2.拾われました。
…………
………
…
ん…
「はやくヒト型になってみろよ!」
「おまえみたいなのがいると一族の恥なんだよ!」
わたしだって…ヒト型になりたい…
「ハハハッ!泥水うまいか?」
やめて!やだ、冷たい…
「兄さん、こいつ木箱につめてここにのせちゃおうぜ」
「お!いい考えだな!」
「きゃう…うう…きゃん!きゃん!」
やだ!出して!やめてー!
「なんだよ!おい!暴れんな!大人しくしろよ!」
「兄さん、この薬飲ませちゃおうぜ!」
「よし!ほら飲め飲め!お、効いてきたか?じゃあな!できそこない!」
やだ…
誰か…たす…け…て…
………
……
…
「おい!大丈夫か?」
「うう、…うきゅ?」
あれ?
目を開けると、わたしを覗く
大きな顔が目の前にあった。
「みゃ!」
うわ!だれ?
驚いて身体を動かした瞬間ズキンと痛みが走った。
いたたた…
「あ、ごめん。驚かせたかな」
「だめですよ。まだ、お医者様にみてもらってないし安静にさせないと」
「ああ、そうだな…」
覗き込むのを辞めた男がにっこり笑った。
え?あれ…わたし、死んで…ないの?
身体に包帯が巻かれ、ふかふかな寝床に寝かされているのに気付いた。
ここ…どこだろう…?
この人…だれ?
まだ、安心はできない。
ズキズキ痛む身体がぶるぶる恐怖で震える。
「大丈夫だよ。ここには君を傷付ける者はいない。安心して休むといい」
そんなの…信じられない。
信じられないけど…あの路地よりマシだ。
今は、身体の回復が先…動けるようになれば出ていけばいいんだし。
反抗して相手を怒らせて、また、痛い目にあいたくない。
そう考えたわたしは、大人しくお世話になる事にした。
………
……
…
骨折やケガは、お医者様の塗り薬と飲み薬であっと言う間に数日で治ってしまった。
この薬…にがいけど、すごい!
栄養失調だからと毎日3食の食事が用意された。もちろん、食べやすいように細かく切ってあって、はじめは、パン粥のようなものから…お肉や野菜がたっぷり入ったスープや果物まで…
ひとくち食べて…美味しくて涙が出た。
「くぷっ…」
ちょっとしか、食べられなかったけど…お腹いっぱい…満足…
お婆さんがやって来た。
「さあさあ、やっとお医者様から許可がでましたよー。さあさあ、綺麗にしましょうねー」
「きゅ?」
さあさあ、さあさあと言いながら抱きかかえられお風呂場へ…
このお婆さんは、わたしの身の周りのお世話係なのだと言う。
どうやら、骨折しているため応急処置だけしてくれたのだろう。未だに身体はうす汚れたまま。そう言えば…お医者様が身体を清潔にしてあげるようにと言っていた。
ワシャワシャと洗われて、大きな桶のお風呂につかった。
久しぶりのお風呂だ…
いい香りがする…
ふわふわのタオルでふかれブラッシングしてくれた。
「ふきゅ…」
さっぱりした…いい匂いする…
「あらあら、まあまあ、坊っちゃんも驚くわね!うふふ…」
え?なに?
坊っちゃん?
嬉しそうなお婆さんがわたしをバスタオルにくるんでお風呂場から出ると、そのまま、部屋を出た。
「うきゅ…」
床からの景色じゃ分からなかったけど、抱きかかえられた今なら、この邸の様子がよく分かる。
これは…すごいお邸だわ。
わたしの家も大きなお邸だった。
3階建ての大きな屋敷で…わたしは、離れの倉庫で暮していたけれど、たまに屋敷に呼ばれた時だけ入る事ができた。廊下のカーペットは青くて、一族の肖像画が沢山飾られていた。
あんまり部屋には入れてもらえなかったけど、黒いカーテンに黒い家具が多かったから暗いイメージしかない。
それに対してここは…カーペットは赤い花柄、廊下には綺麗な花が飾られ、白い家具。とても、明るいお邸に見えた。
どこに連れて行かれるの…?
視線を感じたのかお婆さんは、チラッとこちらを見てニッコリと笑って「大丈夫ですよ」と言った。
コンコン
「坊っちゃん」
「ああ、ばあやか。いいよ」
大きな白い扉を開けると、真ん中には大きな机、窓以外びっしりと本棚に囲まれた部屋にソファとテーブルがある。
ここは…執務室かな?
