの辺行ってみるか」


 ノエルはもう次の写真を見ている。店先で魚を焼いている写真や、丼を並べた店の写真が続くと、画面からほとんど目を離さなくなった。


 拓也も店の位置を見ながら、どの辺りを歩けばよさそうかだけ確認していく。細かく予定を決めなくても、気になった店にそのまま入ればよさそうだ。


 家からは車で数時間かかる。途中で一度か二度休みながら行けば、そこまで急ぐ必要もない。


「ずっと車?」


「まあ、結構乗るな。途中で休もう」


 ノエルは一度拓也を見たあと、また画面へ戻った。


 旅行先でどう過ごすかがだいたい見えてきたところで、今度は泊まるところを探す。


 海沿いにはホテルや旅館がいくつもあった。拓也は値段と場所を見ながら何軒か開き、その中で海が見える温泉付きのホテルに手を止めた。


「この部屋いいな」


 大きな窓の向こうに海が広がっている。ベッドも二つあり、部屋も十分広そうだった。


 ノエルは部屋の写真を見たあと、その下に並んでいる食事の写真へすぐ気づいた。


「ご飯は?」


「ちょっと待って」


 拓也が食事のページを開く。


 夕食はバイキングだった。魚料理や刺身の並んだ台の横に、焼いた肉や揚げ物もある。さらに奥にはご飯ものやデザートまで並んでいた。


 ノエルが画面へぐっと近づいた。


「これ、全部食べていいの?」


「好きなの取って食べるやつだよ」


 ノエルが拓也を見る。


「何回でも?」


「まあ、食べられるなら」


 ノエルはすぐに画面へ戻った。さっきまで見ていた料理の写真を上から下まで見直している。


「ここがいい!」


「俺もここでいいかな。温泉もあるし」


 大浴場のページも開いてみる。広い内湯のほかに、海の見える露天風呂もあった。


「ほら、こういうの」


 ノエルは露天風呂の写真と拓也を交互に見る。


「家と違う?」


「だいぶ違うだろ」


 拓也は部屋と食事、それから温泉をもう一度確認した。値段も問題ない。


 そのまま日程の空きを確認し、平日の二泊三日を選ぶ。会社にいた頃なら休みをどう取るか考えなければならなかったが、今はもうその必要もない。


 予約を済ませると、ノエルがすぐに拓也へ身体を寄せてきた。


「いつ行くの?」


「数日後」


「明日じゃないの?」


「明日は無理」


 ノエルはソファから降りると、リビングの中を小走りで一周した。それからまた拓也の前まで戻ってくる。


 それでもじっとしていられないのか、今度はローテーブルの周りを回り始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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