第21話 ゲームセンター
それからもしばらくノエルの魔法を避け続けた。
「ノエル、もう終わり! ほんとに終わり!」
「まだできるよ!」
「俺ができない!」
拓也がそう言ってその場に座り込むと、さすがのノエルも魔法を止めた。気づけば、最初に身体強化の練習を始めてから一時間ほど経っている。
息は上がり、脚も重い。汗までかいていた。
「疲れた……」
「タクヤ、いっぱい避けたね!」
「避けた。最後の方はちゃんと動けてた」
最初は一歩踏み出すだけで魔力が途切れていたのに、今は走りながら左右の脚へ回し、飛んでくるものを見て方向を変えられる。まだ失敗することはあるが、何かが飛んできた時に避けるためなら使えそうだった。
「ノエル師匠のおかげだ」
「僕、教えるの上手?」
「うん。ちゃんとできるようになったし」
「やった!」
ノエルは嬉しそうに尻尾を振ると、座っている拓也の周りをぐるぐる回り始めた。
「次なにする?」
「休む」
「そのあと!」
「もうちょっと休ませてくれ」
ノエルは一度拓也の前で止まったが、すぐにまた動き始める。右へ行ったかと思えば左へ回り、今度は少し先まで走って戻ってきた。
「テレビで見たダンジョン行こう!」
「Aランクの?」
「うん!」
「あそこはまだ行けないよ。先にDランクをクリアして、そのあともC、Bって順番に上げないと」
「じゃあ早くクリアしよう!」
「今日は無理。俺もう動けない」
「明日は?」
「明日はまだ分かんない。とりあえずDランクからだな」
「うん!」
ノエルはまたその場を走り回り始めた。
拓也は地面に手をついて息を整える。できれば今日はこのまま家へ帰って、しばらく横になっていたい。
「じゃあ今からなにする?」
「まだ遊ぶのか?」
「遊ぶ!」
即答だった。
平日は仕事へ行っていた。母親が一緒にいてくれても、ノエルは拓也が帰るのを待っていた。
今日は土曜日だ。朝は早すぎたが、まだ時間はいくらでもある。
「……分かった。じゃあ、どっか遊びに行くか」
「どこ?」
「ゲームセンターとか」
「げーむせんたー?」
「ゲームして遊ぶところ。いろいろあるよ」
「行く!」
「俺はもう走らないからな」
「うん!」
返事だけはよかった。
家へ戻って汗を流し、少し休んでから車で出かけた。向かったのは、少し離れたところにある大型のショッピングモールだった。
駐車場へ車を止めて中へ入る。ゲームセンターの近くまで来ると、離れたところからでも電子音や音楽が聞こえてきた。
「タクヤ、音する!」
「もうすぐ着くよ」
入口まで来たところで、ノエルの足が止まった。
明るい照明の下に、色の違うゲーム機が何列も並んでいる。あちこちで画面が光り、音楽や効果音が重なっていた。
「ここ?」
「そう」
「いっぱいある!」
ノエルはすぐに中へ入っていった。少し進んでは右を見て、次は左を見る。何か音が鳴るたびにそちらへ顔を向けていた。
「タクヤ、これなに?」
「太鼓叩くゲーム」
「こっちは?」
「車のゲーム」
「これは?」
「まず一個ずつ見よう」
「うん!」
そう答えながらも、ノエルの視線はもう別の機械へ向いていた。
少し歩いたところで、ノエルが一台の前で止まる。
「タクヤ!」
「今度は何見つけた?」
「これ!」
中にぬいぐるみが並んだクレーンゲームだった。
透明な箱の中にはいくつか景品があり、その中に丸い甲羅と短い手足をした緑色の亀のぬいぐるみがある。
「これ欲しい!」
「亀?」
「これ!」
ノエルはぬいぐるみから目を離さない。
「じゃあやってみるか」
「どうするの?」
「この機械で取るんだよ」
拓也は料金を入れると、ノエルを抱え上げて操作部分の前まで持ち上げた。
「これ動かして、あの腕を亀のところまで持っていく」
「僕やる!」
「じゃあ、まずこれ動かしてみて」
ノエルが前脚でレバーを押すと、箱の中のクレーンが横へ動いた。
「動いた!」
「今度は亀の上まで持っていく」
「こっち?」
「そう。もうちょい」
クレーンが亀の上を通り過ぎる。
「あっ!」
「行きすぎた」
「戻す!」
「一回動かしたら戻せないやつだな」
「えー!」
そのままボタンを押すと、クレーンは亀から少し離れたところへ降りていった。何も掴まずに上がってくる。
「取れなかった」
「最初はこんなもんだよ」
「もう一回!」
「やると思った」
もう一度料金を入れると、今度は拓也も横から位置を見ながら、少しずつノエルに声をかけた。
「そこで止めて」
「ここ?」
「うん。次は奥」
ノエルが前脚でボタンを押す。クレーンが奥へ動いていき、亀の少し手前で止まった。
「もうちょい!」
「押してる!」
「そこ!」
クレーンが下り、爪が亀の甲羅に引っかかる。ぬいぐるみが少しだけ持ち上がった。
「取れた!」
「まだまだ」
持ち上がった亀は途中で落ちた。
「ああっ!」
「でも動いた。さっきより出口に近い」
ノエルは落ちた亀をじっと見た。
「もう一回やる」
「よし。今度はいけそう」
拓也も少し楽しくなってきた。
三回目は二人で亀の位置を見ながらクレーンを動かした。横を合わせてから、今度は奥行きを合わせる。
「ここ?」
「もう少し前」
「これくらい?」
「止めて。そこでいい」
ノエルがボタンを押す。
二人で箱の中を見る。クレーンが下り、爪の一本が亀の甲羅の横へ入る。そのまま亀が持ち上がった。
「お」
「持った!」
亀はゆっくり出口の方へ運ばれていき、その途中で少しずつ傾いた。
「落ちる!」
「まだいける」
「がんばれ!」
「亀に言ってもしょうがないだろ」
出口の上まで来たところで爪が開き、亀のぬいぐるみが下へ落ちた。
「入った!」
「取れた」
「やった!」
拓也がノエルを下ろすと、ノエルはすぐに景品の取り出し口へ顔を近づけた。
「ここから取れるよ」
「タクヤ、取って!」
「はい」
拓也が亀のぬいぐるみを取り出して渡す。
ノエルは前脚で受け取ると、その場で抱えるようにして座った。
「これ僕の?」
「ノエルが取ったんだからノエルのだよ」
「僕の!」
亀を抱えたまま、ノエルの尻尾が大きく揺れる。
「気に入った?」
「うん!」
さっきまで次から次へとゲーム機を見ていたのに、今は亀のぬいぐるみを抱えたまま離そうとしない。
それでも少しすると、ノエルは亀を抱えたまま顔を上げた。
「タクヤ、次あれやりたい!」
「まだやるの?」
「やる!」
拓也は亀を抱えたノエルの隣で、次に指されたゲーム機へ歩いていった。
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