第23話 唐揚げ
そのあとも何度か塔を作り直して遊び、少し休んではまた別のことをしているうちに、窓の外がだんだん暗くなってきた。
拓也が時計を見ると、もう夕飯を作り始めてもいい時間だった。
平日は仕事もあって、ノエルにこうして夕飯を作る機会は少なかった。今日は土曜日だし、ちゃんと作ってやりたい。
「そろそろ飯にするか」
「ご飯?」
「うん。腹減った?」
「減った!」
ノエルはさっきまで転がしていたボールをその場に置き、すぐ拓也の方へ来た。
「タクヤ、今日なに作るの?」
「今日は唐揚げにしようと思ってる」
「からあげ?」
「鶏肉に味つけて、粉つけて油で揚げるやつ」
「肉?」
「肉。唐揚げはうまいぞ」
「おいしい?」
「うん。ノエル好きだと思う」
「食べる!」
拓也は笑いながら立ち上がり、キッチンへ向かった。ノエルも当然のようについてくる。
冷蔵庫から鶏肉を取り出すと、ノエルの視線がすぐそちらへ向いた。
「それが唐揚げ?」
「まだただの肉。これから唐揚げにする」
「どうするの?」
「まず切る」
拓也が包丁を出すと、ノエルはそこで足を止めた。前に料理した時と同じように、キッチンの中へは入らず、リビング側へ回る。
後ろ脚で少し身体を起こしてカウンターへ前脚をかけると、調理台の上が見えるようになった。
「見える?」
「見える!」
拓也は鶏肉を一口で食べやすい大きさに切っていく。包丁がまな板へ当たるたび、ノエルの目が手元を追っていた。切ったそばからボウルへ移していくと、底がすぐに見えなくなっていく。
「いっぱいある」
「今日は多めに作るからな」
「僕いっぱい食べる!」
切った鶏肉をボウルへ入れ、醤油と少しの酒、それからすりおろしたしょうがとにんにくを加える。
混ぜ始めると、ノエルの鼻先が動いた。
「匂いする!」
「にんにくとしょうが。揚げるともっといい匂いするぞ」
「早く食べたい!」
拓也は鶏肉へ調味料を馴染ませて少し置く。醤油の色が肉の表面へ広がり、にんにくの匂いもさっきより強くなった。
その間にじゃがいもを洗い、細長く切って水へさらす。ノエルは鶏肉とじゃがいもを交互に見ながら、キッチンから離れようとしない。
「それなに?」
「じゃがいも。あとでポテトにする」
「ポテトも食べる!」
ノエルの尻尾が揺れる。
「もう揚げる?」
「もうちょっと」
拓也は味噌汁の準備をしながら、横で油を入れた鍋を火にかける。鶏肉へ片栗粉をまぶしていくと、表面が白くなった。
「白くなった」
「これをつけて揚げると、外がカリッとする」
「カリカリ?」
「そう。そこがおいしい」
「早く食べたい!」
「俺も腹減ってきた」
油が温まったところで、拓也は鶏肉を一つ入れた。
ジュワッと大きな音が上がり、細かな泡が一気に広がる。
「うわ!」
ノエルの耳が立った。
「すごい音!」
「いい音するだろ」
続けて鶏肉を入れていく。鍋から絶えず揚がる音が響き、細かな泡の中で白い衣が少しずつ固まっていく。少しすると肉とにんにくの香りがキッチンに広がった。
「タクヤ、いい匂い!」
「これ絶対うまいな」
ノエルは何度も鼻を動かしながら鍋を見ている。
白かった衣が少しずつきつね色になっていく。拓也が箸でひっくり返すと、まだ白かった裏側が油へ沈み、またジュワッと音が強くなった。ノエルはそのたびに鍋の中へ視線を動かしている。
「色変わった!」
「そろそろできる」
しばらくして、拓也は一つ取り上げた。油を切って皿へ置くと、表面からまだ湯気が上がっている。
「できた?」
「うん。味見してみる?」
「する!」
拓也は箸で半分に割り、中まで火が通っているのを確認する。少し冷ましてから、小さい方をノエルのところへ持っていった。
「熱いから気をつけて」
ノエルは匂いを嗅いでから、慎重に口へ入れる。
「熱っ」
「大丈夫?」
「大丈夫!」
そのまま何度か噛み、飲み込む。すぐに尻尾が勢いよく振れ始めた。
「おいしい! 外カリカリ!」
「うまいだろ?」
「もっと食べたい!」
「残りもすぐ揚がる」
拓也は笑いながら、残りの唐揚げも順番に油へ入れていった。揚がったものを皿へ並べるたび、ノエルの目もそちらへ動く。さっき味見した一個がよほど気に入ったらしい。
最後の唐揚げを取り出すと、皿にはきつね色の唐揚げが山になった。今度は水気を拭いたじゃがいもを用意する。
「次ポテト?」
「うん」
細く切ったじゃがいもを油へ入れると、またジュワッと音が広がった。
「これもいい匂い」
「揚げたてのポテトもうまいぞ」
「早く食べたい!」
ポテトは唐揚げより早く色が変わった。何度か混ぜながら揚げ、表面が薄く色づいたところで油から上げる。皿へ広げ、まだ熱いうちに軽く塩を振った。
「それも一個食べていい?」
「もう並べるから、夕飯で食べよう」
「うん!」
拓也は味噌汁をよそい、ご飯を盛った。大皿には唐揚げとポテトをたっぷり乗せ、ノエルの分は食べやすいように別の皿へ分ける。
全部をローテーブルへ運ぶと、ノエルは自分の皿の前へ座った。
「いっぱいある!」
「じゃ、いただきます」
「いただきます!」
ノエルはさっそく唐揚げへいった。さっきの味見より大きな一個を食べ終えると、すぐ次へ顔を向ける。途中でポテトも何本か続けて食べ、また唐揚げへ戻った。
「ポテトもおいしい!」
拓也も自分の唐揚げを一つ取った。衣はしっかり揚がっていて、中から肉汁が出る。
「うん、今日うまくできた」
「タクヤの唐揚げおいしい!」
「ありがと」
ノエルはご飯も食べ、味噌汁を飲み、それでもまた唐揚げへ戻る。唐揚げとポテトを交互に食べていたせいで、大皿はいつの間にかかなり空いていた。
皿の上に最後の一個を見つけると、ノエルが拓也を見る。
「タクヤ、これ食べていい?」
「まだ食べられる?」
「食べられる!」
ノエルは嬉しそうに最後の一個へ口をつけた。
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