執務机で書類に目を通しているのは、坊っちゃんと呼ばれている人…ここへ来て最初に見た人だ。
金髪の髪を一つに結び、紫色の瞳をした美青年。
けも耳も尻尾もないし…人間なのかな。
「坊っちゃん、連れてきましたよ」
お婆さんがタオルを外し、わたしを青年に預けた。
「………」
「……んきゅ」
青年は、わたしを抱いたまま何も言わない。
え?
……。
無言のままわたしを見つめているだけだ…
何なの?
狼が苦手なのかな…
それにしては、見つめられ過ぎてて居心地が悪い
もう!何なのよ!
…嫌なの?嫌だったら、離して!
逃げようともごもご動いてもガッチリ掴まれて逃げられなかった。
そして、ぼそぼそつぶやき出した。
「……い、……い」
…い?
……何?
「やばい、可愛いすぎる…」
え?
「んきゅ!」
いきなりギュッと抱きしめられて変な声が出た。
く…くるしい…
食べた物がでちゃう…
「坊っちゃん!まだ、治療したばかりなのですから、そのくらいにしてあげて下さい」
「あ、ああ…悪るかった。大丈夫か?」
わたしを優しく抱き直し何度も撫でてくれた。
誰かに撫でられるのなんて…はじめてだ
温かくて気持ちがよかった。
「くぅ…」
ケガも治ったし…出ていかなきゃ
でも、お風呂入って…つ…かれ…ちゃった…
わたしは、そのまま青年の膝の上で眠ってしまった。
『眠ったな…』
『そうですね』
『ばあや、マリウスに報告と手配を』
『はい、かしこまりました』
『僕はね…今幸せだけど…怒っているんだよ』
『ええ、分かってますよ。わたくしも同じ気持ちです…。お任せ下さい』
『ああ…、頼んだよ』
………
……
…
あれから、10日…
おかしい…
1日3食昼寝付の生活をおくっている。体力も回復して来た事だし逃亡計画を立てようと、屋敷を探索すると必ず…
なんで護衛がついてくるのよー?!
そして、この護衛…すごく足が速いの!
走っても隠れてもすぐ見つかるし、あげくわたしの方が疲れちゃって…最後は、抱っこされて執務室に連行されるのが、ここ最近の流れ。
「また散歩して疲れたのか?」
わたしを抱き上げると必ず首やお腹に頬擦りしてくるこの坊っちゃんは、この屋敷の主でリオと言うらしい。
ネコスイならぬイヌスイである。
「くぅ…」
くすぐったいのよ!これー
テシテシ頭を叩いてもこの坊っちゃんを喜ばすだけだった…
嬉しそうに笑ってるし
この屋敷に来て生まれてはじめて、まともに自分の姿を鏡で見たんだけど…
なんと…見た目は、真っ白なポメラニアン!
たぶん、ホワイトウルフなんだけどな…
5歳の頃は、こんなに毛がフサフサじゃなかった。
兄姉は、父の血を強く受け継ぐ者が多く白い子狼の姿をしていた。
子狼で生まれて来た者が優遇され、猫獣人や他の獣人の兄妹達は、みんな養子に出されたと噂で聞いた。
まるで…子供を量産して選別してる…悪徳ブリーダーだ…ひどい話。
そして、身体が小さすぎたわたしは、見た目も子狼には見えなかったが犬の姿はしているので、5歳まで離れの邸で教育を受けた。
5歳の誕生日を迎えた後、ヒト型になれず失望した父は、わたしを離れの倉庫へと追いやった。
「はあ…、ミュウは癒やしだ」
おしい…わたしはミュアよ…
勝手におしい名前を付けられたけど、気にしない。
だって、そのうち出ていくのだから…
ここで飼われていた方が幸せかも…なんて、一瞬思った…けど
どうせ、お貴族様…お金持ちは…体裁やプライドの高い人ばっかりなのよ…
「まあ、やだわ。こんな薄汚い子が一族にいるなんて!こっちに来ないで!汚らわしい」
「あら、あなた…たしか15番目の…、可哀想に…見捨てられたのね。わたしの子じゃなくてよかったわ。ふふふ」
「あなた、10歳にもなってまだそんな姿なのね」
「わたし、この子の世話するのいやよ。ヒト型になれない落ちこぼれじゃない。わたしに何の得もないわ」
「父上は、おまえの事など覚えていないぞ?会いたくもないんだってさ」
「おまえ本当にホワイトウルフか?なんでそんな変な鳴き方なんだよ。吠えてみろよ!ほらほら!」
みんな…嫌いだ。
大嫌いだ。




