4.感謝の気持ちを文字にしました。
今日も今日とて膝の上
リオは忙しく書類に目を通しては、執事や連絡係と難しい話をしている。
「ミュウ、少し出てくるよ。すぐ戻ってくるからね」
「みゅ…」
わたしをギュッと抱きしめた後、椅子の上に座らされた。
どうやら、お留守番らしい。
ひとりになった部屋の中
わたしは執務机の上に登り、一枚の白紙の紙を拝借した。
口にペンをくわえる。
リオに感謝の手紙を書く事にした。
何とかして、お礼の気持ちを伝えたい…
なんて書こうかな…
うーん…難しいな
なんとか…『ありがとう』と書いて肉球をサイン代わりにペタンと押した。
「きゅむ…」
よし!
はじめてにしては、上出来じゃない?
ああ…、この手どうしよう
インクがついた右手の肉球は、仕方ないから数枚の白紙の紙でペタペタと付かなくなるまで拭き取った。
まるで、イタズラをしたかの様な惨状だけど許して欲しい。
ふぅ…
それにしても…
いつまで立ってもリオは帰って来ない…扉も閉まっていて出て行く事ができないし。
仕方なく椅子の上で昼寝する事にした。
………
……
…
「ミュウ!ミュウ!」
ん…。
「起きてくれ!ミュウ!」
ん?
「きゃう…!」
眠たい目を開けると目の前にリオの顔があって、驚いた。
「ミュウ!君には自我があるんだね?」
「みゅ…」
「そうか…、そうか…よかった!」
脇腹を掴んで高い高い状態からの抱きしめに睡魔も何処かへ吹っ飛んだ。
自我…は、あるけど
だから、何だというのだろう…
「君は、獣人だね」
「みゅん…」
頷いてみせた。
「ああ…神様、感謝します!」
なんか、すごく喜んでる…
イヌスイしながら、ため息ついてるけど大丈夫かな…
「ああ、そうだった!手紙を読んだよ。僕の方こそありがとう!嬉しいよ!この手紙は一生の宝物にする!」
「みゅん」
へ?宝物って大袈裟な…
額縁に入れて飾ろうかなって聞こえたけど、聞かなかった事にした。
そして…
その日から、わたしの寝床は客間じゃなく…リオの部屋に移った。
なんで…?
………
……
…
「そうか、君の名前はミュアと言うんだね」
「みゅ」
「そうか、可愛い名前だ。ミュア…」
「……」
はじめて名前を呼ばれて恥ずかしくなった…
無意識に尻尾がブンブン揺れる…
わたしが獣人だと分かった後、リオの態度は一変した。
よく話しかけてくるし、食事も時間がある時は共にとる様になり、一緒に過ごす時間が増えた。
今日は、会話が楽にできるようにと特別に作られた魔導具を使って会話した。
文字のボタンを押すと文字が画面に表示される、キーボードが大き目のまるボタンでノートパソコンのような形をしていた。
今のわたしには、とてもありがたい魔導具!
だって、今まで誰とも会話できなかったんだから
嬉しい!
「ミュア…今更だけど僕の名前は、リオ・デミウス・リリライト 公爵家の嫡男だ。父が身体を壊してね。両親は別荘地で療養中だから、僕がこのリリライト領の代理領主をしている。ミュア…ゆっくりでいいから君の事をもっと知りたいな。もちろん、僕の事も知ってほしい。何でも聞いてくれ」
「……みゅ」
公爵家…代理とは言え領主様だったのね
わたしとは…身分が違いすぎる
リオなんて心の中で呼び捨てにしている事なんて言えないわ…
『わたしの話、面白い事ひとつもないです』
そう書いて頭を下げた。
「つらければ話さなくてもいい。いつまでも、ここに居てくれていいからね」
そんなわけに行かない…
働かざるもの食うべからず…
わたしにできること…できることは…
いくら考えても思い浮かばなかった。
今の私にできることなんて何もなかった…
このままじゃ、タダ飯ぐらいの恥知らずだ。
やっぱり、ここを出て近くの森で暮らしていくしかない。
木の実や薬草、小動物を狩って屋敷に届ける事ぐらいしか恩を返せない。
狩りは苦手だけど…やるしかない
『わたしには恩を返せるものが何もありません。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないので』
「迷惑だなんて思ってないよ!そうだ、じゃあ、僕の話し相手になってくれないか?」
「みゅ?」
え?そんな事で恩返しになるの…?
「ほら、仕事の愚痴とかさ。僕は、あまり親しい友達がいないんだ。話し相手になってくれると嬉しいな」
そうか…
誰にも相談できないなんて…
ストレスためたら大変だもんね…
『わたしなんかでいいのですか?』
「ああ!ミュアがいいんだ!」
はじめて、自分を必要としてくれるの?
なんだか…少しむず痒い気持ちになったけど、嬉しかった。
『私で良ければ』
「よかった!ありがとう!あと…嫌でなければ…これからも、君を撫でてもいいかな?」
少し照れくさそうに顔を赤くしながら言われた。
もふりたいんだ…
『いいですよ』
「ありがとう!嬉しいな」
今もすでに膝の上なんだけど、抱き上げてイヌスイされるのが当たり前の日常になっているから、さほど気にならない。
あれ?わたし…いつの間にかペット化してない?




