第22話 おもちゃ屋
ゲームセンターを出ると、ノエルは亀のぬいぐるみを口に咥えた。
「それ、持ってようか?」
拓也が手を出すと、ノエルは足元へ亀を置いた。
「僕のだよ」
「分かってるよ。歩きながらだと喋りにくいだろ」
ノエルは亀と拓也の手を交互に見た。
「ちゃんと持っててね」
「もちろん」
拓也が亀を受け取る。
「タクヤ、次どこ行く?」
「まだ遊ぶ?」
「遊ぶ!」
「じゃあもう少し見てくか」
朝から山で一時間近く動き回り、そのあとゲームセンターまで来た拓也はもうかなり疲れている。それでもノエルはまったく気にした様子もなく、周りを見回していた。
ショッピングモールの通路を歩いていると、少し先に大きなおもちゃ屋が見えた。
「あれなに?」
「おもちゃ屋」
「おもちゃ?」
「遊ぶものがいっぱい売ってる店」
「行く!」
説明を聞き終わるより先に、ノエルは店の方へ歩き出した。
「待て待て。俺も行くから」
「早く!」
拓也も後ろからついていく。
店へ入ると、棚には色の違う箱が何列も並んでいた。車や人形、カード、ボードゲーム。ノエルは入口から少し進んだだけで、すぐ右の棚へ顔を向けた。
「タクヤ、これなに?」
「車のおもちゃ」
「動く?」
「動くやつもあるよ」
「こっちは?」
「パズル」
「ぱずる?」
「絵とか形を合わせて遊ぶやつ」
「これも遊ぶの?」
「そう」
ノエルは一つ聞くたびに次の棚へ顔を向ける。今度は少し先の棚へ歩いていった。
「いっぱいある!」
ノエルは近くにあった箱を見たあと、すぐ隣の商品へ顔を向けた。
「これ欲しい!」
「どれ?」
「これ! あとこっちも!」
「二つとも買うの?」
「うん!」
「今日は一個にしよう。家で一緒に遊べるやつ選ぼうか」
「一個?」
「気に入ったの一個な」
ノエルは二つの箱を見比べたが、その途中でまた別の商品に気づいて顔を上げた。
「あれなに?」
ノエルが見ていたのは、細長い木のブロックが何本も積み上がった写真の箱だった。
「これか」
拓也は箱を手に取る。
「積んだやつを一本ずつ抜いていくゲーム」
「抜くの?」
「そう。崩した方が負け」
「やりたい!」
「これなら家でできるな」
「買う!」
「じゃあこれにするか」
ノエルはすぐに尻尾を振り始めた。
「帰ったらすぐやろう!」
「はいはい」
「すぐだよ!」
「分かったって」
会計を済ませて店を出る。拓也は箱の入った袋と亀のぬいぐるみを持ち、ノエルはその横を歩いた。
「タクヤ、早く帰ろう!」
「そんなにやりたい?」
「やりたい!」
「分かった。帰ったらすぐやろう」
「うん!」
ノエルは拓也の横を足早に歩いていった。
家へ着くと、拓也が靴を脱いでいる間にノエルはもう部屋の方へ向かっていた。
「タクヤ、早く!」
「今行くよ」
「早く!」
「分かった分かった」
拓也は袋と亀を持って部屋へ入った。
「亀、どうする?」
「ここ!」
ノエルはソファーの端を前脚で示した。拓也がそこへ亀のぬいぐるみを置くと、ノエルは少し離れて眺めた。
「うん!」
それで満足したのか、すぐにローテーブルの方へ戻ってくる。
「早く開けよう!」
「はいはい」
拓也はローテーブルの上で箱を開けた。中には同じ大きさの細長い木のブロックが何本も入っている。
「これ全部使うの?」
「使うよ。まず積む」
拓也は三本ずつ向きを変えながら重ねていく。ノエルはすぐ近くからじっと見ていた。
「高くなった!」
「これを順番に抜いてくんだよ」
「どこでもいい?」
「上の方はだめ。真ん中とか下から一本抜いて、上に乗せる」
「崩れたら負け?」
「そう」
「分かった!」
拓也がまず一本抜いてみせる。中央付近のブロックを指でゆっくり押し出し、反対側から引き抜いて一番上へ置いた。
「こう」
「簡単そう!」
「やってみる?」
「やる!」
ノエルは塔の前へ座ると、前脚を伸ばした。
一本の端へ爪先を当てて押そうとする。しかし指でつまめない分、力をかける位置が難しい。木のブロックは少し動いたが、その横まで一緒に揺れた。
「あっ」
「ゆっくりな」
「分かってる」
今度はもっと慎重に前脚を動かす。少しずつ押していくと、一本だけが向こう側へ出てきた。
「出た!」
「お、いけるじゃん」
「取る!」
ノエルが反対側へ回り、出てきた端へ前脚をかける。
その瞬間、塔全体が大きく揺れた。
「待って待って」
「え?」
「そのまま引いたら崩れる」
ノエルはぴたりと止まった。
「どうするの?」
「もうちょい真っすぐ」
「こう?」
「そう。ゆっくり」
少しずつ引いていき、ようやく一本が抜ける。
「取れた!」
「上に置く!」
「そこまでやって一回だからな」
ノエルは抜いたブロックを前脚で押しながら塔の上へ乗せようとした。しかし高さがあるせいで、今度はそちらの方が難しい。
「届かない」
「そこは俺が持つよ」
「僕が置く!」
「じゃあ持ち上げるから、自分でやって」
「うん!」
拓也がノエルの身体を持ち上げる。ノエルは前脚でブロックを押しながら、なんとか塔の一番上へ乗せた。
「できた!」
「一個目な」
「次タクヤ!」
「はいはい」
拓也はさっきより少し下の段から一本抜いた。
「そこ抜くの?」
「抜けそうだから」
「崩れない?」
「たぶん大丈夫」
ゆっくり抜いて上へ置く。
「崩れなかった!」
「まだ二回目だぞ」
「次僕!」
ノエルはさっきより迷わず前脚を伸ばした。
今度は端の方にある一本を押す。少し動いたところで塔が傾き、ノエルが慌てて前脚を止めた。
「タクヤ、動いた!」
「そりゃ動くよ」
「これ大丈夫?」
「そのままいけそう」
「ほんと?」
「ゆっくりやれば」
ノエルは塔をじっと見ながら少しずつブロックを押していく。
半分ほど出たところで、急に上の段がずれた。
「あっ」
次の瞬間、木のブロックが一気に崩れた。
「うわ!」
テーブルの上にばらばらと広がる。
ノエルはしばらく崩れたブロックを見つめていた。
「僕の負け?」
「ノエルの負け」
「もう一回!」
「よし、もう一回やろう」
「今度は崩さない!」
「じゃあまた積むか」
拓也がブロックを集め始めると、ノエルも前脚で近くのものを寄せた。
二回目は最初より長く続いた。ノエルも少しずつ力の入れ方が分かってきたようで、一本ずつ押し出すのがうまくなっている。
「タクヤ、これ抜けそう」
「いけるんじゃない?」
「じゃあこれにする」
ノエルが慎重に押す。
一本がきれいに抜けると、ノエルはすぐ拓也を見た。
「できた!」
「今の上手かった」
「もう分かった!」
「じゃあ次もいけそうだな」
「いける!」
その次の順番で、ノエルが触った瞬間に塔が崩れた。
「……あ」
拓也は崩れた塔を見て笑った。
「もう一回!」
ノエルはもう次の塔を作る気で、散らばったブロックを前脚で集め始めた。
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