8.森はとても危険でした。
リオは、護衛二人だけを連れパステル王国まで2日馬を走らせた。
パステル王国は、ワーナレータ王国の南に位置する高い崖に囲まれた水の都。
獣人が統治し、魔導具に使われる魔鉱石が豊富にとれる鉱山を持つため、過去に何度か他国から攻め込まれたが、あっと言う間に返り討ちにした事で国をあげて攻め込んでは来なくなった。が、未だに他国からのスパイや盗賊を仕掛けて来るという嫌がらせが続いていた。
リオは、先触れの手紙を出していた為、屈強な男が守る門をあっさりと通過し、中央にそびえ立つ城へと向かった。
パステル王と王妃に謁見する為に。
うやうやしく挨拶をし、
「ゆっくり話をしたいから別室で話をしないか」
と言うパステル王と王妃が顔を見合わせてニッコリ微笑むと手を繋いで立ち上がった。
別室に移動するとお茶の用意をさせ護衛や他の者をさがらせた。
「それで、大事な話とは…なんだろうか」
リオは、パステル王への手紙に詳しい事は書かず、大事な話があると書いたからだ。
「はい、陛下の消えた宝石の件で参りました」
パステル王と王妃は目を見開いた!
「今…なんとっ!?」
リオは、落ち着いて聞いてくださいと言うと静かに話を始めた。
ある程度話し終わった頃、扉をノックする音が聞こえた。
「リオ様に緊急報告です」
リオは、立ち上がって扉の前にいる部下から手紙を受け取ると、それを読んで険しい顔をした。
…………
………
……
くぅ…きゅるるる…
うーん。やっぱり、小さな木の実だけじゃお腹はふくれないな…
無事に川を見つけて喉を潤す事ができたけど、空腹の音は止まらない。
どうにか魚が捕れないかと、浅瀬でバシャバシャ小魚を追い掛けてみたもののうまくいかなくて、結局びしょ濡れになっただけだった。
こんな調子じゃ…恩返しの狩りなんて出来る気がしない。
ため息をつきながらブルブルッと身体の水滴を飛ばした。
この川をたどれば、目的地に着くはず!
すこし木陰で休んだ後、とぼとぼと川沿いを歩き出した。
はぁ…
リオ様に会いたい…
ふと、そんな事を思っては、
ダメダメ!一人で生きて行くんだからと言い聞かせる。
この数カ月の出来事が走馬灯の様におもいだされて…
涙が目に滲む。
しばらく歩いていると、
バシャン!バシャン!
と、魚が飛び跳ねる音が聞こえた。
もしかしたら、間違って陸に上がった魚がいるかもしれないと思ったわたしは、音のする場所へ走り出した。
そして、目の前の光景に恐怖した。
巨大な熊が川の中で暴れていたからだ。
立てば2メートルはあるだろう、その熊は、川の中の魚を手で弾き飛ばし、陸に打ち上げられた魚はピチピチと跳ねていた。
その様子にしばらく見入っていたわたしは、熊と目があった瞬間、走り出した。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
ムリムリムリムリムリムリ!
熊が追いかけてきているのか確認する事もできないまま、必死に森の中を闇雲に逃げた。
はあ…はあ…もう、走れない…。
力尽きたわたしは、目の前の大きな木の下の茂みに身を寄せた。
ブルブルと恐怖で身体が震える。
よく考えれば、水飲み場である川には色んな動物が集まるのは当たり前で、小さな弱い生き物は、周囲を警戒するのが当たり前…なのに、わたしは無防備にも程があった。
しばらくして、ドシンドシンと音がする。
わたしの匂いを辿って来たのか、遠くに黒い熊の姿が見えた。
どうしよう…
どうやら、獲物としてロックオンされていたらしい。
あっ…
川でずぶ濡れになったせいで泥汚れが落ちて白い毛の塊に戻っていた事に気付いても、今更遅かった。
魚より興味をそそったのか…美味しそうに見えたのか
どんどんこちらに近づいて来る。
グルルル…グオオオオ
威圧する様な声が響き渡った。
その声を聞いた瞬間、腰が抜けた様に身体が動かなくなった。
どうしよう…今度こそ…ダメかも
怖いよ…痛いのは嫌だ。
目を強く閉じて俯くしかなかった。
リオ様…助けて!
心の中で名前を叫んでも虚しいだけ
………ん。
…………
……
………あれ?
おかしいな…。
グオオオオ!グルルルルルル!
声はずっと聞こえているのに襲って来ない。むしろ、暴れている音がする。
恐る恐る目を開くと、熊に噛み付く大きなオオカミの姿が見えた。
神々しい黄金の毛並みをした巨大なオオカミは、熊の息の根を止めるかの様に噛み付いて離れなかった。
そして、とうとう熊を倒した。
その光景を呆然と見ていたわたしは、ホッとしたと同時に、焦った。
同じオオカミだとしても…
あの巨大な熊を噛み殺す程の圧倒的な強さ…
わたしなんて瞬殺だろう。
黄金のオオカミは、わたしの存在に気づいたのか、迷わず此方に近づいて来る。
そして、茂みを掻き分けわたしを見下ろした。
ああ…もう、ダメ。
そう思った瞬間。
「きゃう!!」
思いっきりベロン!と顔を舐められた。
え?なに?え?え??
黄金のオオカミは、わたしを抱き込むように座ると、わたしに頬ずりをして匂いを嗅ぐと、今度は身体中をベロンベロンと舐め回した。少し血の匂いがする。
やぁ…やだ…何これ?
訳がわからない。
どうやら、わたしを食べるつもりはないらしい。
たぶん。
自分のモノだとマーキングするかの様に舐め回されているのに、なぜか嫌ではなかった。
……なんだかリオを裏切ってしまった様な、複雑な気持ちになる。
満足したのか、わたしの顔をまじまじと見つめたあと、私を抱えたまま寝息を立てて眠ってしまった。
なんなの?このオオカミ…
逃げようにも抱き込まれすぎて抜け出せないし、逃げたとしても…こんなに身体中に匂いを付けられたらすぐ見つかってしまう。
どうやって、逃げようかと考えながら…黄金のさらさらの毛並みに包まれて…不覚にもわたしは、眠ってしまった。




