↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/58

第23話 唐揚げ

 そのあとも何度か塔を作り直して遊び、少し休んではまた別のことをしているうちに、窓の外がだんだん暗くなってきた。


 拓也が時計を見ると、もう夕飯を作り始めてもいい時間だった。


 平日は仕事もあって、ノエルにこうして夕飯を作る機会は少なかった。今日は土曜日だし、ちゃんと作ってやりたい。


「そろそろ飯にするか」


「ご飯?」


「うん。腹減った?」


「減った!」


 ノエルはさっきまで転がしていたボールをその場に置き、すぐ拓也の方へ来た。


「タクヤ、今日なに作るの?」


「今日は唐揚げにしようと思ってる」


「からあげ?」


「鶏肉に味つけて、粉つけて油で揚げるやつ」


「肉?」


「肉。唐揚げはうまいぞ」


「おいしい?」


「うん。ノエル好きだと思う」


「食べる!」


 拓也は笑いながら立ち上がり、キッチンへ向かった。ノエルも当然のようについてくる。


 冷蔵庫から鶏肉を取り出すと、ノエルの視線がすぐそちらへ向いた。


「それが唐揚げ?」


「まだただの肉。これから唐揚げにする」


「どうするの?」


「まず切る」


 拓也が包丁を出すと、ノエルはそこで足を止めた。前に料理した時と同じように、キッチンの中へは入らず、リビング側へ回る。


 後ろ脚で少し身体を起こしてカウンターへ前脚をかけると、調理台の上が見えるようになった。


「見える?」


「見える!」


 拓也は鶏肉を一口で食べやすい大きさに切っていく。包丁がまな板へ当たるたび、ノエルの目が手元を追っていた。切ったそばからボウルへ移していくと、底がすぐに見えなくなっていく。


「いっぱいある」


「今日は多めに作るからな」


「僕いっぱい食べる!」


 切った鶏肉をボウルへ入れ、醤油と少しの酒、それからすりおろしたしょうがとにんにくを加える。


 混ぜ始めると、ノエルの鼻先が動いた。


「匂いする!」


「にんにくとしょうが。揚げるともっといい匂いするぞ」


「早く食べたい!」


 拓也は鶏肉へ調味料を馴染ませて少し置く。醤油の色が肉の表面へ広がり、にんにくの匂いもさっきより強くなった。


 その間にじゃがいもを洗い、細長く切って水へさらす。ノエルは鶏肉とじゃがいもを交互に見ながら、キッチンから離れようとしない。


「それなに?」


「じゃがいも。あとでポテトにする」


「ポテトも食べる!」


 ノエルの尻尾が揺れる。


「もう揚げる?」


「もうちょっと」


 拓也は味噌汁の準備をしながら、横で油を入れた鍋を火にかける。鶏肉へ片栗粉をまぶしていくと、表面が白くなった。


「白くなった」


「これをつけて揚げると、外がカリッとする」


「カリカリ?」


「そう。そこがおいしい」


「早く食べたい!」


「俺も腹減ってきた」


 油が温まったところで、拓也は鶏肉を一つ入れた。


 ジュワッと大きな音が上がり、細かな泡が一気に広がる。


「うわ!」


 ノエルの耳が立った。


「すごい音!」


「いい音するだろ」


 続けて鶏肉を入れていく。鍋から絶えず揚がる音が響き、細かな泡の中で白い衣が少しずつ固まっていく。少しすると肉とにんにくの香りがキッチンに広がった。


「タクヤ、いい匂い!」


「これ絶対うまいな」


 ノエルは何度も鼻を動かしながら鍋を見ている。


 白かった衣が少しずつきつね色になっていく。拓也が箸でひっくり返すと、まだ白かった裏側が油へ沈み、またジュワッと音が強くなった。ノエルはそのたびに鍋の中へ視線を動かしている。


「色変わった!」


「そろそろできる」


 しばらくして、拓也は一つ取り上げた。油を切って皿へ置くと、表面からまだ湯気が上がっている。


「できた?」


「うん。味見してみる?」


「する!」


 拓也は箸で半分に割り、中まで火が通っているのを確認する。少し冷ましてから、小さい方をノエルのところへ持っていった。


「熱いから気をつけて」


 ノエルは匂いを嗅いでから、慎重に口へ入れる。


「熱っ」


「大丈夫?」


「大丈夫!」


 そのまま何度か噛み、飲み込む。すぐに尻尾が勢いよく振れ始めた。


「おいしい! 外カリカリ!」


「うまいだろ?」


「もっと食べたい!」


「残りもすぐ揚がる」


 拓也は笑いながら、残りの唐揚げも順番に油へ入れていった。揚がったものを皿へ並べるたび、ノエルの目もそちらへ動く。さっき味見した一個がよほど気に入ったらしい。


 最後の唐揚げを取り出すと、皿にはきつね色の唐揚げが山になった。今度は水気を拭いたじゃがいもを用意する。


「次ポテト?」


「うん」


 細く切ったじゃがいもを油へ入れると、またジュワッと音が広がった。


「これもいい匂い」


「揚げたてのポテトもうまいぞ」


「早く食べたい!」


 ポテトは唐揚げより早く色が変わった。何度か混ぜながら揚げ、表面が薄く色づいたところで油から上げる。皿へ広げ、まだ熱いうちに軽く塩を振った。


「それも一個食べていい?」


「もう並べるから、夕飯で食べよう」


「うん!」


 拓也は味噌汁をよそい、ご飯を盛った。大皿には唐揚げとポテトをたっぷり乗せ、ノエルの分は食べやすいように別の皿へ分ける。


 全部をローテーブルへ運ぶと、ノエルは自分の皿の前へ座った。


「いっぱいある!」


「じゃ、いただきます」


「いただきます!」


 ノエルはさっそく唐揚げへいった。さっきの味見より大きな一個を食べ終えると、すぐ次へ顔を向ける。途中でポテトも何本か続けて食べ、また唐揚げへ戻った。


「ポテトもおいしい!」


 拓也も自分の唐揚げを一つ取った。衣はしっかり揚がっていて、中から肉汁が出る。


「うん、今日うまくできた」


「タクヤの唐揚げおいしい!」


「ありがと」


 ノエルはご飯も食べ、味噌汁を飲み、それでもまた唐揚げへ戻る。唐揚げとポテトを交互に食べていたせいで、大皿はいつの間にかかなり空いていた。


 皿の上に最後の一個を見つけると、ノエルが拓也を見る。


「タクヤ、これ食べていい?」


「まだ食べられる?」


「食べられる!」


 ノエルは嬉しそうに最後の一個へ口をつけた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。