ワンちゃんの名付け
3日も経てば美人は飽きると申しますが、
3日経っても、イチイ嬢は、不意打ちのお兄様に鼻血を吹き出しています。
ただ、不意打ちじゃなければ、会話も成立するようになってきました。
そして週末、シラヌイ様がやって来るということで、庭でのお茶会の準備が始まっています。
シラヌイ様には、イチイ嬢の婚約が決まりそうなので、そのお茶会に参加しろ、という呼び出しをしているそうです。
そして婚約者には双子の妹がいて、イチイ嬢の遊び相手にも丁度いいから一緒に参加している、とも伝わっているそうです。
イチイ嬢と私達でシラヌイ様が来るまで話をすることにしました。
足元には、ワンちゃんも丸くなっています。
「イチイ嬢、ようやく僕達に慣れてくれました?」
「お話が出来るようになって、私、嬉しいんですの!」
「二人をお相手するの、私?!鼻血を出さないように、頑張ります!!」
「「頑張ったら、出ないの?」ものですの?」
お兄様と一緒に、コテン、と首をかしげたら
「うほー、出ちゃう、出ちゃう!!」
あんまりにも鼻血が出るので、ハンカチがもったいないと、廃棄予定の布をハンカチぐらいの大きさに切って沢山用意されるようになりました。
今日も、布が沢山入ったかごがイチイ嬢の隣に用意されています。
「私、イチイ嬢に2つ相談したい事があるんですの」
「ハイ!天使な妹様からのお願い、何でも聞きます!!」
「お願いじゃないですわ、相談ですわ。ワンちゃんにお名前付けたいんですの!
一緒に魔の森で討伐なさるんでしょう?
何かとっさの時に呼んだり合図したり、もう、お名前付けてました?」
「そういえば、名前、ないです。目を見たらなんとなく動けちゃうので」
「すごい信頼関係ですのね!で、私、昨日考えましたの!
エミリオお兄様の〝エ〞イチイ嬢の〝イ〞私の〝ユー〞で
エイユー、英雄ですわ!!」
ぎゅっと両手に握り拳で力説したら
「天使な妹さまの提案なので何でも良いです!!」
あっさり承諾するイチイ嬢。
えぇ…なんでも良いって、それはそれで微妙なんですけど?
「駄犬を英雄…ディって、名付けセンスない?」
お兄様、失礼でしてよ!
「ん?英雄って、なんだ?」
と言いながら、辺境伯様と夫人がやってきたので再び力説します。
「聞いてくださいまし、辺境伯様。ワンちゃんのお名前ですの。
エミリオお兄様の〝エ〞イチイ嬢の〝イ〞私の〝ユー〞で英雄ですわ!
残念ながら、アカシアくんのアが入らないんですの」
ええ、とても残念ですが、と私が答えると
「…魔の森で英雄を叫ぶのか?」
微妙な顔で辺境伯様が尋ねます。
そしてみんなが想像しました。
魔の森で「英雄、こっちに助っ人頼む!」「でかした、英雄!」「やるな、英雄!」と声のかかる方を見れば、ワンちゃんが「ワン!」と吠えて、前足を上げる。
「無いな…」辺境伯様。
「無しよりの無しですね」お兄様。
「…ビミョーかも?」イチイ嬢。
「初めて見る人は、二度見するんじゃないかしら?」夫人。
「え、可愛いくないですか?」私。
え、なんで皆さん、残念な顔してこっちを見るんです?
「あ、英雄をヒーローとも言います。ヒロでどうです?」
結局イチイ嬢も反対でしたのね?
「ヒロ、って感じじゃないなぁ。
それにアカシアくんのアをつけてヒロア、語呂が悪いな。ロアで良くない?」
あ、お兄様、それ素敵かも、と思って、ワンちゃんの顔を見ました。
「ワンちゃん、英雄とロアどっちがいいです?」
と聞いてから
「英雄」
ワンちゃんがそっと目線を反らします。
「ロア」
「ワン!」
…元気にお返事しますのね?
「英雄」
ワンちゃんがびっくりした顔をしましたが、目線を反らします。
「ロア」
「ワン!」
「英雄」
え、まだやるの?って顔でワンちゃんがお兄様の顔を見ます。
「ブフォ」
誰かが吹き出します。ええ、きっと辺境伯様ですね?
「ディ、あきらめて?」
お兄様が私の肩に手を置きます。
夫人、顔を反らして肩を揺らさなくても良いんですのよ?
この日、ワンちゃんの名前はロアに決定しました。




