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40 奪われる平穏

 レクスに逃げられてはなるまいと、必死にレクスにしがみつくファイ。

 そんな光景を浮気現場だと思い込んでしまったシオンは、アナを連れてすぐさまレクスのもとへと向かった。


「レクスさん、これはどういうことですの?」

「どうって、それはこいつが…」

「師匠、誰っすか?この子たち」


 レクスにしがみついたままそう尋ねてくるファイに、シオンは表向き落ち着いた態度で自己紹介を始めた。


「わたくしは魔法学校魔法研究科の一年、シオン・ガーナインと申します。そしてこちらはわたくしの大親友にして、レクスさんにとって最も大切な人、アナ・ハイラムさんですわ」


 大半の人間に対して全く興味がないレクスにとって、神聖魔法ではない光魔法の術式を作ってくれるアナが一番大切な人間ということは間違いではないので、一応シオンは嘘をついてはいない。


「つまり、師匠のいい人ってことっすか?」

「そうですわ」

「……ということは、姐さんっすね」

「えっ?」


 いきなり姐さんと呼ばれてアナは困惑している。


「よろしくっす、アナの姐さん!」

「あ…あのっ…」


 冒険者として登録できる年齢は魔法学校に入学できる年齢と同じで十五歳。

 つまり魔法学校の一年生であるアナより年下の人間は、今現在冒険者の中にはいないわけで…


「わ…わたしより年下じゃ…ない…ですよね?」

「自分十六っす」

「じゃあ、わたしより年上なので、その呼び方は…」

「年齢なんて関係ないっすよ。レクス師匠の女は自分にとっては姐さんっす」

「はわっ!」


 レクスの女とはっきり告げられたことで、アナは頭がオーバーヒートしてちょっと意識が飛んでしまった。


「あ…うぅっ……」

「どうしたっすか?姐さん! 師匠、姐さんの様子がなんかおかしいっす!」

「お前が変なこと言うからだろうが」

「自分、何も変なことなんて言ってないっすよ。それより師匠も隅に置けないっすねぇ。こんなにも可愛い彼女がいただなんて」

「違う」

「またまたぁ、照れなくってもいいっすよ、師匠」

「お前ちょっと黙れ」


 そんなレクスとファイのやり取りを見てシオンは思った。

 自分はアナとレクスの仲を進展させようと色々やっているものの、自分の行いではレクスのいい反応はあまり引き出せないし、それにレクスが本気で怒りそうなとき、自分はそれ以上踏み込むことが出来ない。


 それに対してファイはどうだろうか。

 裏表も遠慮もなく思ったことをそのままずばずば言ってしまううえに、レクスが怒っているような感じでも全く引く様子がない。


 もしかするとこういう人物こそが、レクスにアナを意識させるのに最も有用な存在ではないかとシオンは考えた。

 つまり現状は、このファイという冒険者をレクスのそばに置いておくのが得策。


「ファイさん、レクスさんはこの冒険者ギルド内では孤立しがちな方ですので、今後はレクスさんが一人ぼっちにならないよう、よろしくお願いいたしますね」

「何でお前がそんな余計なことお願いするんだ」

「了解っす!」

「お前も勝手に了解するな!」


 レクスの意見を無視して回りが勝手に話を進めていってしまう。

 さらに…


「それじゃあとりあえず、パーティー登録だけはしておきますね」

「ベル、お前もかっ!」

「いやぁ、だって、先輩が期待のまなざし的なものをこちらに向けていますし」


 ベルにそう言われてレクスがその先輩受付嬢をにらみつけようとすると、すでにその先輩受付嬢は自分の仕事に戻っていて、もうこちらへは視線を向けていなかった。


「くっ…」

「ではレクスさん、早速ダンジョン攻略に向かいますか?」

「行くわけねえだろ。討伐クエストだ、おいしい討伐クエストをよこせ」


 そしてベルは今ある討伐クエストの中から、レクスがファイとパーティーを組んで戦うのにちょうどよくて、なおかつアナが見学してても危険じゃなさそうなのを選ぼうとするが…


「えっとぉ、どれが…」

「ん、いいのあるじゃないか」

「でもレクスさん、それはっ…」

「うるさい、今日はこれに決めた」


 ベルの意見を完全に無視し、レクスが選んだクエストとはいったい何なのか。

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