第28話 何でもない平日
朝、拓也が目を覚ますと、すぐ隣でノエルが顔を上げた。
「タクヤ、起きた!」
「おはよう」
「おはよう!」
ノエルはベッドの上で立ち上がり、拓也の腕へ身体を寄せてくる。
枕元のスマートフォンを見る。いつもならそろそろ起きて、仕事へ行く準備を始める時間だった。
「……今日は行かなくていいんだよな」
「うん! 今日はずっといる!」
まだ少し変な感じがする。
「今日、どこ行く?」
「朝から元気だな」
「遊ぼう!」
拓也は笑いながらノエルの頭を撫でた。
「とりあえず朝飯食べよう」
「食べる!」
朝食を済ませても、まだ午前中だった。
拓也はソファへ座り、なんとなくテレビをつける。ノエルも隣へ来たが、少しすると部屋の中を歩き回り始めた。
「散歩でも行くか」
ノエルの耳がぴんと立つ。
「行く!」
外へ出ると、平日の住宅街は静かだった。
拓也はノエルと並んで歩く。特に行き先は決めていない。曲がり角をいくつか曲がり、普段は車で通り過ぎる道をゆっくり歩いていった。
ノエルは植え込みの匂いを嗅いだり、道の向こうを走る自転車を目で追ったりしながら進む。
「タクヤ、あれ!」
少し先に小さな公園が見えた。
「公園だな」
ノエルはそのまま公園の方へ駆けていき、拓也もあとを追って中へ入った。中には滑り台とブランコ、それから低い鉄棒がある。平日の午前中だからか、遊んでいる人はいない。
ノエルはすぐに滑り台へ近づいた。
「これなに?」
「滑り台。上から滑って降りるんだよ」
ノエルは階段の方へ回り込んだ。四本の脚で一段ずつ上がっていき、上まで来ると滑るところから下を覗く。
「ここから滑る!」
前脚を伸ばして身体を乗せると、そのまま滑り始めた。白い身体がするすると下りてくる。
「わっ!」
下まで着くと、ノエルはすぐに立ち上がった。
「もう一回!」
今度はさっきより早く階段を上がっていく。拓也は近くのベンチに座り、何度か滑ってはまた上へ戻るノエルを眺めていた。
「タクヤもやる?」
「俺はいいよ」
「楽しいよ!」
「うん。楽しそうだな」
ノエルはもう一度滑り、勢いよく下へ着いた。
しばらく遊んでから、二人はまた歩き始めた。
公園を出て少し進むと、パン屋があった。開いたドアから焼いたパンの匂いが流れてくる。
ノエルが足を止める。
「いい匂いする」
「パン屋だな」
「食べる?」
「腹減ってきたし、なんか買うか」
「買う!」
店の中にはいろいろなパンが並んでいた。甘いものもあれば、ソーセージや卵、肉の入った惣菜パンもある。
ノエルは並んだパンを見ながら、すぐに肉の乗ったものへ目を向けた。
「これ!」
「やっぱり肉か」
「おいしそう!」
「じゃあそれな。俺はこっちにしようかな」
拓也も自分の分を選び、ノエルが気にしたパンをいくつか追加する。結局、昼飯には少し多いくらい買って店を出た。
「いっぱい買った!」
「ノエルいるとこれくらいになるな」
さっきの公園へ戻り、ベンチに座って袋を開く。
「いただきます!」
ノエルは最初に肉の入ったパンへ口をつけた。
「おいしい!」
「うまそうだな」
拓也も自分のパンを食べる。
ノエルは一つ食べ終えると、すぐ次のパンへいった。ソーセージの入ったもの、卵の入ったもの。気に入ったものから順に食べていき、買ったパンはどんどん減っていく。
「ノエル、朝飯食ったばっかりだろ」
「いっぱい歩いたから!」
「滑り台もやってたしな」
「まだ食べられるよ!」
「知ってる」
拓也は笑いながら、残っていたパンを一つ渡した。
食べ終わったあとも、すぐには帰らなかった。
ノエルがまた滑り台へ向かったので、拓也はしばらく付き合う。何度か滑って満足したところで、ようやく二人で家へ戻った。
玄関に入ると、ノエルはまっすぐリビングへ向かった。
「次なにする?」
「まだ遊ぶの?」
「遊ぶ!」
「じゃあゲームでもするか」
「やる!」
テレビの前に座り、ゲームをつける。
ノエルは画面を見ながらすぐに前のめりになり、失敗すれば悔しがり、うまくいけば声を上げて喜んだ。
拓也も隣で笑いながら一緒に遊ぶ。
しばらくすると、ノエルは疲れたのかソファの横で伏せた。それでもテレビの画面は見ている。
「眠い?」
「まだ眠くない」
「目閉じてるけど」
「閉じてない……」
少しすると返事がなくなった。
拓也が見ると、ノエルはそのまま寝ていた。
「寝てるじゃん」
拓也はテレビの音を少し小さくし、眠っているノエルの隣でそのままテレビを見続けた。
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