前世の記憶
聖玉の剣。
自分と友人の顔も名前も思い出せないけど、友人が熱く語っていたのは、覚えてる、ような気がする。
いや、思い出せ、ワタシ!!
ここは絶対大事な所だ、ガンバレワタシ!
ええっと、確か、
「聖玉の剣」と言う漫画。
平民の主人公の住む村が、魔物に襲われ、幼馴染みと山へ逃げ、そこで見つけた洞窟の中に逃げ込むと、突き刺さった剣をみつける。
すると、いきなりその剣が主人公の頭の中に語りかけてきて、しかもそれが、魔王を倒す聖玉の剣だと判明する。
主人公は、見事その剣を抜く事に成功し、魔王を倒す旅に出る。
そこで、魔物を倒す少年が居ると話題になって、王都の学園に放り込まれ、その中で、幼馴染みは治癒の力に目覚めて聖女になったり、王子と絆を結んで仲間になったり、姫騎士やら女魔導師やらが主人公に惚れた腫れたで、なんやかんやで魔王を倒す仲間になったり、手に汗握る王道ファンタジー漫画。
で、大事なのが、私とお兄様の立ち位置。
私たち双子は、主人公に嫉妬しまくり、邪魔をしまくる敵方として登場する。
何でそうなるかというと、家庭環境の酷さから、性格が歪みまくってひねくれまくる。
周りから好かれ、絆を築き、自分達が望んでもどうしても手に入らなかったものを、軽々と手に入れていく主人公が、妬ましくて仕方ないのだ。
そんなに歪みまくって、周りには警戒心MAXな野良猫状態なのに、妹には蕩けるような笑顔を見せて、一途に妹を大事にするエミリオを、友人は大層推していた。
そうだ。
その最愛の推しが死んだと、はた迷惑、げふんげふん、な、電話で呼びつけられたのだ。
お兄様が、どうやって死んだのか?
魔王になった、と言っていた。
は?ほわ~い?!!
友人が語ってた、魔物や魔王が生まれる仕組み。
人間の負の感情が集まり、一定以上になると、瘴気溜まりが発生し、そこから魔物が生まれる。
つまり、魔物は、妬み、嫉み、憎悪、破壊願望、そんな物が凝り固まってできたものなので、人間を見ると、その感情のまま、襲わずにはいられない。
そして、倒されることで浄化されるという、ある意味、非常に悲しい性質のモノ達なのだ。
戦争や、悪政などで人間の負の感情が貯まりに貯まると、
とんでもない濃さの瘴気溜まりが出来、そこから人型の魔物が生まれ、
それが魔王となり、
魔王自体が強力な瘴気溜まりのような役割となってしまい、
強力な魔物が生まれ続け、
魔王を倒すことでしか、魔物の活性化を止められないのだ。
とどのつまり、人間がすべて悪いんじゃねぇ?
という話になるのだが。
この魔王システムは、人間に、
内戦?
戦争?
権力闘争?
私腹を肥やしてるヤツがいて暴動起こる寸前ですけど?
だけどさぁ、そんなことしてる場合じゃないよね?って、
全人類共通の敵を用意することで、協力する絆を思い出させるためのものなのでは?
というのが、ツウ達の解釈だった。
で、この魔王を倒すために必要なのが、
聖玉の剣。
魔王が生まれると適正を持つ者の前に現れ
魔王を倒すと、一緒に砕けてしまう、という物。
これも、倒されるために生まれてくる魔王のための餞なのでは、というのもツウ達の解釈だった。
しかし、ここでツウの皆様方、ハタと気づいた。
聖玉の剣は、魔王を倒すためのもの。
そのために主人公は、魔物を倒し、経験値を積み、友情を育み(そのために、当て馬悪役の私達が登場し)、国民達の支持を集め、確実に成長している。
が。
魔王の話がひとつも出てこないのだ。
聖玉の剣は、魔王が生まれると出てくる物という前提なのに、魔王側の動きがひとつも語られない。
まぁ、でも、主人公の成長物語だから、ラスボス様は最後にどどーんと出てくるだけかと思いきや。
魔王になった人が出た。
魔王は、瘴気溜まりから生まれてくるんじゃなかったんかぁい!
というツッコミが関係各所から上がったとかなんとか。
しかし、
人間側にそう伝わっている、文献にはそのような記載がある、というだけで、
神の啓示がそう告げたわけでも、
運営が公式ガイドに載せたわけでもなかった。
そして、友人が号泣しながら、魔王になったと語ったのが、
私の最愛のお兄様である。




