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35 魔法の価値

 アナに協力を申し出てきた魔導具技師を目指す少女ルーナは、その理由を自らの利益のためだと告げてきた。

 そしてそれを聞いたアナは、むしろ少しほっとしていた。


「いくらでいいですか?」

「アナさんっ? いったい何をおっしゃってますの?」

「でもシオンさん、お金で済むのならお店と同じですし、わたしはそのほうが…」


 上級生に頼みごとをすることに結構なハードルを感じていたアナとしては、お金を支払うほうが店で注文するのと同じような感じでいくらか気が楽だった。


「アナさん、何でもかんでも相手の言う通りに従ってはいけませんわ。あの感じですとかなりの額を要求…」

「確かにそうだねえ」

「ほら、肯定してきましたわ。きっととんでもない大金をむしり取る気…」

「いやいやシオン嬢、アタシだって無いところから無理やり金を引き出そうとはしないさ」

「本当…ですの?」

「ああ。結論を言うと、今すぐ姫ちゃんから何かをもらおうって気はない。アタシが欲しいのは、姫ちゃんの魔法の独占契約だ」


 ルーナから独占契約が欲しいなどと言われても、それが何のための独占契約なのかさっぱり分からないアナは首をかしげている。

 そしてそんなアナにルーナは尋ねる。


「白い悪魔殿が使っていたあの光の剣、あれは姫ちゃんとあの人とで作った魔法なんだろ?」

「はい」

「素晴らしい! 明らかに神聖魔法とは異なる光属性の魔法。これまで誰も手を出さなかったその新たなる魔法には、計り知れないほどの価値がある!」

「そ…そうですか? えへへ…」


 アナは光の剣を褒められてかなりうれしそうである。


「だからこそ、アタシはあの魔法が欲しい。あの魔法の技術を魔導具に使うための権利を、このアタシに独占させてほしいってわけさ」

「光の剣の魔導具を作るんですか?」

「まあいずれは作るかもしれないが、今は無理だろうね。出来たばかりの全く新しい魔法なんて、どうせ術式が長すぎて、とてもじゃないが魔導具に組み込めるような代物じゃないだろうし」

「うぅっ…」


 アナは図星を突かれた。


「だからこれは将来のための投資さ。いつか君の作った魔法がもっと洗練されて扱いやすい魔法になったときに、その技術を使用した魔導具をアタシだけに作らせてほしい。どうだい?姫ちゃん」

「いいですよ」


 ルーナの提案を、アナはものすごくあっさり了承した。

 だがしかし、そんなアナにシオンから忠告が。


「アナさん、こういうことはもっとよく考えてからのほうがいいですわ」

「えっ?」

「あの方のおっしゃっているとおり、アナさんの作る魔法にはとてつもない価値があります。だからこそ、杖一つの対価として差し出すのは、どう考えても釣り合いが…」

「別に杖一つとは言っていないよ、シオン嬢。今後姫ちゃんの魔法開発に必要な道具は、何でもこのアタシが作ろうじゃないか」

「ほんとですか?先輩」

「ああ、もちろんだとも、姫ちゃん」


 アナは今後、何か特殊な道具が必要になるたびに作ってくれる人を探す必要がなくなり、ものすごく喜んでいる。


「先輩、何でも作ってくれるそうです。いいですよね?シオンさん、先輩にお願いしても」


 そうアナに聞かれてシオンは考えた。

 アナの作る魔法は、今存在する魔法とは明らかに異なる魔法なため、今後も新たな魔法の開発を行っていくのであれば、いつどんなものが必要になるかは分からない。

 それならば、アナにとってこの契約はそれほど悪いものではないのかと。


「わかりましたわ。アナさんがそれでいいというのであれば」

「はい」

「ですけれど、今すぐにこの場で契約というのはだめですわよ、アナさん」

「どうして…ですか?」

「わたくしたちはまだ、先輩の腕がどの程度のものかよく知りませんもの。ですから契約は、ルーナ先輩の腕をこの目で確認してからですわ」

「わかりました」


 こうしてアナとシオンとの間で話はまとまり、ルーナとの契約はひとまず仮契約ということになった。


「というわけですのでルーナ先輩、アナさんとの本契約は杖の出来栄え次第…ということでよろしいですか?」

「別に構わない…が、シオン嬢、完全に姫ちゃんの保護者だねぇ。ほんとに同級生?」


 容姿と言動が幼く見られがちなアナと、普段は落ち着いて大人びているシオンではあるが、これでも一応同い年である。

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