42 手続きは速やかに
ローパー、無数の触手を持つ魔物で、その触手による変幻自在な攻撃は脅威。
ただし触手のスピードはともかく、本体の移動速度はかなり遅いため、レクスにとってこのローパーを仕留めることは容易。
触手の間合いのギリギリ外で光の剣を振り回していれば、襲い掛かろうとしてくる触手を次々と切り落としていって、いずれローパーは無力な存在になるということである。
ただし、ローパーの触手に捕らえられている奴がいなければ…の話である。
「あはっ…あひゃひゃっ! 師匠、これやばいっす。くすぐったすぎて、あひゃっ、や…やめるっすよぉっ。あひゃひゃひゃっ!」
レクスは思った。
こいつ、なんて邪魔な存在なんだ…と。
捕らえられている人間さえいなければ、レクスは光の剣で簡単にローパーを仕留めることが出来た。
だがしかし、光の剣はあまりにも攻撃力が高すぎるため、もしこれがファイに当たってしまえば、ただの怪我程度では済まない。
そして捕らえられてるファイは、くすぐったさのせいで大いに暴れまわっているため、ファイを捕らえている触手も縦横無尽に動き回ってしまい、ファイの体を確実に避けて触手のみに攻撃を当てられる保証はどこにもない。
「はぁ、めんどくせぇ…」
レクスはため息をつきながら仕方なく普通の剣を鞘から抜いた。
そしてその剣でファイの体に絡みついている触手を一本一本地道に切り落としていく。
「くっ…。無駄に弾力あって斬りづらい」
光の剣なら力を入れずとも簡単に斬れるのに…と、愚痴をこぼすレクス。
だがなんとかファイを捕らえていた触手は一通り切り落とすことに成功し、これで厄介なものは目の前から取り除かれた。
「た…助かったっす、師匠…」
「お前は二度と俺の前に出るな」
その後は本当にあっという間、光の剣の一振りでローパーは実にあっけなく討伐された。
そして冒険者ギルドへと戻ってきたレクスはベルのいる受付カウンターへと向かうと、クエストの達成報告よりも先にベルに告げることがあった。
「勝手に登録したパーティー、今すぐ解消しろ」
「ちょ…ちょっとレクスさん、落ち着いでください。レクスさんが色々言いたいことあるのも分かりますけど、ファイちゃんはまだ新人なんですから…」
「新人なら何やっても許されるわけじゃねえだろ」
「そ…それは…まあ……」
レクスはかなり本気で怒っているようである。
「ファイちゃん、いったい何やっちゃったんですか?」
「薬草採取の護衛でもやっとけと言ったのに、護衛対象つれたまま俺についてきた。そして打撃なんて効かんと言ったのにもかかわらず勝手に突っ込んで捕らえられ、ただ俺の邪魔にしかなっていなかった」
「あー……」
さすがにこれはベルも擁護しようがなかったようである。
「だからさっさとパーティー登録の解消手続き済ませろ」
「ど…どうしましょうか先輩……いない」
ベルはファイのことを任せてきた先輩受付嬢に意見を求めようとしたが、その受付嬢はレクスの怒りを向けられることを恐れたのか、いつの間にか離席していた。
「じゃ…じゃあとりあえず、先輩が戻ってくるまでこの話は保留ということで…」
「そんないつ戻って来るかも分からん奴を待っていられるか。さっさと解消しろ」
「わ…わかりました、解消すればいいんですね。……はい、手続き完了しました」
こうして登録されたその日のうちにパーティー登録が解消されたわけだが、そんなところへ薬草採取を終えたシオンやその手伝いをしていたアナと共に、一応護衛クエストとしてあの後も二人に同行していたファイが戻ってきた。
「あっ、師匠、クエストの報告終わったっすか? 報酬の分け前なら自分はいいっすよ。あんまり大したこと出来てなかったっすから」
「当たり前だ。邪魔しかしてない奴に分け前などあってたまるか。それと、パーティー登録の解消手続きは済ませたから、もう二度と俺に関わるな」
そう言い捨ててレクスはさっさと帰っていった。
だがファイは、そんなレクスの言葉を全く本気にしていない様子。
「まったくもー、師匠もたちの悪い冗談言うんすね。ねー、ベルさん」
「……………」
ベルは目をそらした。
「どしたんすか?ベルさん」
「パーティー登録解消の手続きは本当なの。レクスさんものすごく怒ってたから、もうそうするしかなくって…」
「そんなっ! じゃあ、ダンジョンの攻略はどうなるんすか? 自分と師匠とで最速攻略…」
「それは無理ですよ、ファイちゃん。ダンジョンへはパーティー登録済みじゃないと入れませんから」
こうしてダンジョン攻略の夢を絶たれたファイは、なんとかレクスに考え直してもらおうと、すぐさまレクスを追いかけようとした…が…
「今追いかけるのは逆効果ですわよ」
そんなファイの服をつかんでシオンが止めようとした…ものの、シオンの力では武闘家であるファイを止めることなど出来ず、ファイに引っ張られて思いっきり転倒した。
「きゃあっ!」
「シオンちゃん! だ…大丈夫っすか?」
「へ…平気…ですわ、これくらい。魔法薬なら常備していますから」
ほんのかすり傷程度だが、シオンは即座に魔法薬で回復した。
「あっ、シオンちゃん大丈夫そうっすね。じゃあ自分は師匠を…」
「だからそれは余計にレクスさんを怒らせるだけですわ」
「えーっ! じゃあ、自分はどうしたらいいんすか?シオンちゃん」
「今はとりあえず何もしないでください。そしてレクスさんのことは全てアナさんに任せてください」
「おおっ、姐さんっすか。確かに姐さんなら案して任せられるっす」
こうして怒っているレクスをなんとかする役目はアナに託された…が、急にそんなことを振られても、アナはどうしたらいいか分からずに戸惑っている。
「シオンさん、わたし…何をしたら…」
「何も特別なことをする必要はありませんわ。レクスさんもアナさんに対してならそんなにひどいことを言うとは思えませんし、いつも通り白いゴーレムの話でもしてくれば大丈夫なはずですわ」
「ほ…ほんと…ですか?シオンさん」
「はい。ですがくれぐれも、ファイさんをフォローするような発言だけは禁句ですわよ」
「う…うん」
さすがにそれを言ったら確実にレクスの機嫌が悪くなると、シオンもアナも思っていたようである。




