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第13話 初めての買い物

 拓也は手の中の千円札と小銭をノエルへ見せた。


「店に行って、欲しいものを選ぶだろ。それでお金を払うと、その物を買えるんだよ」


「かう?」


「そう。お金を払って、自分の物にすること」


 ノエルが首を傾げる。


「もらうのと違うの?」


「もらうのは相手がくれるやつ。買うのは、自分でお金を払う」


「お金あげたら、食べ物くれるの?」


「まあ、そんな感じ」


 少し考えていたノエルの目が、ふいに拓也の手の中へ戻った。


「これで?」


「これで」


「食べ物買える?」


「買えるよ」


「肉も?」


「今日の分で足りるやつならな」


 ノエルの耳がぴんと立った。


「買う!」


「急に元気になったな」


「肉買う!」


「分かった分かった」


 拓也は手の中の金をノエルの前へ少し出した。


「これ、今日ノエルが倒したモンスターのお金だから。この金額で足りるなら、好きなの選んでいいぞ」


「僕が選ぶの!?」


「そう」


「タクヤが決めない?」


「今日はノエルが決めていいよ」


「行く!」


 管理施設を出て、近くのコンビニへ向かった。


 店へ入った瞬間から、ノエルの顔は右へ左へ忙しく動いていた。菓子の棚、飲み物が並ぶ冷蔵ケース、パンや弁当。見えるものが多すぎるのか、入口近くでしばらく立ち止まっている。


「いっぱいある……」


「どれ買っていいの?」


「好きなの見てみな」


「これも?」


 ノエルが近くの棚に並んでいた菓子を鼻先で示す。


「それも買える」


「こっちは?」


「それも」


「じゃあ全部?」


「全部は無理」


「なんで?」


「今日のお金だけじゃ足りないから」


「……僕のお金って少ない?」


「ここにあるもの全部買うにはな」


 ノエルはしばらく棚を見つめていた。


「じゃあ、どれなら買えるの?」


「値段見ながら選ぶんだよ」


「ねだん?」


「その物を買うのに、どれくらいお金がいるかって数字」


 拓也は棚についた値札を指した。


「ほら。これだったら、このくらい」


「僕のお金で買える?」


「余裕で買える」


「じゃあこれ!」


「もう決めるの?」


 そう聞くと、ノエルは商品へ伸ばしかけた前脚を止めた。


 少し離れたところから、揚げ物の匂いがしている。


 ノエルの鼻先がそちらへ動いた。


「……なんかいい匂いする」


「やっぱそっち行くと思った」


 レジ横のホットスナックが並ぶケースまで行くと、ノエルはすぐに見上げた。


「見えない」


「だろうな」


「タクヤ、見せて」


「はいはい」


 拓也はノエルの身体を抱き上げた。


「うわ……!」


 高くなった視線の先に、揚げ物やソーセージが並んでいる。


「肉!」


「肉ばっか見てるな」


「これ食べたい!」


「じゃあ一個買う?」


「買う!」


 ノエルはケースの中を見たあと、その横の棚へも顔を向ける。


「あっちも見たい」


「まだ見るの?」


「見る!」


 抱えたまま少し移動する。


 高い棚の商品まで見えるようになると、ノエルは一つずつ気になるものを見つけては拓也へ聞いた。


「これなに?」


「パン」


「これは?」


「お菓子」


「これ肉?」


「それも肉入ってるな」


「これも買える?」


「今選んだやつと合わせてもまだ大丈夫」


「じゃあこれも!」


 すぐに決めたかと思えば、別の商品を見つけてまた迷う。


「待って。こっちもいい」


「どっちがいい?」


「ノエルが食べたいやつでいいよ」


「タクヤは?」


「今日はノエルが決めていいよ」


「……じゃあこっち!」


 しばらく店の中を回った末に、ノエルが選んだのはホットスナックと肉の入ったパン、それから小さな甘い菓子だった。


「これ全部いける?」


「大丈夫。まだ今日のお金で足りるよ」


「ほんと!?」


「ほんと」


 拓也は自分用の飲み物を一本だけ取り、レジへ向かった。


 会計になると、ノエルは拓也の足元から台の上を見上げている。


「ここでお金払うの?」


「そう」


 拓也はさっき受け取った千円札と小銭を取り出し、店員へ渡した。


 その手元をノエルがじっと見ている。店員はそんなノエルへ一度目を向けると、少しだけ笑ってから会計を続けた。


 商品が袋へ入れられ、使わなかった分の小銭が返ってくる。


「お金戻ってきた」


「使わなかった分な」


「全部なくならなかった!」


「ちゃんと値段見て選んだからな」


 拓也がノエルを床へ下ろす。


 袋を受け取って店を出ると、ノエルはすぐに拓也の横へ寄ってきた。


「タクヤ」


「ん?」


「もう僕の?」


「そうだよ。ノエルが稼いだお金で買ったんだから、ノエルの」


「僕が買った!」


「買えたな」


 駐車場の車へ戻り、拓也は助手席のドアを開ける前に袋からホットスナックを取り出した。


「これから食べる?」


「食べる!」


「じゃあ落とすなよ」


 包みを開いて渡すと、ノエルはすぐに一口食べた。


「おいしい!」


「よかったな」


 拓也も自分で買った飲み物を開ける。


 ノエルはもう一口食べてから、残っている袋へちらりと目を向けた。


「こっちも僕の?」


「それもノエルの」


「全部?」


「全部」


 尻尾が大きく揺れる。


「僕が買ったやつ!」


 ノエルは嬉しそうにもう一度かぶりついた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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