1.思い出したらこうでした。
んん…
もう朝か…仕度して、仕事いかなきゃ。
昨日、佐藤さんにグチグチ嫌み言われたんだよね…行きたくないな
眠い目をこする。
枕元に置いたスマホを手探りで探すけど…見つからない。
あれ?寝てる間にベットの下に落としたかな…
ん…ん?なんか…床がざらざら…するような?
布団は?…いや、床の感触がおかしい…
重たいまぶたを上げて目にした光景に呆然となった…
は?…あれ?
薄暗い路地の様な場所…?
ここ…どこ?なんでこんな所に…?
家は?
硬い床…地面は、ひんやりとして…くさい。
うっ…くっ、くさっ!
辺りを見回してみると…、どうやらゴミ捨て場らしき場所にいるらしい。
ゴミの匂いで鼻がおかしくなりそうだ。
あれ?…でも、わたし、昨日泥酔してこんな所で寝ちゃってたのかな…でも、家まで帰った気がするんだけど…
てか、泥酔するほどお酒を飲んだ記憶はない
パッと手で鼻を押さえようとして違和感に気が付いた。
ん?これ…私の手…は?
小さくて毛が生えてて肉球がついている。グーパーしてみても、まぎれもなく私の手だ。
うそ!なんで?!
ちょうど側にあった水溜りに顔をのぞき込んだ…
暗くてはっきりとは見えないがピンと立った耳が見える。
耳…ケモ耳だ…
あ…
ああ!そうだった…わたしは
「うきゅ!…みゅみゅ…」
言葉にならない声が出た。
走馬灯のように、どうしてこんな姿でここにいるのかを思い出した。
わたしは生まれ変わったのか…
それにしても、なんで死んだのかな。
あ、そうだ…わたし、あの日は…前日にクーラー壊れてて、暑い部屋で寝ちゃったから…まさか、熱中症で…そのまま…
そうか…、毎日激務だったもんな…ほぼ睡眠時間3時間だったし…
じわじわと前世の記憶と現世の記憶が混ざり合って複雑な気持ちになった。
それはそうと…この状況を整理しないと…
今世この世界には、人間以外に亜人がいる。
そしてわたしは、メラデア帝国、獣人の国の宰相をしている父ロストム侯爵の15番目の子、獣人として生まれた。
獣人の力のある者は子孫を残す為、一夫多妻な貴族が多く、わたしの父もそうだった。
兄妹は15人以上、いや…15匹以上と言った方がいいのかな。
獣人の子は、けものの姿で産まれてくる。
5歳の誕生日を迎える日、耳と尻尾のついたヒト型に姿が変わり、ヒト型の獣人として生きていく事になるのだが…稀に、けものの姿から変わらない者がいる。
そのひとりがわたし…ミュアだ。
15歳をむかえた今でもけものの姿のまま…。
父は、ホワイトウルフ。母は、異国人。たぶん、国同士の政略結婚だったのだろうか。母は、もともと身体が弱くわたしを産んで故郷に帰されたらしい事しか知らない。
亜人だったのか…人間だったのか…分からない
母の事を誰かに聞こうにも言葉を話せないので無理だった。
5歳を過ぎてもヒト型にならないわたしは…、年をとるごとに皆から疎まれイジメられ、お世話も食事以外してもらえなくなった。
それでもなんとか、15歳まで生きのびて来たのに…
最後は、12番目、13番目の兄達に薬を盛られ…眠ってる間に木箱に詰められ燐国へ向かう商人の馬車にのせられてしまった。
箱の中でどのくらい眠っていたのだろうか…気づいた時には、見た事もない白い建物が建ち並ぶ町に着いていた。
わぁ…すごい
そんな事を思いながら木箱の隙間から覗いていると、急に木箱のフタが開いた。
「おい!なんだこれは…」
わたしを見つけた鼻の大きな小太りの男は、たぶん商人なのだろう。
乱暴に木箱を引っくり返した。
「きゃう…」
いたた…
「なんだこの汚いいきものは!どこで紛れ込んだんだ。商品が汚れるだろ!おい!そこのお前!どっかその辺に捨てて来い!」
そう言って首根っこをつかまれ路地に叩きつける様に投げ捨てられた。
「きゃん!」
突然の衝撃に息ができない。うめき声すらあげる事ができず、気を失った様だ。
確かに、馬車に乗せられる前泥水をかけられたから…身体はドロドロ、余り物の野菜スープと硬くて古いパンしか食べてないから身体は小さくてガリガリに痩せている。
いたっ!
投げ捨てられた時、強く打ち付けた脇腹に激痛がはしった。
あ、これ骨折してるかも…
きゅるるるる…
お腹の音で空腹な事にも気が付いた。
痛くて動くのもやっとの身体…
食べ物もない…
ここがどこなのかも分からない
話も出来ないから誰かに聞く事もできない…
「みゅん…」
今世15歳で終わったかも…
つんだ。
なんで?…
なんで今更
前世なんて思い出したの?
もっと早く思い出せてたら…
こんなの…
もう…無理じゃん。
わたしは、くやしくて泣きながら力なくそのまま目を閉じた。




