37 新たなる迷宮
「ではアタシは、魔法の威力減少を限界まで抑えるため、この杖を再度調整してくるとしよう。完成を楽しみに待っていてくれたまえ、姫ちゃんに白い悪魔殿」
ひとまず本日の目的を果たしたルーナは、そう言いながら拳銃を改造した杖を持って去っていった。
だがルーナは帰ったものの、シオンは全く帰る気配がない。
それどころか、レクスの家に上げてもらうことを期待しているような様子さえある。
そう、本日のシオンの目的、それは先日アナが泊まった家がどんな所なのかを、その目で確認することである。
だがそんなシオンの目論見をレクスは薄々感づいていた。
だからこそレクスとしては、絶対にシオンを家に上げるわけにはいかない。
特に、この家にあるベッドは一人用のもの一つのみで、予備の布団すら置いていないという事実だけは絶対に知られてはならない。
「じゃあ、俺はそろそろギルドに行くとするか」
レクスは本日、冒険者ギルドに出向くつもりなど全くなく、家で一日のんびり過ごすつもりだった。
だがその予定を覆してでもギルドに向かうことにしたのは、自分が家を留守にすることでシオンを家に入らせないためである。
こうしてレクスは危機的状況を回避したわけだが……冒険者ギルドのほうへと向かうレクスのあとに、アナとシオンもついてきてしまっている。
「何でお前らまで来てるんだ?」
「レクスさんの戦いを見れば、光の矢開発のヒントが得られるかもしれないからです。見学してもいいですか?」
「勝手にしろ。……で、そっちは?」
「わたくしですか? わたくしは…その、魔法薬の調合に使う薬草の在庫が少なくなってきましたので、レクスさんについていけば安全に薬草の採取が出来るかな…と」
「は? それは普通に護衛クエスト依頼しろよ。つーかただの薬草くらいなら普通に店で買えるだろ」
そう、シオンのやろうとしていることは、ただで薬草採取の護衛をしてもらおうという図々しいことなので、当然レクスはそれを拒否した。
だが、それが図々しい行いであることも、そしてレクスがそれを拒否するであろうということも、シオンにとっては全て承知の上。
「レクスさん、アナさんのことは守ってくださるのに、わたくしのことは守ってくださらないのですね。それはやはり、アナさんだけがレクスさんにとっての特別で大切な存在であるから…」
そう、シオンが図々しいことを口にしたのは、全てこれを言う展開につなげるためである。
「はわっ! シ…シオンさんっ、それは…あのっ…」
そしてシオンの目論見通り、恥ずかしがって慌てふためくアナのいい反応は見られたわけだが、レクスのほうはというと、シオンが大げさに演技じみたセリフを語っている間に、早足ですたすと先に行ってしまっていた。
「手ごわいですわね、レクスさん。ですが勝負はまだまだこれからですわ。ねっ、アナさん」
「な…何の勝負ですか?シオンさん」
「うふふふふふ…」
「シオンさん?」
アナが尋ねても、シオンは何も答えることはなく、ただにこにこと微笑んでいるだけだった。
その後アナとシオンよりも一足先に、レクスは冒険者ギルドへとたどり着いたわけだが、なぜだか今日はやけに冒険者ギルドがにぎわっているようである。
だがそんなギルドの状況などお構いなしに、レクスはとりあえずベルのいる受付カウンターへと向かった。
「ベル、何かいい討伐クエ…」
「あっ、レクスさん、ちょうどいいところに」
ちょうどいいところ…というそのベルの言葉に、レクスは何やら嫌な気配を感じた。
「とりあえず却下で」
「話何も聞かないうちから却下しないでください!」
「でもどうせ面倒なことなんだろ」
「べ…別に、そんなことはないですよぉ……」
と言いながらベルは思いっきり目をそらした。
「やはり面倒ごとなんじゃないか。だったら却下だ」
「だからそういうのじゃないですってば。レクスさん、今のこの状況見て何か気づかないんですか?」
今のこの状況とは、この冒険者ギルドが普段よりもにぎわっているということである。
そしてここにいる冒険者の中に、パーティーを組む相手を探している様子の者が結構多く見られる。
このことからレクスは推察する。
「新しいダンジョンか?」
「そうです。昨日、町の近くに新しいダンジョンが出現したので、皆さんそのダンジョン攻略のためのパーティーメンバーを探しているんです」
ダンジョン、それはこの世界のどこかに突然出現する謎の迷宮。
ダンジョン内は常に魔物が出現し続ける危険な場所であるものの、ここでは異界の品などをはじめとする未知のアイテムを入手できることがあるため、一獲千金を狙う者や、真っ先にダンジョン最深部に到達して攻略者の名誉を得たい者などが、こぞってダンジョン攻略に乗り出そうとしている。
「じゃあ俺には関係ないな」
だがレクスはダンジョンには全く興味がなかった。




