第20話 特訓
元いた場所へ戻ると、拓也はもう一度右脚へ意識を向けた。
「さっきみたいにやればいいんだよね」
「うん! 足に集めるの!」
「分かった。やってみる」
身体の中にある魔力を探し、右脚へ集めようとする。けれど今度は途中で散ってしまった。もう一度試してみても、踏み出した足はいつもと変わらない。
「あれ、今のダメか」
「もう一回!」
「師匠、朝から元気すぎる」
「だってできたもん!」
ノエルは拓也の横を行ったり来たりしながら、次を待っている。拓也も何度か繰り返したが、最初は成功したり失敗したりだった。脚へ集めることに集中しすぎると動くのが遅れ、急いで踏み出そうとすると魔力がうまく集まらない。
「動きながらだとうまく集まらない」
「動く前にぐってするの!」
「分かった。もう一回やってみる」
もう一度、右脚へ魔力を集める。今度はさっきより早く感覚がまとまり、そのまま踏み出すと身体が一気に前へ出た。
「お、できた」
「できた!」
止まってから、今度は左脚にも同じことを試した。
一回目は失敗したが、二回目で足元を強く蹴ることができた。右だけの時よりぎこちないものの、さっきまでよりは明らかに速い。
「左もできた。ちゃんと速くなってる」
「次は走って!」
「走れるかな」
「できるよ!」
「よし、やってみよう」
拓也は少し距離を取り、前を向いた。最初の一歩で右脚へ魔力を集める。身体が前へ出たところで今度は左へ移すと、二歩目まではうまくいった。だが三歩目で感覚が途切れ、急に普通の速さへ戻った。
「うおっと」
前につんのめりそうになり、拓也は慌てて足を止めた。
「あー、途中で切れた」
「でも三回できたよ!」
「ほんとだ。さっき一歩だったのに、三歩いけた」
「うん!」
「よし、もう一回やろう」
ノエルが嬉しそうに尻尾を振る。
「もう一回!」
それから何度も走った。最初は数歩で切れていた身体強化も、繰り返しているうちに少しずつ続くようになった。ずっと同じ強さで維持するのはまだ難しいが、走りながら右、左と脚へ魔力を回す感覚は掴めてきた。
拓也が開けた場所を端まで走り、速度を落として戻ってくる。
「おお、さっきよりずっと動きやすい」
「タクヤ速くなった!」
「ほんとだ。これ、やってると楽しい」
「もっとやる?」
「やりたいけど、次は避ける練習もしてみたい」
息を整えながら、拓也はノエルを見る。ここまで動けるなら、実際に何かを避ける練習もしてみたくなった。
「ノエル、今度は俺に軽く魔法飛ばしてみてくれない?」
「タクヤに?」
ノエルの耳がぴんと立った。
「避ける練習してみたい。ほんとに軽く頼む」
「当てていいの?」
「当てるな。避ける練習だから」
「分かった!」
返事が早い。
「いや、ほんとに軽くだからな」
「分かってるよ!」
拓也はノエルから少し離れた。向かい合うと、さっきまでとは違って妙に緊張する。前にこの山一帯を真っ白にした魔法を思い出した。
「ノエル、本当に弱くしてる?」
「してるよ!」
「ならいいけど」
ノエルが前脚を少し上げた。
「いくよ!」
「来い」
「えいっ」
ノエルの前に小さな白い塊ができ、そのまま拓也へ飛んできた。
「うわっ」
拓也は慌てて右脚へ魔力を集め、横へ踏み込む。白い塊が少し前を通り過ぎ、そのまま地面へ落ちると、触れた草が薄く白くなった。
「避けた!」
「おお、避けられた」
「できたね!」
「今のはちょっと嬉しい」
ノエルの尻尾が大きく動いている。
「もう一回やる?」
「ちょっと待って。今度は最初から身体強化を使えるようにする」
「うん!」
拓也は足へ意識を向けたまま構える。
「いいぞ」
「いくよ!」
二発目が飛んでくる。今度は最初から動く準備ができていたので、白い塊が来るのを見てから横へ踏み込み、さっきより余裕を持って避けた。
「お、今のはちゃんと見て避けられた」
「もう一回!」
「いいぞ、来い」
三発目は少し右寄りから飛んできた。拓也はそれを見て左へ動く。
「避けた!」
「次!」
「待て、ちょっと早い」
「いくよ!」
「だから待っ――」
四発目が飛んできた。
「うおっ!」
拓也は反射的に身体強化を使い、後ろへ下がる。白い塊が目の前を抜けていった。
「ノエル!」
「避けた!」
「今のは急すぎるって!」
「でも避けたよ!」
「避けたけど、びっくりした!」
「次いく?」
ノエルの尻尾はさっきより速くなっていた。拓也はそれを見ながら少し息を吐く。
「続けるなら、威力はそのままで頼む」
「上げない!」
「あと、連続で来るなら先に言ってくれ」
「分かった!」
今度は本当に分かっているのか少し怪しい。
「いくよ!」
一発目を拓也が横へ避ける。少し間を置いて二発目が来ると、今度は反対へ動いた。
「いいじゃん!」
「今のもいけた」
「じゃあ三発!」
「ちょ、いきなり増やすな!」
言い終わる前に一発飛んできた。
「おい!」
拓也が右へ避けると、続けて二発目が来る。今度は左へ動き、少し間を空けて正面から来た三発目には後ろへ飛ぶように下がった。
「ちょ、速い!」
三発とも避けきったところで、ノエルがその場を跳ねる。
「全部避けた!」
「よし、全部いけた」
「タクヤもっとできるよ!」
「できたけど、今のは必死だったぞ」
「じゃあもう一回!」
ノエルの前に、また白い塊ができる。
「待て待て。今度はちゃんと――」
「いくよ!」
「早いって!」
白い塊が飛んでくる。拓也が横へ避けると、その先へもう一発が続いた。
「ちょっ!」
逆へ踏み込むと、今度は避けた直後に三発目が来た。
「ノエル、ストップ!」
「まだ避けられるよ!」
「そういう問題じゃない!」
拓也は走った。右脚、左脚へ魔力を回しながら、飛んでくる白い塊を避けていく。さっきまで真っすぐ走るだけで途切れていた身体強化が、今は方向を変えながらでも続いていた。
「タクヤ速い!」
「誰のせいで走ってると思ってんだ!」
「次こっち!」
「言うな、撃つな!」
ノエルは完全に上機嫌だった。
尻尾を大きく振りながら、拓也が避けるたびに嬉しそうな声を上げる。魔法の威力だけは最初と変わらず弱いままだが、飛んでくる間隔はどんどん短くなっていた。
「ノエル! 一回休憩!」
「もう一回だけ!」
「さっきからずっとそれだろ!」
「タクヤ、次いくよ!」
「休憩!」
拓也はそう叫びながら、また飛んできた白い塊を横へ避けた。
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